この連載は、英語の先生でも医師でもない、看護業務を知り尽くした現役看護師が医療現場で本当に使える英会話を紹介します。

検温、点滴、清拭、おむつ交換など医療現場で頻度の高い看護業務に焦点を当て、使えるフレーズを丁寧に解説します。

【看護師の看護師による看護師のための英会話:Episode6】は、「痛みのアセスメント」です。

今日は外国人患者さんを受け持っています。
血圧、脈拍、体温、サチュレーションの測定が終わりました。
次は、第5のバイタルサインといわれる「痛み」について聞いていきます。
痛みのアセスメントMnemonic「OPQRST」を使ってアセスメントしていきましょう。



痛みのアセスメントMnemonic「OPQRSTってなに?」



今日は、Nurse’s Crib Notes①:痛みのアセスメントMnemonic「OPQRSTってなに?」を紹介します。

初登場「Nurse’s Crib Notes」は、現役看護師さん・看護学生さんの役に立つ看護実践の虎の巻です。
「Crib Notes」とは、「虎の巻」という意味です。

1回目は、痛みのアセスメントMnemonic「OPQRST」を紹介します。

「OPQRST」は、痛みのアセスメントのキーワードとなる6つのポイントの頭文字です。
「Mnemonic」とは、「記憶法」です。
みなさんは、太陽系の8つの惑星を「水金地火木土天海」と覚えた記憶はありませんか?
これも、頭文字を使ったMnemonic(記憶法)の1つです。

今日は、「痛みのアセスメントMnemonic「OPQRST」の6つの項目を1つずつ解説していきます。
では、Let get started!

1.Onset(痛みの発症)

「OPQRST」の「O」は、「Onset(痛みの発症)」です。
「Onset」は、“痛みのはじまり”について尋ねます。
いつ、どこで、どんなふうに痛くなったのかを尋ねると、痛みのはじまりがわかります。

「Onset」に関連した質問は、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・いつ痛くなりましたか?
・何をしているときに痛くなりましたか?
・突然痛くなりましたか?



2.Provocation and Palliation(痛みの増悪と緩和)

「OPQRST」の「P」は、「Provocation and Palliation(痛みの増悪と緩和)」です。
「Provocation(増悪)」と「Palliation(緩和)」は、あまり聞きなれない言葉ですよね。
ここでは、どんなときに痛みがひどくなり、どんなときに痛みが和らぐかについて尋ねます。
突然の激痛は別として、患者さんが痛みを感じてすぐに病院に駆け込むことはあまりありません。
自宅で痛み止めを飲んだり、湿布を貼ったりして様子を見たけど良くならないので受診する、というケースが多いのではないでしょうか。
 市販薬を試して効いたかどうかは、知っておきたい「緩和」の情報です。
 一方、体を動かすと痛い、歩くと痛い、食後に痛い、夜間に痛いなどは、知っておきたい「増悪」の情報です。
「Provocation and Palliation」に関連した質問は、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・どうすると痛みがひどくなりますか
・どうすると痛みが楽になりますか
・市販の薬などは飲みましたか



3.Quality(痛みの性質)

「OPQRST」の「Q」は、「Quality (痛みの性質)」です。
「Quality」は、どんな痛みなのかを尋ねます。
チクチク痛いのか、ズキズキ痛いのか、ズーンとする重い痛みなのか、など痛みの表現はさまざまです。
とはいっても、患者さんに「どんな痛みですか」と尋ねると、「えっと、あの……」と自分の感じている痛みをうまく表現できないことが少なくありません。
そんなときは、こちらからヒントとなる痛みの選択肢を提示すると、「あ、それそれ」と患者さんの痛みの性質についてうまく引き出すことができます。
「Quality」に関連した質問は、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・どんな痛みですか?
・どんな痛みですか?鋭い痛みですか、それとも、鈍い痛みですか?

この回は、仮定法「would」の使い方についても、わかりやすく解説する予定です。
そして、数多く存在する複雑な痛みの表現は、Nurse’s Crib Notes ②で詳しく紹介します。



4.Radiating(痛みの動き)

「OPQRST」の「R」は、「Radiating(痛みの動き)」です。
「Radiating」は、どこが痛いのか、痛みは移動していないかを尋ねます。
「Radiating」は「放散する」という意味があります。
一部の参考書やWebサイトには「Radiating pain」=「放散痛」と載っていますが、正しくは間違いです。
放散痛とは、病気の原因部位とはまったくかけ離れた部位に現れる痛みをいいます。
放散痛は、英語で「Referred pain」です。
ただし、どちらも「R」ではじまり、痛みの移動も放散痛の有無も診断のヒントになる重要な情報なので、放散痛も「R」に含めて確認するのがbetterでしょう。
「Radiating」に関連した質問は、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・どこが一番痛いですか? 一番痛いところを指で指してください
・痛みは動いていませんか?



5.Severity(痛みの強さ)

「OPQRST」の「S」は、「Severity(痛みの強さ)」です。
「Severity」は、どれくらい痛いのかを尋ねます。
痛みは、患者さんにしかわからない感覚です。
患者さんが、「痛い、すごく痛い」と言っても、どの程度なのか把握するのは難しいですよね。
そこで、医療現場では痛みの強さを0~10の11段階で評価するNRS(Numerical Rating Scale)が頻繁に使われます。
NRSがサラッと使えるよう「Severity」に関連した質問は、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・まったく痛くないを0、今まで経験した中で一番強い痛みを10とすると、今の痛みはどれくらいですか?
・どれくらいの痛みなら我慢できそうですか?



6.Timing(痛みのタイミング)

「OPQRST」の「T」は、「Timing(痛みのタイミング)」です。
「痛みのパターン」と言ったほうが、しっくりくるかもしれませんね。
「Timing」は、いつ、どんなときに、どれくらい痛みが続くのかを尋ねます。
実は、この「Timing」は、最初に紹介した「Onset」と被るので、「O」を省くことがあります。
個人的には、「Onset(発症)」はすぐに聞きたい情報なので、「O」と「T」を分けて紹介しています。
「Timing」に関連した質問フレーズは、以下のフレーズを紹介します。

【質問フレーズ】
・ずっと痛いですか
・痛みに波はありますか


いかがでしたか? 痛みのアセスメントMnemonic「OPQRST」の6つのポイントが少し見えたでしょうか?
次回は、「OPQRST」の「Onset(発症)」について尋ねるフレーズを詳しく紹介します。

では、Let’s wrap it up for today. Have a good one.(今日はこのへんで、またね~)



佐藤まりこ
生まれも育ちも北海道。しかし、寒いのが苦手で大学卒業とともに上京し大学病院に勤務。さらなる暖かさを求めて2009年、米国・ロサンゼルスに留学し、翌年California RN(Registered Nurse) Licenseを取得。サンディエゴの総合病院で急性期病棟実習を修了後、内視鏡センターに勤務。帰国後は、看護師・医療通訳・医療翻訳を兼任しながら大学病院に勤務中。

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