2023年5月に『マンガと図説で見てわかるICF(国際生活機能分類)の使いかた』(詳しくはこちら)が発売されました。本書は、回復期リハ領域で患者さんの全体像を把握し、多職種チームで情報を共有するための必須のツールとなっているICFの活用実例を、マンガを使ってわかりやすく解説する一冊です。今回は本書に収載されている第1章「ICFのはじまりと変遷~なぜICF?~」を全文公開します。

●執筆
及川惠美子
一般社団法人日本ICF協会 代表理事



では、ここからは「ICFのはじまりと変遷」をたどってみましょう。ポイントは、「社会の変革」と「人権」です。「産業革命」を歴史的なターニングポイントとして、「国際統計」の発展におけるICFの誕生と、その理念や本質に迫ります。

ICFの歴史的背景

11~13世紀ごろの「十字軍遠征」の失敗、14世紀の「ペスト」の大流行から18世紀に至るルネサンス・復興~大航海時代という時代を経て、領主・荘園による農業中心だったヨーロッパ社会が大きく変わります。

ひとつは産業構造の変化です。商業・貨幣経済の発展に伴い、新しい「海外交易による富と資源」を求め、地球規模の海洋進出、「植民地」獲得に乗り出します。もうひとつは国家のあり方の変化です。自由競争・資本主義経済の社会が始まり、さらに自然科学の進歩と啓蒙思想の広まりが、国家のあり方を根底から見直し、「人権」を求める機運を高め、近代国家へ進んでいきます。

「産業革命」前…さまざまな社会問題~国際統計の源流

こうして迎えた「産業革命・前夜」ですが、ここで立ちはだかるのが繰り返すペストでした。特に1665年のロンドンでの「大流行」は有名で、あのニュートンが大学閉鎖で故郷の実家に戻っていたときに、リンゴが落ちるのを見て「万有引力」を発見したという有名なエピソードもこのときのことでした。

当時は、都市部へ労働人口が流出する一方で、失われる労働力が社会の新たな課題となり、生産性の向上を目指して「工場化」が進みました。それに伴い技術革新が起こり、ついに「産業革命」の時代へと入りました。

「産業革命」による急速な工業化は、大きな「社会の変革」と同時にさまざまな社会問題をもたらしました。都市部では人々の生活様式も大きく変わり、さまざまな問題を抱えるなかで、人々の健康や公衆衛生に対する問題意識も高まりました。

そうした問題に対して、その実態を把握するために「統計」というものが注目されるようになり、「国際統計」の源流が始まります。

「産業革命」後…近代統計学 ~ 国家運営の基礎として

この時代、もうひとつ押さえておきたいのが、17世紀の「自然科学」の急速な進歩と、18世紀の「啓蒙思想」の広まりです。今までなんとなく信じられてきたものを、理性や知識によって見直し、科学的根拠に基づいて論理的に明らかにしようという思想を育て、人間や社会、国家のあり方も根底から見直すという動きとなりました。

その流れは「人権」を求める機運を高めるとともに、資本主義経済や自由競争社会を生み出し、やがて「アメリカ独立戦争」や「フランス革命」を経て、市民革命の連鎖による「近代国家」の形成へとつながります。2世紀に渡る世界規模の動乱、国家同士の争いの時代への突入です。下の年表を見ると、「近代」といわれる時代は、国家間による世界規模の戦争・動乱の連続の時代だったことが、おわかりいただけると思います。

こうした近代国家への大きな変革のなかで、出生や死亡、疾病など、社会統治に関連深いデータに統計学的法則が見出されるようになり、統計データの重要性が高まります。こうして、国家運営の基礎として「国際統計」が重要視されるようになり、「近代統計学」が確立されていきます。

書籍紹介

マンガと図説で見てわかるICF(国際生活機能分類)の使いかた

マンガと図説で見てわかるICF(国際生活機能分類)の使いかた
回復期リハスタッフの“わからない”が“わかる”に変わる!
「生きること」へのリハビリテーションに向けて


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ICF(国際生活機能分類)は、回復期リハ領域で患者さんの全体像を把握し、多職種チームで情報を共有するための必須のツールとなっている。しかし、完全に使いこなせているかと訊かれるといまひとつ自信が持てない…。そんなICF活用の実例を、マンガを使ってわかりやすく解説する。
▶本書の書評を読む

発行:2023年5月
サイズ:B5判148頁
価格:3.630円(税込)
ISBN:978-4-8404-8176-2
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申し込み締切:2022年8月23日(水)
※予定数に達し次第 受付終了となります
対象:医療従事者
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