みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の選びかたの7回目です。
第6回目では、「吸引流量の多い吸引器を選ぶ」これが、在宅医療では重要ということをお話ししました。
ポータブル吸引器の吸引圧を作り出すエネルギーは、吸引流量にあるからですね。
今回は失敗しない吸引器の選びかたをお話ししましょう。
吸引器は呼吸をするための気道や肺胞をきれいにする機器で、命の砦となる医療機器です。
気管切開や喉頭気管分離をしている小児がおうちに帰るときには、必ずポータブル吸引器を購入してもらうことになります。
この購入では、小児慢性特定疾病医療費助成制度や身体障害者手帳などによる日常生活用具給付事業があります。
この対象となる方は、吸引器の購入において、最大56,400円(給付限度額)の助成があります。
なお、所得が多いご家庭では一部自己負担があります。
そして、この助成は、吸引器の耐用年数が5年とされているために、5年に1回しか支給されません。
「吸引器の購入に失敗した」「もっとパワーのある吸引器にしておけば良かった」と思っても、助成金が出るのは5年後になりますので、追加で購入する場合は自己負担になります。
病院では、この助成金以内で購入できるものを紹介されることが多いと思いますし、購入されるご家族も、助成金以内で買えるものを選ぶというのが、通常の考えでしょう。
しかし、5年に1回しか出ない助成金です。
せっかくなら満額をもらって、しっかりとパワーのあるものを購入しましょう! というのが私の考えです。
1万円程度の自己負担があるかもしれませんが、5年間、1,825日で考えると1日あたり5円です。
命の砦の吸引器
毎日使う吸引器
目の前の出費を気にするよりも、5年間、失敗したと思わないパワーのある吸引器を、ご自宅に置くメインの吸引器として準備しましょう。
実は、吸引器は湿気を吸う機器なので壊れやすいです。
吸引器の内部に、分泌物がべったりとくっついて動かなくなることもあります。
使えなくなったら、命に関わりますね。
また、お出かけはたくさんしてほしいです。
私は、バギーを作るときは、パワーのある吸引器が載せられるように設計してもらいますが、パワーのある吸引器は大きくて重たいので、持ち運びには適していないのです。
残念ながら、みなさんがほしいと思う吸引器の条件とは相反する関係があります。
パワーのある吸引性能 → パワーのある吸引ポンプの仕様 → 大きくて重たくなる
長持ちするバッテリー → 大きくて重たくなる
こんな関係です
ですので、メインの吸引器が故障したときの対応用として、そしてお出かけ用としてセカンド器を準備することをお勧めします。
セカンド器には、持ち運びに便利な小型で軽量の吸引器を選んでも良いでしょう。
気管切開や喉頭気管分離をしているお子さんが使うのに理想となる、吸引流量30L/分のパワーを持ち、バッテリーの機能を有する吸引器で、日本で入手できる機種は何になるでしょうか。
1.新鋭工業社:ミニックDC-Ⅱ 排気流量 30L/分 定価90,000円
2.小池メディカル社:ヨックスポルタ S901 排気流量27L/分 定価130,000円
この2機種になります。
「排気流量」の表示になっていますので、吸引流量はそれよりは1割程度少ないと考えてください。
助成金+10,000円程度で購入できるのは、ミニックDC-Ⅱになるでしょうか。
筆者は、気管切開や喉頭気管分離の方に吸引器を紹介するときは、ミニックDC-Ⅱと吸引流量が13L/分程度でバッテリーで使えるもの(助成金内で購入できるもの)の3種類ぐらいの資料を持って、それぞれのメリットとデメリットを説明しています。
さらに、医療機器業者さんと値段交渉をして、注文書を作りました。
筆者が作成した、この注文書でご購入される方には、助成金の支給手続きも行っていました。
以前、私が働いていた小児専門病院では、吸引器を必要とする方は年間に30名ぐらいでした。(在宅医療を導入する新患は年間100名程度でしたが、私は在宅専門の業務をしていたわけではありません)。
一人ひとりに説明して対応するのはとっても大変でしたが、失敗しない吸引器の購入のお手伝いができたと思っています。
気管切開や喉頭気管分離のほとんどの患者さんが購入されたのは、ミニックDC-Ⅱの前機種であるミニックDCです。
「吸引できない」というクレームはありません。
それよりも、「セカンド器に13L/分程度の吸引器を購入したけど、やっぱりダメだから、セカンド器としてミニックDCを追加購入した」とか、「もうミニックDC無しでは在宅は考えられない」という声ばかりが届きます。
買い替えも、ミニックDCを選ぶというリピーターがほとんどでした。
「吸引できない」という声が聞こえてこないということは、在宅生活が順調で、肺炎になることも少なく、入院することも少ないということです。
吸入療法をするのは人工呼吸器を使用していない患者さんだけで、朝と晩の2回ぐらい。
人工呼吸管理の患者さんには吸入療法を導入したことはほぼありません。
吸入療法を導入しなくて済んだ理由としては、人工呼吸器と一緒に使う加温加湿器の選択と設定がとても重要なポイントになります。
そして、しっかりと吸引できる吸引器もその一端を担っているのです。
パワーのある吸引器は高価ですが、他の吸引器と比較して故障も少ないのです。
さすがにしっかりと作られています。
大きくて、重くて、高額。
ですが、命の砦となる吸引器の1台目に選ぶときは、パワーのあるものを。
決して安い買い物ではありませんので、十分な検討を行って選んでいただければと思います。
次回は、パワーの弱い吸引器で、どうしたらしっかり吸引できるのかについて説明していきます。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 八代映子
呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
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著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
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