みなさん、こんにちは!
第10回目より在宅酸素療法の装置の選び方を始めました。
前回は、酸素富化膜方式の酸素濃縮器について説明しましたが、今回は、一番多く使用されている酸素濃縮器である「PSA(Pressure Swing Adsorption)方式」 について説明します。

PSA方式 は、吸着式(吸着型)とも呼ばれ、ゼオライトというセラミックを利用した装置です。ゼオライトは、沸石とも呼ばれる天然鉱物で、触媒や脱臭などの用途にも広く使用されています。

●ゼオライトの利用法
・粉末洗剤
・排水処理・水質浄化
・土壌改質
・畜産での畜産用添加物・脱臭
・工場での廃油処理・悪臭除去

ゼオライトはさまざまな用途として使用されています。水質浄化については、東日本大震災による福島第一原子力発電所の火災によって流出した放射性物質が海で広がるのを抑える対策の一つとして、汚染水が流出した場所の周辺に、放射性セシウムを吸着する効果があるゼオライトを海に投入しています。

また、ゼオライトは空気中に約78%存在する窒素を吸着するという特性も持っています。この特性を利用して高濃度酸素を作り出しています。

ゼオライトを利用したPSA方式の酸素濃縮器の原理はのとおりです。
①コンプレッサーにより室内の空気を圧縮し、ゼオライトの入ったシーブベッドに送ります。
②ゼオライトは高圧で空気中の窒素・水分等を吸着し、減圧で窒素・水分等を放出します。
③ゼオライトの窒素を吸着する量に限界があるため、2本のシーブベッドの片側が加圧吸着(高濃度酸素を作っている)しているときに、反対側では減圧脱着(ゼオライトに吸着した窒素を洗い流す)されています。
④これらを交互にくり返すことにより、連続的に高濃度の酸素を取り出しています。



PSA方式の酸素濃度は90%程度で、病院の純酸素まではいきませんが、高濃度の酸素を作ることができます。
酸素濃縮器の流量は3L/分型が主流ですが、流量が多くなると若干酸素濃度が低くなったり、酸素濃度が変動しやすくなります。

近年では、在宅ハイフローセラピーが診療報酬の適応となり、高流量型の酸素濃縮器の必要性が高まり、5L/分型などの高流量タイプの酸素濃縮器も増えている状況ですが、高流量型になると本体のサイズは大きくなります。また、高流量タイプになると、設定流量の幅が大きくなることや低流量の設定ができなくなり、用途に合わせて選択する必要があります。

酸素濃縮器は、電源を入れて作動させても、すぐに高濃度酸素が出てきません。高流量になるほど、この傾向は大きくなります。また、ゼオライトで窒素を吸着する前に水分を除去していますので、酸素濃縮器から出てくる酸素は乾燥しています。

さらに、ゼオライトは脱臭の効果もあるのですが、実際には、においを取るのは難しく、投与される酸素には周囲のにおいを含んだ酸素が投与されることになるので、このにおいをいやがる患者さんもいます。



乾燥した酸素に対しては、加湿器を利用するのが良いのですが、日本の酸素療法のガイドラインで、「3L/分以下の酸素では加湿しなくてもよいことがある」という表記があることから、加湿器が付属されていない酸素濃縮器が増えています。

しかし、このガイドラインは成人を対象にしています。換気量の少ない小児では、換気量に対する酸素量が多くなるため、鼻粘膜刺激が強くなったり、分泌物が硬くなったりすることもあるので加湿は不可欠ではないかと考えています。乾燥した酸素に対して、本体内部で部屋の湿度程度に加湿する「うるおい機能」を有している装置もあるので、装置の選択として頭に入れておくとよいです

最近の酸素濃縮器にはバッテリーが内蔵され、停電時や災害対策も考えられています。さらに、小型化され持ち運びが可能な酸素濃縮器も増えてきました。しかし、設定できる酸素流量に制限があったり、リュックサック型では本体の熱で背中が熱くなったり、携帯できる時間に限度があったりと、まだまだ発展途上にあります。


今回は、PSA方式の酸素濃縮器について説明しました。
次回は、酸素濃縮器を使用するにあたっての注意点について説明したいと思います。

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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