みなさん、こんにちは。
第13回目は酸素ボンベについて説明しました。
今回は、液体酸素装置について説明します。

在宅酸素療法といえば「酸素濃縮器と酸素ボンベの組み合わせ」というのが一般的でしょう。
液体酸素装置なんて聞いたこともないという方も多いかもしれません。
でも、私が埼玉の子ども病院で働いていたときの在宅酸素装置は、7割の方が液体酸素装置を使用していました。
一度使用するとやめられない。
生活するにあたって、とても益が多いのです。
誰でも使用できるということではないのですが、使用することによるメリットやデメリットを説明していきましょう。

その前に、液体酸素装置の仕組みを知っておきましょう。
酸素の沸点は-183℃です。
酸素は-183℃より低い温度にすると液体になります。
ということは、液体化した酸素は、-183℃より温度が上昇すると気体になるのです。

「液体酸素なんて使用したことないよ!」
なんて答える医療者も多いかもしれませんが、大きな病院では、配管から流れてくる酸素のもとは液体酸素なのです。
病院の外にコールドエバポレーター(CE)と呼ばれる液体酸素が入ったタンクが設置されています(写真1)。

写真1 コールドエバポレーター(CE)



このタンクは、温度が下がらないように魔法瓶のような構造になっています。
タンクに入った液体酸素が気化して、圧力調整されたものが病院のICUや手術室、病棟に設置されている酸素アウトレットから流れてくるのです。
液体酸素は電気を使用しないので、停電が起きても病院の酸素は供給され続けます。

液体酸素は、酸素濃縮器のように部屋の空気から酸素を作っているものではないので、酸素濃度は100%の純酸素です。
ですので、無臭です。

液体酸素の比重は0.808で水より少し軽いです。
そして、1Lの液体酸素は気体化すると860倍の体積の酸素になります。

在宅液体酸素装置は、大きいもので45Lほどの液体酸素が充填されています。
ということは、45L×860倍=38,700Lの酸素が作れます。
そして、液体酸素だけでも36Kg(45L×0.808=36Kg)の重さがあるのです。
本体(親機)の総重量は80Kg弱の重さになります。
先ほどお話した通り、液体酸素が気化して酸素が作られるので、電気の必要はありません。
停電が起こっても、酸素が止まることはありません。
とても重たいので、よほどのことがないと倒れることはありません。
東日本大震災では埼玉県もかなり揺れましたが、倒れたという報告はありません。


在宅酸素を取り扱っている業者さんは、プロパンガスなどの家庭用ガスなども取り扱っていることが多く、重たいボンベを運ぶのには慣れているのですが、さすがに80Kgとなると容易に運ぶことができません。
一戸建ての家であれば1階に設置したり、3階程度の外階段があるアパートであれば、どうにか運んでくれます。
しかし、エレベーターのないマンションの4階となると、酸素業者さんから「ごめんなさい」とお断りされます。
ということで、すべての患者さんで使用できるとは言い難いのです。



液体酸素の一番のメリットは、親機と子機があり、親機から子機に液体酸素を移すことができるのです(写真2)。

写真2 液体酸素装置



酸素ボンベが不要ということになります。
たくさんの酸素ボンベを家に置いている方もいらっしゃるかと思いますが、液体酸素ではたくさんのボンベを保管しておく必要がありません。
そして、家で子機を満タンにできるので、いつでも満タンの子機でお出かけができます。
液体を入れているので、子機も重たいということがありますが、現在の子機は昔より小さくなったので(使用時間が短くなりましたが)、そう重くはありません。
また、家の中に長~い酸素ホースを張り巡らせている家もあるかと思いますが、子機は家の中で自由に運べるので、お風呂に入るときでも、リビングで遊ぶときでも使用でき、家中に酸素ホースを張り巡らせる必要はありません。
ただ、子機の液体酸素が無くなっても、警報でお知らせしてくれることはなく、残量の確認は重さのメーターで行わないといけないので注意が必要です。

一番のデメリットは、液体酸素装置の交換を1カ月に1回程度は行わないといけないことです。
液体酸素装置は、酸素を使用していなくても、常時、気化しており、タンクの液体酸素が減っていってしまうのです(部屋の中の酸素濃度が高くなることはありませんので、心配しないでください)。
ですから、毎日、タンクの中の容量を確認して、運搬してもらう2~3日前ぐらいに交換のお願いをする連絡が必要になるのです。
酸素の使用量が多いと、1カ月に2回ということもあります。
これ以上の交換回数になるときは、酸素業者さんが対応しきれないので、酸素濃縮器を使用します。

液体酸素装置の使用上の注意点は、親機の保管は風通しの良い場所で直射日光に当たらない場所に設置しましょう。
また、親機も子機も、火気の近くで使用しないようにしましょう。

ということで、今回は、液体酸素装置の説明をしました。
使ってみると、とっても便利な液体酸素装置。
一度お試ししてはいかがでしょう。

次回は、在宅酸素療法中の酸素濃度について説明します。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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