今回はパルスオキシメータの選びかたの7回目になります。
前回は、パルスオキシメータに表示されるPI(Perfusion Index:灌流指標)の意味やPIをどのように評価するのかについて説明しました。
PIを有効に使えると、日々のケアに役立つと思います。

今回も、パルスオキシメータの数値に影響する因子について説明しましょう。

さて、今日の夕食は何を作ろうかな~。
我が家のプランターで育てているナスがあるので、今日は麻婆茄子でも作ろう。
痛っ! ナスを切っていたら、包丁で指を切ってしまいました。
左手の人差し指の先がパックリと切れ、出血しています。
左手の人差し指の第一関節の部分を右手でしっかりと止血しました。
止血ができたので、絆創膏を貼り、その上にしっかり包帯を巻きました。

さて、このような状況で、左手の人差し指にパルスオキシメータを装着すると、どのようなことが起きるでしょうか。

血液は指先で動脈から静脈に流れていきます。
動脈血圧による拍動(容積脈波)があるのは、指先の細動脈です。
この細動脈の血圧は35㎜Hg とされています。また、細静脈の血圧は10㎜Hgとされています。


包帯を締め付ける強さを5mmHgという力で行うと、細動脈の血流は流れ、細静脈を完全につぶすことはなく、細静脈の血流も保たれ、この血液は心臓へ戻っていきます。
指先の血流は維持されるため、止血の効果は低いですが、指先が壊死することはありません。
このときのSpO2は、脈波のある細動脈の測定が主となり、ほぼ正確な値を示すと考えられます。

では、包帯を締め付ける強さを50㎜Hgという力で行うとどうなるでしょう。
細動脈の血流がなくなり、パルスオキシメータは脈波を探すことができませんので、測定不能状態になります。そして、この状態が持続されると、指先には血流がないため、指先は紫色になり、冷たくなり、圧迫壊死を起こしていきます。指先が冷たくなっているところが壊死を起こす前に、パルスオキシメータの光エネルギーによって低温火傷を起こすことも考えられます。

さらに、包帯を締め付ける強さを20mmHgとしたらどうなるでしょう。
20mmHgの圧では、細動脈をつぶすことではできないので、指先に血液を送ろうとします。

ただし、細静脈の血圧は10mmHgといわれていますので、包帯の締め付けの強さが20mmHgでは、細静脈の血管がつぶされます。
細動脈からは血流を流そうとしますが、細静脈ではその血流の流れを阻止するようにブロックしています。

指先をぎゅっと握ると、指先にドクンドクンという拍動を感じることがあります。
これを静脈拍動といい、本来、脈波のない静脈が拍動を起こしてしまう状態です。
パルスオキシメータは脈波を探して酸素飽和度を測定する装置です。本来は、拍動する動脈の血液の酸素飽和度を測定するのですが、静脈拍動が起こっていると、静脈に流れる黒い血液(酸素の少ない血液)も測定してしまいます(図1



図1 静脈拍動による測定への影響


よって、パルスオキシメータは動脈と静脈の混ざった色を測定することになるので、SpO2は低い値を示すことになります
この状態も指先の血流が正常に保たれていませんので、圧迫壊死や低温火傷の原因になります。

腕から採血するときに、駆血帯を巻きますね。
駆血帯を巻く理由は、採血する血管の血流を阻害し、動脈から押される力によって、静脈血管を怒張させることにあります。
したがって、静脈血圧より高い圧力でかつ、動脈血圧より低い圧力で駆血帯を巻く必要があります。
静脈血管をつぶせない低い圧力や、動脈血管をつぶしてしまう高い圧力で駆血帯を巻くと、うまく採血できないことになります。

この数値からわかるように、パルスオキシメータのセンサーを固定する圧力はできるだけ低くし、血流を妨げないことが大事であることを理解していただけると思います。



もう1つ、SpO2の値に影響するのが、センサーを装着している手足が動くことによって低いSpO2を示すことです。
いわゆる体動ですが、体動によって手足の血流が変動するため、静脈血管が拍動しているような状態になることで、静脈血管の血液の色(黒い血液)を測定してしまい、低いSpO2を示すことになります(図2)。



図2 パルスオキシメータは体動に弱い


性能が悪かったころのパルスオキシメータは、体動によって正確な脈波が測定できないと、測定不能状態になることが多くありました。
しかし、各メーカーは低環流(低い血圧)の状態でも測定できるパルスオキシメータの開発を進めてきました。
できるだけ測定できない状態を減らしたいという開発によって、それまでは、体動では測定不能であったのが、測定が可能になり測定不能の警報が作動することはなくなりましたが、低いSpO2で測定されてしまうことで、SpO2下限警報が多く作動するという状況になりました。
これによって、乳児や小児の場合には、SpO2下限警報が作動しても、「また患者さんが動いているだけでしょ……」ということで、患者さんの観察に行かないということが増えてしまったわけです。
しかし、このSpO2の下限警報が正しく作動していた場合には、患者さんが「助けて!」と叫んでいることをパルスオキシメータの警報によって伝えているにもかかわらず、患者さんの叫びに対応しないことになります。その結果として、低酸素脳症になったり、脳死になったり、亡くなってしまったという患者さんもいます。

パルスオキシメータをつけていないと不安になる医療従事者が多くなりました。
また、パルスオキシメータを装着することで安心してしまう医療従事者も増えてしまったのです。
このような医療従事者のことを、私は「パルスオキシメータシンドローム(症候群)に罹っている」と表現しています。

パルスオキシメータは魔法のような医療機器に思えますが、医療機器に完璧なものはありません。パルスオキシメータも同様に患者さんを観察する装置として完璧な医療機器ではありません。
パルスオキシメータの弱点を知り、欠点を知り、限界を知り、どこまで信頼できる装置なのかを考えながら使用して、医療に役立てていただければと思うのです。


医療機器を装着することで安心してしまったり、信じすぎてしまったりすることによって、患者さんにダメージを起こしてしまうことを、「モ原病(モニタを信じすぎたことが原因で、患者さんにアクシデントが起こってしまった病」」といいます。
皆さんが、パルスオキシメータシンドローム(症候群)に罹らないように、モ原病を起こさないようにと願っています。

今回は、パルスオキシメータの数値に影響する因子について説明しました。
次回は、パルスオキシメータの選びかたの最終回として、まとめてみたいと思います。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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