今回はパルスオキシメータの選びかたの8回目になります。
前回は、パルスオキシメータの数値に影響する因子について説明しました。
いかに血流を妨がずに、センサーをゆったりと装着することが大事かご理解いただけたのではないかと思います。

今回は、パルスオキシメータの限界について説明しましょう。

パルスオキシメータは低酸素血症であることを教えてくれる装置です。
低酸素血症(Hypoxemia)とは、血液中の酸素が不足した状態(SpO2が90%以下)になります。
低酸素血症と、とても似ている言葉に低酸素症(Hypoxia)という医療用語があります。
これは、SpO2が90%以上であっても、組織の酸素が不足した状態のことをいいます。
低酸素血症のときは、必ず低酸素症になります。しかし、低酸素血症でなく、SpO2が90%以上を示していても、組織に酸素が足りていない状態である、低酸素症になるのです。

ここで、動脈に含まれる酸素の量を計算してみましょう。
血液に溶け込んでいる酸素の量を「酸素含有量」といいます。
酸素含有量の計算式は、下記になります。



この式の前半の(1.34×Hb×SaO2/100)は、ヘモグロビンと結合している酸素の量の計算になります。
1g/dLのヘモグロビンは、1.34mLの酸素と結合できます。そのうちの何%が実際に結合しているかを計算するためにSaO2(SpO2)を使用します。
そして、後半の(0.003×PaO2)は、血漿中に溶け込んでいる酸素(溶存酸素)の量の計算になります。
PaO2:1mmHgは、0.003mLの酸素が血漿に溶け込むことができます。このことから動脈血酸素分圧(PaO2)を使用します。

①まず、Hb:15g/dL、SaO2:97%、PaO2:90㎜Hgで計算していきましょう。

CaO2=(1.34mL×15g/dL×97%÷100%)+(0.003mL×90mmHg)
CaO2=19.5mL/dL+0.27mL/dL
CaO2=19.77mL/dL


この計算から、動脈血に溶け込んでいる酸素は、ヘモグロビンと結合している酸素がほとんどで、血漿中に溶け込んでいる酸素は微々たるものであることがわかります。

②では、次に、Hb:7.5g/dL、SaO2:97%、PaO2:90mmHgで計算していきましょう。

CaO2=(1.34mL×7.5g/dL×97%/100%)+(0.003mL×90mmHg)
CaO2=9.75mL/dL+0.27mL/dL
CaO2=10.02mL/dL


ヘモグロビンの正常値は15g/dL程度です。
①の動脈血に溶け込んでいる酸素は、1dL中に約20mLあるということになります。

しかし、貧血のときはヘモグロビンの量が少なくなっています。
②では、貧血でヘモグロビンが半分の7.5g/dLで計算してみました。
SaO2は97%と高い値であるにも関わらず、酸素含有量は約10mL/dLと半分になってしまいます。
酸素含量が半分ですから、組織に酸素が足りない低酸素症の状態であることがわかります。

貧血であると、パルスオキシメータがSpO2を97%と表示していたとしても、低酸素症で組織に酸素が足りない状況で、パルスオキシメータの値だけで判断することはできないということです。

大量出血をして、循環血液量が少なくても、低酸素症になることがわかります。大量出血で循環血液量が少ない状態に輸液をして循環血液量を増やしても、ヘモグロビンは増えませんので、低酸素症の治療にはなりません。つまり、ヘモグロビンを含む輸血を行う必要があるということです。



動脈血の酸素を正確に測定するには血液ガス分析装置で測定することが必要です。 正確なSaO2を求めるには、血液中の一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)とメトヘモグロビン(MetHb)を測定し、SaO2を求める式にあてはめる必要があります。


図1 分画的酸素飽和度の求めかた


これを、分画的酸素飽和度(Fractional SaO2)といいます。

しかし、パルスオキシメータのSpO2の測定は、機能的酸素飽和度(Functional SaO2)といわれ、血液中の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)とメトヘモグロビン(MetHb)が式に入っていません。


図2 機能的酸素飽和度の求めかた


健康な人は、通常、一酸化炭素ヘモグロビンやメトヘモグロビンは1%未満のため、機能的酸素飽和度を測定するパルスオキシメータで問題はありません。

しかし、一酸化炭素中毒であったりメトヘモグロビン血症(錆びたヘモグロビンが多く、酸素を運べない状態)であったりすると、パルスオキシメータのSpO2はSaO2より高い数値を示してしまうために、パルスオキシメータのSpO2はあてにならず、間違えた判断をしてしまうかもしれません。
一酸化炭素中毒の方はチアノーゼが出ず、ピンク色の皮膚色をしているので、さらに判断が難しいのです。

パルスオキシメータは、看護師のポケットに入ってしまう指先型の小さな装置が多く販売され、病院でもバイタルサインの測定に使用されるようになりました。
SpO2は身体のなかの酸素を測定しているので、呼吸が正常であるかの判断として使用されるようになり、呼吸数を測定しなくなってしまったという現状があります。
数値が正常でも、実は、患者さんが軽度なⅠ型呼吸不全で、低酸素血症を代償するために多呼吸を起こしていたり、大きい呼吸(深呼吸)で代償しているかもしれません。
このような代償によって、SpO2が正常な値を示していると、呼吸は正常で問題ないと判断されてしまうことがあります。

近年、急変予測ということが1つのテーマになっています。
成人の心停止は心原性がほとんどで、心室細動(VF)や心室頻拍(VT)、心静止(Asystole)を起こしますが、この急変を起こす前には、呼吸の状態に異常を示すことがあるとされています。
急変予測をするためには、SpO2の測定だけではなく、呼吸回数や呼吸の浅さ・深さをきちんとみることが必要です。
つまり、ストップウォッチや腕時計を見ながら呼吸回数を測定する、聴診器を使用して呼吸音を聞くという、パルスオキシメータがなかったころに行われた、ある意味当たり前のバイタルサインの測定をきちんと行いましょう。

パルスオキシメータは、とてもすばらしい医療機器です。
しかし、このパルスオキシメータにも限界があることを知っておきましょう。

今回は、パルスオキシメータの限界について説明しました。
次回は、在宅医療でパルスオキシメータを使用するための、診療報酬や制度などについて説明します。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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