今回はパルスオキシメータの選びかたの9回目になります。
在宅医療における、パルスオキシメータを使用するための診療報酬や制度などについて説明します。
パルスオキシメータが日本で使用され始めたのが1987(昭和62年)年ごろで、その後臨床現場に急速に普及しました。筆者が、在宅人工換気療法の患者・家族にパルスオキシメータを購入してもらったのが1994(平成6)年のことですので、在宅医療でパルスオキシメータが使用され始めたのは、この数年前ではないかと思います。
小児においては、指先のタイプが使用できないことや、遠くからでも介護者に数値が見えること、警報が作動することなどの条件があり、高性能な機種を選択する必要がありました。
販売価格は、定価が20万円くらいであったものを、12万円くらいまで値引きしてもらっていました。
しかし、さらに5,000円ほどするディスポーザブルセンサーの購入も必要なため、患者・家族の負担は大きかったです。
「患者・家族が購入?!」とびっくりされる方もいらっしゃるかと思いますが、在宅医療の診療報酬が整っていないころには、人工呼吸器を購入するお金を準備するのは患者・家族でした。
まず、身体障害者手帳(1級)を申請し、支給された特別児童扶養手当を貯めていただき、人工呼吸器等を購入できるお金が準備できたところで、医師より人工呼吸器の注文を出してもらいます。
人工呼吸器は医療機関もしくは医師しか購入できませんので、医師が購入して、患者・家族に渡すという手順で準備しました。
人工呼吸器以外の医療機器や消耗品の準備にもお金がかかりますので、患者・家族にとっては大変な時代だったと思います。
1997(平成9)年より、厚生労働省の「難病患者等日常生活用具給付事業」として、パルスオキシメータの購入に対する助成金(17万円)が出るようになりました。
難病患者とは、厚生労働省の「難治性疾患克服研究事業」の対象疾患で、現在130疾患が指定されています。難病患者は、この疾患でなければ助成金の対象にならないため、利用できる小児の患者さんは非常に少なかったです。この事業から考えても、診療報酬(在宅指導管理料)のなかで、パルスオキシメータを病院負担で貸し出す必要性はないと国は言っていることになります。
さて、パルスオキシメータの購入は、患者・家族の負担が大きいことから、レンタルできるシステムを検討しました。日本で初めて個人レンタルシステムを作ったのは筆者です。
1999(平成11)年に、医療機器業者からネルコア社のパルスオキシメータをレンタルできるシステムを作りましたが、レンタルできる台数に限りがあったため、平成12年度より本格的なレンタルシステムを構築しました。このシステムは、ネルコア社のパルスオキシメータの輸入販売元であるマリンクロット株式会社(ホームケアー営業部・現メドトロニック株式会社)が、パルスオキシメータを供給し、医療ガス会社のサイサン株式会社が患者・家族と契約するシステムです。このことは、第77回日本医科器械学会大会(2002〔平成14〕年)に、「在宅医療におけるパルスオキシメータの患者レンタルシステム」という題で報告しています。
レンタルシステムによって、高性能機種のパルスオキシメータを短期でのレンタルが可能となり、パルスオキシメータを個人購入する方は減っていきました。
その後、診療報酬によってパルスオキシメータを貸し出すことができない現状では、患者・家族の負担が大きいことから、筆者は、2003(平成15)年の第5回東京小児HOTシンポジウムにて「HOTで使用されるパルスオキシメータの負担は誰がすべきか」という題で発表し、問題提起を行いました。
その後、このレンタルシステムは変遷していきました。在宅用液体酸素装置をレンタルする企業では、在宅用液体酸素装置を選択すると無料でパルスオキシメータを貸し出したり、病院がこのレンタルシステムを契約することで、病院から無料で患者・家族に貸し出したりするなど、いくつかの方法が全国で行われるようになりました。
筆者の施設では、在宅酸素を行う患者さんに対して、本体は病院が貸し出し、ディスポーザブルセンサーは患者・家族が購入する方法に変更し、パルスオキシメータ本体分の負担がなくなるようにしました。
2005(平成17)年に出された障害者自立支援法(現:障害者総合支援法)に基づき、身体障害者の方や高齢者の方々が、在宅で療養または生活するときに、日常生活の便宜を図り、その福祉の増進を目的に市町村が実施している事業が「重度障害者日常生活用具給付事業」になります。
パルスオキシメータは当初対象品目に含まれていませんでしたが、2006(平成18)年10月の改訂により、日常生活用具の品目や金額を市町村で決定するようになり、パルスオキシメータを対象品目とする市町村が増えています(文献1を参考にしてください)。
助成金の金額は市町村によって異なり、4万円~16万円程度になります。
2022(令和4)年の「在宅指導管理料」の改訂により、パルスオキシメータが診療報酬の対象となり、15,000円の請求ができるようになりましたが、この条件は下記になります。
第2款 在宅療養指導管理材料加算
通則
3 6歳未満の乳幼児に対して区分番号C103に掲げる在宅酸素療法指導管理料、C107に掲げる在宅人工呼吸指導管理料又はC107-2に掲げる在宅持続陽圧呼吸療法指導管理料を算定する場合は、乳幼児呼吸管理材料加算として、3月に3回に限り1,500点を所定点数に加算する。
通知
5 「3」の加算については、6歳未満の乳幼児に対する在宅呼吸管理を行い、専用の経皮的動脈血酸素飽和度測定器その他附属品を貸与又は支給したときに算定する。なお、診療報酬明細書の摘要欄に貸与又は支給した機器等の名称及びその数量を記載すること。
長年、パルスオキシメータが診療報酬のなかで貸し出せるようにと働きかけてきた、新生児科の医師らの力によって改定されましたが、まだまだ不十分であるため、医療施設の負担、患者・家族の負担がなくなっていくことを願っています。
今回は、在宅医療におけるパルスオキシメータのレンタルシステムや医療施設の負担による貸し出し、難病者に対する助成金や日常生活用具としての補助金、そして、診療報酬の適応など変遷について説明しました。
患者・家族の状況に合わせ、医療施設の負担軽減も含め、適した方法を選択していただければと思います。
日常生活用具の補助金は、耐用年数に対して1回になると思います。ディスポーザブルセンサーの費用や修理代などは継続的負担となりますので、この点も含めて検討してください。
次回は、パルスオキシメータの選びかたの最終回として、まとめてみたいと思います。
【参考文献】
1)コニカミノルタ.パルスオキシメータ知恵袋 活用編.https://www.konicaminolta.jp/healthcare/products/pulseoximeters/knowledge/index.html(2024.9.24参照)
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みや よしえ 浜野史子
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刊行:2022年8月
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