今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の6回目になります。
毎回、主となる医療機器が変わり、一貫性がありませんが、この点はお許しを。
今回は、「電動吸引器が使えません。点検方法を教えてください」という質問に対しての解答です。

電動吸引器を使用して在宅医療を行っている医療的ケア児がとても多いです。
分泌物管理には欠かせない医療機器であり、使用できないと命に関わる状況にもなりかねません。
よって、電動吸引器が使用できない原因として、吸引器の部品のセッティングに問題があるのか、どこの部品に劣化があるのか、本体が壊れているのかについて、早く知りたいと思う介護者がほとんどでしょう。
電動吸引器については、以前に連載しているので、詳細については過去の連載(#001~#009)を読んでいただければと思いますが、電動吸引器が使えないときのためにセカンド器として2台目の電動吸引器を購入しておくことや、手動式や足踏み式などの、電気を使用しない吸引器を準備しておくことは、とても大事なこととして理解しておいていただければと思います。
原因がわからずに修理に出してしまうと、1カ月以上返ってこなくて困ってしまうということになりかねません。修理は修理可能な会社への運搬や、修理の順番待ちなどで、すぐに戻ってくることはありません。やっと点検の順番がきたら、パッキン(各部の隙間をなくすためのゴムのようなもの)のセッティング不良だったなど、修理に出さなくてもよかったという後悔に繋がってしまいます。

さて、本題に入りますが、電動式吸引器が使えないということはどういうことでしょうか。 もちろん、分泌物を吸引することができないということになりますが、その吸引できない状況によって点検する方法が変わってきますので、分類して説明していきます。

①電動吸引器の電源が入らない
*吸引器の電源プラグを、壁のコンセントもしくはテーブルタップへ入れ忘れている(さらにバッテリーが空っぽになっている)
*テーブルタップが壁のコンセントから抜けている
*テーブルタップの故障(コンセント受け口の固定不良、スイッチ不良等)
*吸引器の電源コード、電源プラグの断線
*吸引器のヒューズが切れている
*吸引器本体の故障
*部屋のブレーカーが上がっている(これは、ほかの医療機器も停止、もしくはバッテリー動作に代わるので、原因としては考えにくい)
*その他

【ここにも注意!】

回して電源プラグを固定する抜け止め防止機構があるテーブルタップは、抜き差しが多いとロックの機構が働かなくなり、抜けやすくなります。また、電源をON/OFFするスイッチのあるテーブルタップもありますが、知らない間に物を落としてOFFにしていたということが起こることもありますので、気をつけましょう。
筆者は、スイッチがない、回してロックできるテーブルタップの使用については、お勧めしておりません。

②コンセントでは使用できるのにバッテリーでは動作しない
*コンセントが抜けていて、充電されていない
*バッテリーの劣化
*充電器の故障
*本体の故障(バッテリー充電系の部分)

【ここにも注意!】

バッテリーは消耗品ですので、定期的な交換が必要になります。使用頻度によりますが、カタログに記載されている使用時間を維持するには1年に1回の交換は必要だと思います。
バッテリーを注文してご自宅で交換するのが一番早い対応方法になります。

③吸引モーターが動く音がするのに吸引圧が上がらない
*吸引ボトルのひび割れ
*吸引ボトルのフタのゆるみ
*吸引ボトルのフタのパッキンの劣化・断裂・紛失
*吸引ボトルのフタに接続されたチューブコネクターが逆に接続されている
*吸引ボトルのフタに接続されたチューブコネクターのパッキンの劣化・断裂・紛失
*吸引ボトルのフタ(ボトル側)に接続された浮き子(フロート)の接続不良
*サブボトルのひび割れ
*サブボトルのフタのゆるみ
*サブボトルのフタのパッキンの劣化・断裂・紛失
*サブボトルのフタに接続されたチューブコネクターが逆に接続されている
*サブボトルのフタに接続されたチューブコネクターのパッキンの劣化・断裂・紛失
*各接続ホースの外れ、ゆるみ、劣化
*その他

【ここにも注意!】

吸引器の廃液ボトルを分解して洗ったあとに、組み立て直したら吸引できなくなったということが多いです。吸引器のボトルにはたくさんの部品が使われており、1つでもなくなったり、接続を間違えたりすると、隙間から空気を吸ってしまうため吸引圧が上がらなくなります。
さまざまなところについているパッキンは、劣化して硬くなったり切れたりしますので、交換が必要です。ミルトン(Milton)などの消毒液を使用すると劣化は早くなります。廃液を吸引器本体に吸わないようにするためのサブボトルにもパッキンが使用されています。
また、各ホースの接続が緩かったり、劣化していたりすることもあります。ボトルのひび割れも空気の通り道になるため、吸引圧が上がらなくなります。

④吸引チューブ等をしていないのに、吸引圧が上がったままになり、吸引しない
*各接続チューブの折れ、閉塞、劣化
*吸引ボトルのフタにある浮き子(フロート)のへばり付きによる閉塞
*サブボトルのフィルターの詰まり
*サブボトルがないタイプについているフィルターの詰まり
*吸引器の圧力メーターの故障
*その他

【ここにも注意!】

吸引器を使用する際には、電源を入れたあとに、吸引チューブを折り曲げて閉塞させ、吸引圧が上がるのを確認しますが、どこも閉塞させていないのに吸引の圧力メーターが上がっているという現象があります。小児の場合、非常に細い吸引チューブを使うと、吸引チューブの抵抗によって、吸引圧が最初から少し上がっているということはありますが、設定の吸引圧までには上がらないと思います。
何もしていないのに設定の吸引圧まで上がっているということは、どこかで閉塞が起こっていると考えられます。浮き子(フロート)が斜めになってしまい下に落ちず閉塞を起こすことや、サブボトルのフィルターの目詰まりも多いです。サブボトルまで廃液を吸ったことはないといっても、分泌物のカスで詰まってしまうこともあります。サブボトルの代わりにフィルターがついているものもありますが、目詰まりによって吸引圧が上がってしまいますので、定期的な交換が必要です。


●吸引できないときの点検手順
手順1:電源が入らなければ、①、②の原因検索を行います。
手順2:電源が入っても吸引圧が上がらなければ、吸引器本体の吸引口を手袋をはめた指などで閉鎖します。閉鎖して吸引圧が上がれば本体に異常はありません。上がらなければ本体内部の故障で、修理に出す必要があります。本体に異常がなければ、廃液ボトルやサブボトル、各部品やパッキンなどに問題があると考え、③の原因検索をします。再度組み立て直すことで正常になることもありますが、部品の劣化、断裂、紛失の場合は、部品を購入しましょう。本体を修理に出すより早く使えるようになると思います。
手順3:④の、電源を入れて、何もしないのに吸引圧が上がってしまうときは、どこかが折れ曲がって閉塞しているか、フィルターが目詰まりを起こしています。フィルターは消耗品なので、在庫として購入しておいたほうが良いかもしれません。ホースの劣化については、メーカーさんに怒られるかもしれませんが、ホームセンターなどで同じサイズのホースを購入して交換すると、安価に対応できると思います。ただし、この場合には、折れにくいホースを選んでください。

この手順で行えば、吸引器本体の修理を依頼することなく対応できることもあるので、ぜひ、試していただければと思います。

次回も、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問のテーマで進めていきたいと思います。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

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