今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の8回目になります。
毎回、主となる医療機器が変わり、一貫性がありませんが、この点はお許しを。
今回は、「在宅人工呼吸器の吸気出口のバクテリアフィルターが汚れていますが、交換しなくて大丈夫ですか?」という質問に対しての解答です。

今回の質問に対して、下記の順で説明していきたいと思います。

①病院のICUで使用される人工呼吸器では、吸気の出口にバクテリアフィルターをつける機種とつけない機種があります。バクテリアフィルターをすべての人工呼吸器で使用しないのはどうしてでしょうか?

②在宅用人工呼吸器のすべてでバクテリアフィルターが使用される理由には何があるのでしょうか?

③人工呼吸器の吸気出口のバクテリアフィルターの交換頻度に決まりがあるでしょうか?

①病院のICUで使用される人工呼吸器では、吸気の出口にバクテリアフィルターをつける機種とつけない機種があります。バクテリアフィルターをすべての人工呼吸器で使用しないのはどうしてでしょうか?

病院のICUで使用される人工呼吸器のほとんどは、空気と酸素を中央配管に接続して使用します。
中央配管から供給される酸素や空気は、ほとんど水分を含んでおらず、乾燥しています。
なお、古い施設では、中央配管から供給される空気に水分が含まれていることがあったため、古い人工呼吸器では空気配管の接続口に、水分を貯めるウォータートラップがついていることもありましたが、現在では見かけなくなりました。

バクテリアやウイルスは乾燥した空気の中では生きていけません。
また、中央配管から流れてくる空気や酸素は、中央配管を通過する際にフィルターを通過してくるため、ちりや埃などを含んでおらず、とてもきれいです。
しかし、中央配管が金属(鉄)で作られていると、配管がさびることによって、さびがガスに混ざることがあります。この不純物は比較的大きいものなので、人工呼吸器のガスの接続部に比較的大きな不純物を捕らえるフィルターがあり、さびが人工呼吸器の内部を通過しないような対策を行っています。

よって、人工呼吸器の吸気出口にバクテリアフィルターを取りつけていない人工呼吸器が多いのです。
しかし、人工呼吸器メーカーによっては、中央配管を使用する人工呼吸器でもバクテリアフィルターをつけることを基本としている場合があります。

人工呼吸器の空気の流れは、吸気から呼気に流れるため、基本的には逆流することはなく、汚染された呼吸器回路のバクテリアやウイルスが人工呼吸器の吸気側に入ることはありません。しかしながら、絶対に逆流はないと言い切れるわけではありません。
もし、バクテリアやウイルスが人工呼吸器の中に入った場合、周りが湿度を含んだ空気の環境である器在庫で保管している最中に、このバクテリアやウイルスが増殖する可能性はあります。このような状況でバクテリアフィルターをつけないと、次の患者さんにバクテリアやウイルスが送られてしまうことになります。
その他、バクテリアやウイルスが人工呼吸器の中に入る原因としては、呼吸器回路を片付ける際に、加温加湿チャンバーに入った水を逆流させてしまうということもあるでしょう。

人工呼吸器の吸気側から空気や水の逆流によって、バクテリアやウイルスが入り、次に使用する患者さんに感染させる可能性を否定できないことから、新型コロナウイルス感染症による肺炎の患者さんに人工呼吸器を使用する際には、人工呼吸器の吸気出口にバクテリアフィルターをつけることがガイドラインとして示されています。このバクテリアフィルターを取りつける目的は、院内感染の防止を目的としています。

ただし、ICUで使用される人工呼吸器には、ブロアポンプによって空気を吸い込み、酸素だけを中央配管で使用する場合があります。
この場合では、部屋の空気が使用されるため、本体の空気吸い込み口にフィルターがついています。しかし、このフィルターだけでは十分に清潔度が保てない可能性があるため、人工呼吸器の吸気出口にバクテリアフィルターをつけることをお勧めします。


②在宅用人工呼吸器のすべてでバクテリアフィルターが使用される理由には何があるのでしょうか?

在宅人工呼吸器は酸素配管が接続できる機種もありますが、空気の配管を接続できる機種はありませんので、部屋の空気をブロアポンプによって吸い込みます。したがって、人工呼吸器の吸気にはフィルターがつけられています。このフィルターをバクテリアやウイルスをブロックできる高性能なフィルターにしてしまうと、フィルターの目詰まりを起こし、空気が吸えなくなってしまいます。ブロアポンプが一生懸命に回転して空気を吸い込もうとすると、熱が発生し、人工呼吸器がオーバーヒートして止まってしまう原因になる可能性もあります。よって、在宅用人工呼吸器の吸気吸い込み口のフィルターは大きなゴミや埃をブロックする程度になっているため、小さなちりや埃は通過してしまいます。

在宅用人工呼吸器では必ず吸気出口にはバクテリアフィルターをつけ、小さなちりや埃をブロックし、かつ、バクテリアやウイルスをブロックできる高性能なフィルターの装着が必要になります。

人工呼吸器の吸気出口に装着したバクテリアフィルターは、使用の経過とともに灰色に色が変わっていきます。これは、人工呼吸器の空気吸い込み口でブロックできなかったちりや埃によって色が変わっているのです。
バクテリアフィルターの色が灰色になっていると、汚い空気が患者さんに送られているのではないかと考える方がいらっしゃいますが、実際は逆で、バクテリアフィルターの色が灰色になっているということは、部屋の空気に含まれているちりや埃を患者さんに送らないようにブロックしている証拠であり、バクテリアフィルターの効果があることを示しています。 よって、バクテリアフィルターの色が変わったからといって、すぐに交換する必要はありません。

では、一般病棟で使用するとどうなるでしょうか。バクテリアフィルターの色は灰色に変わりますが、この色は自宅で使用しているときよりも薄い灰色です。一般病棟は、ICUほどきれいな空気にはなっていませんが、自宅よりはきれいな空気であるといえます。

自宅は、病院とは異なるために、一生懸命掃除をしても、病院と同じレベルの清潔な空気にすることは困難です。
よって、バクテリアフィルターが灰色になることを避けることはできませんし、先に述べたように、「バクテリアフィルターが灰色になるのは、患者さんに送っている空気がきれいになっている証拠ですので、バクテリアフィルターを頻回に交換する必要はありません」と説明して、ご家族を安心させています。さらに、「一生懸命お掃除することも良いですが、身体を休めることも大事なので無理しないでくださいね」と、言葉をつけ加えています。

③人工呼吸器の吸気出口のバクテリアフィルターの交換頻度に決まりがあるでしょうか?

このバクテリアフィルターは相対湿度が100%で、バクテリアやウイルスを含んだ呼気ガス(ウェットなガス)が流れる部分に使用されます。
よって、バクテリアフィルターの添付文書には、24時間ごとに交換しましょう。目詰まりを起こしたら交換しましょう。と記載されています。
湿度を多く含んだ空気を通過させると、バクテリアフィルターは目詰まりが起こりやすく、また、バクテリアフィルターを通過する際に乱流が起こり、温度低下を起こすと結露が生じ、水が溜まることがあります。この水はバクテリアやウイルスの培地となり増殖します。

24時間毎、毎日バクテリアフィルターを交換するとなると、 とても困ってしまいますが、古くから言われていることは、ドライガスの場合は800時間程度で交換することになっていました。800時間を1日の24時間で割ると33日になりますので、ドライガスの場合は1カ月に1回交換すれば良いと考えられます。

しかしながら、運動会に行ったとか、芋掘りに行ったとか、土ぼこりが多い環境などで使用し、いつもよりバクテリアフィルターの色が黒いと感じたときには交換したほうが良いでしょう。

バクテリアフィルターの目詰まりは、人工呼吸器ががんばって空気を送り出そうと、モーターを一生懸命回転させないといけないため、人工呼吸器が熱くなりオーバーヒートしてしまう可能性もあります。



今回は、人工呼吸器の吸気出口に取り付けるバクテリアフィルターの交換頻度について説明しました。
色が灰色になっていても、これは、吸気ガスがきれいになっている証拠と思って、安心して人工呼吸器を使用してもらえればと思います。

次回も、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問のテーマで進めていきたいと思います。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

・・・・・・・・・・・・・・・・・
イラスト:八十田美也子
     

松井先生のWEB講義が販売中です!

新人・1年生が知っておきたい
新生児・小児の呼吸管理のきほん


呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
「赤ちゃんの肺の中で酸素がどんなふうに動いているのだろう」「動脈血酸素分圧90mmHgってどういう意味だろう」といった素朴な疑問から、むずかしく思われがちな換気モードやグラフィックモニタまでもカンタンに知ってもらおうというセミナーです。

▼プログラム 【収録時間:約130分】
#01 酸素と二酸化炭素 〜肺胞の中でどのように移動しているか?
#02 なぜ小さな赤ちゃんにとってPEEPが重要なのか?
#03 換気モードのお話〈前半〉 IMVとCMV・SIMV・A/C
#04 換気モードのお話〈後半〉 CPAP・PSV・HFO
#05 フロー波形を見て同調性を極めよう!
#06 グラフィックモニタとトラブル対応
#07 ファイナルテスト 〜この波形、どう考える?

▼受講申し込みはコチラから
スライド資料ダウンロード 税込 \6,000

松井先生が監修に携わった書籍

////// 書籍案内 //////

小児在宅人工呼吸療法マニュアル第2版

子どもと家族を支える医療者のための
小児在宅人工呼吸療法マニュアル 第2版


5年ぶり、待望の大改訂!/国内すべての小児在宅用人工呼吸器を網羅。“実際の使用感”教えます!/呼吸器回路・制御・換気モードなどキホンを徹底解説!/行政・災害・訪問看護など社会変化にも言及!

機種別に特性・違い・注意すべき点がわかる
各種人工呼吸器のアップデートに加え、行政・災害・訪問看護など新たな社会情勢にも言及し、パワーアップして刊行する第2版。医療的ケア児と家族への支援施策が進む中、医師・看護師・CE・PTなど小児在宅人工呼吸療法に携わるすべての医療者必携の書。

著者:
一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修

定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

▼詳しくはこちら