今回で、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問の9回目になります。
今回は、「加湿不足なので、加温加湿器のダイヤルを上げて良いですか?」という質問に対しての解答です。

今回は、在宅人工呼吸療法を行っている患者さんに対しての質問になります。
さて、この質問だけでは、どのような返答をしてよいのかわかりません。そして、いくつかの状況が頭に浮かびます。
①患者さんの分泌物が硬いのか?
②加温加湿器の種類は?
③呼吸器回路(吸気回路)に結露がつかなくて乾燥した状況になり、分泌物が硬くなっているのか?
④呼吸器回路(吸気回路)に多量の結露がつくようになり、患者さんへの水分が運ばれず、分泌物が硬いのか?
⑤部屋の温度は維持できているのか?


このような疑問が筆者に起こったので、一つひとつ確認していきました。
最近の日本(世界)は、温暖化の原因で秋を感じることが少なくなりました。
この質問を受けたときも、夏のような暑い日の次の日が、突然冬のような寒さを感じるような日が続いていました。
①患者さんの分泌物が硬いのか?
 →予想通り、「分泌物が硬くなっている」とのことでした。
②加温加湿器の種類は?
 →PMH-1000という加温加湿器で、吸気回路にヒーターがなく、加温加湿チャンバーの水を9段階で調節するタイプでした。
③呼吸器回路(吸気回路)に結露がつかなくて乾燥した状況になり、分泌物が硬くなっているのか?
 →これは、「違います」とのことでした。
④呼吸器回路(吸気回路)に多量の結露がつくようになり、患者さんへの水分が運ばれず、分泌物が硬いのか?
 →「吸気回路に結露が増えて分泌物が硬くなっている」とのことでした。
⑤部屋の温度は維持できているのか?
 →「部屋の温度はエアコンで保っているが、この数日、何となく寒い感じがする」とのことでした。

以上の追加質問によって、原因と対策がわかってきました。

「呼吸器回路(吸気回路)の結露が多くなり、患者さんへ運ばれる水分が低下したために分泌物が硬くなったと考えられるので、加温加湿器のダイヤルを上げたほうが良いか?」 という質問に置き換えることができました。

急に、分泌物が硬くなったのは、やはり気候が影響していると思われます。
室温が同じに保たれていても、外が寒くなると、部屋の壁や窓ガラスの温度が低下し、輻射熱によって、呼吸器回路の熱を奪っていくという反応が起こります。
よって、呼吸器回路が冷やされることになるので、結露が増加してしまい、患者さんへ送気されるガスの水分が低下し、加湿不足によって分泌物が硬化していると考えられます。
ここで、「加温加湿器のダイヤルを上げたほうが良いか?」という質問に対してどう考えるかです。
分泌物が硬化しているのだから、加温加湿器のダイヤル設定を上げて、さらに加温加湿するのが良いのではと考えるのは確かに間違いではありません。
しかし、この加温加湿器は、吸気回路を温めるヒーターがないタイプなのです。
吸気回路を温めないということは、外気に冷やされて結露が発生しやすいタイプの加温加湿器であるということです。
分泌物が硬いからといって、加温加湿器のダイヤル設定を安易に上げてしまうと、吸気回路の結露がさらに増加するだけで、患者さんの分泌物が必ずしも柔らかくならないということです。
呼吸器回路の結露が増えることで、気道内圧が変動したり、自発呼吸の認識ができなくなったり、呼吸器回路を閉塞させてしまったりと、多くの問題が生じる可能性があります。
したがって、安易に加温加湿器のダイヤル設定を上げるのは危険ということになります。





そこで、筆者からの提案は次のとおりです。
まず、呼吸器回路(吸気回路)を保温することを伝えました。
タオルでも良いので、呼吸器回路に巻いて、外気の影響を受けにくくして、結露の発生を防ぐという戦略です。
ただ、呼吸器回路にタオルを巻くことによって、呼吸器回路が重くなり気管切開チューブが抜けてしまうなどのデメリットもあります。
しかし、「分泌物管理なくして、在宅人工呼吸療法なし!」というのが筆者の掲げる言葉になりますので、分泌物管理をまず優先することが患者さんにとって良いことだと考え、この提案をしました。
呼吸器回路を保温するためのカバーを手作りしているご家族も多くいらっしゃいますが、最近では、在宅人工呼吸器用として呼吸器回路のカバーも販売されているので、カバーを使うのも良い方法だと思います。

今回は、在宅人工呼吸療法を行っている患者さんの分泌物が硬くなったことに対して、加温加湿器のダイヤル設定を上げてよいかという質問に対する筆者の提案でした。
部屋にいて、エアコンで室温を保っているから気候の変化は関係ないだろうと思いがちですが、「急に寒くなったなぁ~」という感覚が、人工呼吸器関連機器にも影響して、患者さんにも悪影響になることも頭に入れておいてください。
原因をはっきりさせずに、安易にダイヤル設定を上げるという行為は、患者さんを危険な状態にしてしまうかもしれません。

次回も、小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問のテーマで進めていきたいと思います。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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刊行:2022年8月
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