「小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問」の10回目になります。
今回は、「在宅人工呼吸療法で使用する吸入器の費用負担はどのようにしたらよいか?」という質問に対しての解答です。
まずは、質問の詳細です。
在宅人工換気中の吸入療法は、Aerogen(エアロジェン)を利用すると実施が容易ですが、この機器のレンタル料をカバーする制度加算がないため、ご家族にご購入いただくかレンタル料を診療所が肩代わりするかの2択を迫られることになります。
エアロジェンはほかの吸入器よりもかなり高価なので、導入を迷っています。
エアロジェンとはメッシュ式の吸入器で、人工呼吸器に接続できるように構成されているため、在宅人工呼吸療法では使用しやすい吸入器になります(本連載#016~#020「吸入療法装置の選びかた」を参照)。ハンディ型の超音波吸入器がありましたが、近年ではメッシュ式に代わっています。超音波吸入器は、エアロゾル(粒子の大きさ)が小さく安定していて、肺への沈着率も良い吸入器でしたが、超音波振動子が熱を持つために薬剤に変性を起こすことや、懸濁液(吸入薬と希釈液が溶け込まず、吸入薬が粒子のままで存在している薬液)では、希釈液のみがエアロゾルになり、薬剤効果を示す吸入薬がエアロゾルにならないという特徴があり、使用薬剤に制限がありました。
メッシュ式は、エアロゾルの粒子は小さく安定していて、超音波吸入器と変わらない性能を持っています。また、熱を持たないために薬剤変性が起こらないことや、懸濁液でも使用できるというメリットもあります。以前は、エアロネブという製品名で販売されていて、筆者も臨床現場では薬剤吸入(加湿目的は除く)に、良い使用感を持っていました。
●エアロジェンの効果とその費用負担は?
エアロジェンは、ほかの吸入器と比較しても良い性能を有していて、一度使うとやめられなくなるのではないでしょうか。人工呼吸療法における吸入療法を一つの目的としているので、エアロネブの時代から人工呼吸器の接続は容易で使いやすい製品でした。
ただし、エアロジェンの問題は価格が20万円以上と高価であることや、薬剤を入れて噴霧するデバイスがディスポーザブルであり、メッシュが詰まったら交換が必要になることです。よって、エアロジェンを使用する場合には、このコストの負担を誰が担うべきなのかという問題があります。
レンタルというシステムを有している企業もありますが、それでも月額20,000円程度かかるため、レンタルであってもその経費負担という問題は解決しません。
この点については、じつは筆者も回答は持ち合わせていません……。
ある施設では、在宅人工呼吸指導管理料を算定している施設がレンタル料を負担して、患者さんに貸し出しているということを聞いたことがあります。しかし、吸入療法器の装置加算はありませんので、病院の持ち出し(赤字)で行われていることになります。これは、在宅人工呼吸療法を行っている件数が少なければ対応できるかもしれません。しかし、この方法は病院からの持ち出しになりますので、件数が増えると大きな負債になりますし、ほかの家族もエアロジェンを無料でレンタルできるとなると、その要望が多くなり、泥沼にはまって病院経営に関わる問題に発展しかねません。
●吸入療法を加湿目的では導入しないで!
在宅人工呼吸療法による吸入器の使用目的は、分泌物が硬くて排痰できないという加湿目的で使用を開始することがほとんどです。
分泌物が硬くなったから吸入を行うというのは、根本的な解決策ではなく、分泌物が引けるのは吸入を行った直後のみであり、24時間、分泌物を正常に保つことはできません。
吸入療法による加湿で分泌物が柔らかくなったのではなく、吸入によって気道や肺に投与された多量の生理食塩水などによって、分泌物を洗い流して吸引している状況になります。
加湿目的で一度吸入療法を導入してしまうと、分泌物が引けるという感覚を覚えてしまい、分泌物が引けなくて困った経験とあわせて加湿目的の吸入はやめたくない、止めるのが怖いという状況になるので、吸入療法の導入は、分泌物を正常化する対応をきちんとしたのちに、それでも改善しない場合には、致し方なく使用をするということで考えなければなりません。
ステロイドなどの薬物療法として、薬剤効果を求める場合であれば、一時的に吸入療法を行うことは良いと考えます。しかし、加湿目的で導入するのは決してお勧めできる方法ではありません。
分泌物を24時間正常な状態に保ち、分泌物を容易に吸引できるようにするには、人工呼吸器から送気されるガスの加温・加湿を適切な状態にして送ることが一番大事です。
●分泌物が硬くて困ったときに、まずやってみること
在宅人工呼吸療法で分泌物が硬くて困っている時にまず行うことは、呼吸器回路の保温(カバーの装着)を行うことです。今は冬で室温はエアコンで温度を一定に保っていても、壁や窓ガラスなどの輻射熱によって、呼吸器回路が冷やされて、呼吸器回路に結露が生じ、患者さんに届く水分が低下してしまいます。呼吸器回路をきちんと保温することで結露が減り、患者さんに届く水分が増え、分泌物が柔らかくなることが期待できます。
それ以外の対処方法としては、加温加湿器の設定変更、加温加湿器の本体の変更、呼吸器回路の変更(パッシブからアクティブに)、吸引器の変更(流量の多いものに)、人工呼吸器の変更などで、ある程度分泌物をしっかり吸引できるようになります。
私の経験では、前述した方法によって、気管切開による在宅人工呼吸療法で吸入療法を導入したことはありません。
しかし、もともとこのご質問をいただいた方は、東北の方で、私が住む埼玉よりは寒いですから、埼玉と同じ方法では十分な対策にはならないとも考えられます。
そこで、エアロジェンの代わりになる吸入器としては、ジェットネブライザーが無難だと思います。人工呼吸器回路への取り付けには、Tアダプターと薬液ボトルが必要になりますが、キットになって販売されているものを使用するのがよいと思います。
具体的には、オキシプライムネブライザーシステムという名称のものになります(参照:インターメドジャパン)。他社にも同じものが販売されていますが、このキットは10個入りと箱売りされていますので、たとえば、ジェットネブライザーは患者さんにご購入頂き、接続キットは診療所負担にすればよいのではないかと思います。または、接続キットを1個単価で患者さんに販売するというのも一つの方法だと思います。
このキットの接続方法につきましては、拙著
『在宅医療が必要な子どものためのケアテキストQ&A改訂版』
に記載しておりますので、参考にして下さい。
ちなみに、筆者は、基本的に吸入療法については、きちんと加温加湿ができていれば不要であるという否定派です。ただ、吸入療法を適正に、効果的に使っていただきたいという気持ちで今回は、ご紹介させていただきました。
どうぞ、次回のテーマもお楽しみに!
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子
呼吸生理/換気モード/グラフィックー 3大苦手ポイントをコンパクト解説!
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岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
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