「小児在宅医療で、誰も教えてくれない、こんな疑問、あんな疑問」の11回目になります。
今回は、「気管切開を行い在宅人工呼吸管理を行っている小児の患者さんの気管吸引」についての質問に解答していきます。
質問は次の通りです。

「気管切開をして、夜間は人工呼吸器を使用している3歳の男の子がいます。気管吸引を行ってもしっかりと分泌物が引けず、肺雑音が残ってしまいます。小児で分泌物が引けない原因を教えてください」

気管切開を行って在宅人工呼吸療法を行っている患者さんで、「しっかりと気管吸引ができています」と聞くことがなかなかありません。なぜ、小児で気管吸引がしっかりと引けないのか……。これにはいろいろな原因がありますので、今回は【part1】として、数回に分けて説明していきましょう。

今回は、気管吸引チューブについてです。
気管吸引チューブのサイズをいうときの単位は何ですか?
気管吸引チューブのサイズは「Fr(フレンチ)」です。
この単位であるFrがどういう意味か説明できるでしょうか。

Frとは気管吸引チューブの先端部分の外周のことです。
外周を1Frとすると直径は0.33mmとすることが、18世紀に活躍したフランスの外科医、ジョセフ・フレデリック・ブノワ・シャルリエール氏の名前に由来して決められています。
逆にいうと、外周が3Frのときは、直径が1mmになるということです。

厳密には、外周の計算式の“半径×半径×円周率” →“2πr”(2×3.14×半径)という計算式が元になっています。外周が3Frのときは、直径が0.95mmになると考えていますが、JIS規格が「3Frのときは直径が1mmになる」としているので、こちらを基本に説明していきましょう。

8Frの気管吸引チューブには、2.7mmという数値も一緒に記載されている場合があります、この2.7mmは直径のことです。
直径は、気管吸引チューブの外側(外径)のことで、内径のことは記載されていません。
内径とは、実際に分泌物が通過する部分のことで、外径より小さい数値になります。
気管吸引チューブの壁には厚さがあり、この厚さが薄ければ薄いほど、内径が大きくなり、分泌物が通過しやすくなります。
しかし、この厚みを薄くすれば、気管吸引チューブは折れやすくなってしまいます。吸引しているときに気管吸引チューブが途中で折れてしまっては、吸引はできません。
気管吸引チューブは、しなやかでかつ折れにくくなければなりません。
気管吸引チューブの素材や硬さを調整する可塑剤の量などによって、弾力や伸び縮みなどが変わり、メーカーによっても異なってきます。
よって、気管吸引チューブの太さは外径から算出するサイズになりますので、内径はメーカーによって変わってくると考えます。

例えば、気管吸引チューブの壁の厚みが0.5mmとすると、直径2.7mmの8Frでは、内径は、2.7-0.5×2=1.7mmと計算され、これが内径になります。





マックシェイクを細いストローで吸っても、飲むことが大変です。大変というのはとても大きなエネルギーが必要であるということで、ストローを通過する抵抗が高いことになります。
太いストローで吸えばマックシェイクが飲みやすくなります。これは、細いストローより小さいエネルギーで吸うことができるということで、ストローを通過する抵抗が低いことになります。

気管吸引チューブも同様で、太い内径であるほど、分泌物が吸いやすくなります。

さらに、円形の太さ(直径)の違いから、抵抗値を計算によって求めることができます。

抵抗は、直径のPoiseuille(ポアズイユ)の法則から半径の4乗に反比例するといわれています。
“半径の4乗に反比例”って何のこと? と思われますよね。
では、大人で使用する14Frの気管吸引チューブと小児で使用する8Frの気管吸引チューブで、抵抗値を比較してみます。
どちらの気管吸引チューブも壁の厚みは0.5mmとします。
14Frの気管吸引チューブの外周は14mmですから、これを3で割ると、4.7mmとなり、これが外径になります。壁の厚みは0.5mmで両側に厚みがあるので、1mmを引いた数値が内径になり、3.7mmが内径になります(



 気管吸引チューブの太さの測りかた

8Frの気管吸引チューブの外周は8mmですから、これを3で割ると、2.7mmとなり、これが外径になります。壁の厚みは0.5mmで両側に厚みがあるので、1mmを引いた数値が内径になり、1.7 mmが内径になります()。
それぞれの気管吸引チューブの内径の半径は、14Frが1.85㎜、8Frが0.85㎜になります。

内径が算出できたので、“半径の4乗に反比例”という計算で抵抗値を計算してみます。

14Frの気管吸引チューブの抵抗を1としたとき、8Frの気管吸引チューブの抵抗は何倍になるかを計算します。
8Frの半径を4乗(0.85㎜を4回掛け算)します。
14Frの半径を4乗(1.85㎜を4回掛け算)して、8Frで計算された数値(分子)を14Frで計算された数値(分母)で割り算する計算式を作ります。
そして、反比例は、分子と分母を入れ替えて計算することで答えを算出できます。

(0.85mm×0.85mm×0.85mm×0.85mm)÷
(1.85mm×1.85mm×1.85mm×1.85mm)= 0.52÷11.71
 → 反比例 11.71÷0.52≒22.5

14Frの気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗より、8Frの気管吸引チューブの中を分泌物が通過するときの抵抗のほうが22.5倍大きいということになります。 つまり、22.5倍のエネルギーが必要になるのです。

小児で分泌物が引けない、引きにくいという原因の1つが、気管吸引チューブの太さであるということが理解できたのではないでしょうか。

次回も、小児で分泌物が引きにくい原因について説明していきます。



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。
KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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