事業実施の背景
近年、医療の高度化とともに日常生活や学校生活などで医療的ケア(以下、医ケア)を必要とする児童は全国で2万人にものぼると言われています。2021年9月に「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」が施行されましたが、その児童や家族のための支援は全国的に不足しているだけでなく、ケアの担い手である看護職が確保できないといった深刻な問題があります。
そこで、Nurse for Nurseは2022年度より赤い羽根共同募金事業として医療的ケア児・重症心身障害児等のケアを担う看護職を増やす事業を特定非営利活動法人みかんぐみ様(医療的ケア児等当事者団体)より業務委託を受け実施しています。
本連載タイトル「看護とキャリアと社会課題 全部つながるNurse for Nurse」のとおり、私たちはこの社会課題解決に向け看護職のキャリアにも焦点をあて取り組んでいます。
2022年度はウェビナー「集まれ!看護職たち 医療的ケア児・重症心身障害児の暮らしを支える×看護職のキャリア」を開催しましたが、お申し込み者200名以上、アーカイブ視聴回数は1,000回以上という関心の高さが伺えるものでした。そして、全国から募集した看護職4名に対しては、医療的ケア児・重症心身障害児の生活の場を見学し理解を深めることを目的としたご家庭への見学訪問の機会を提供しました。
そのなかで、当事者ご家族から看護職へたくさんの期待の声が寄せられました。看護職自身も当事者ご家族から学ぶことが多くありました。しかし、日ごろ子どもたちを通じて接していても、ご家族と自由に本音で話ができる機会は限られています。また、利害関係のないところで交流することは相互理解の促進につながることもわかりました。そして、当事者ご家族が看護職に何を求めているのか、「課題」とされていることに看護職はどう向き合い、取り組んでいるのかを体系的に知ることの重要性も浮かび上がりました。
そこで、2023年度は以下2つの事業に取り組みます。
詳しくは事業ページをご覧ください。
①当事者ご家族と看護職の交流会
②調査研究
2023年度の取り組み
①当事者ご家族と看護職の交流会
全国で医療的ケア児支援センターの整備やサービスの拡充が進むなか、当事者ご家族とケアの担い手である/なり得る看護職の相互理解が今後ますます重要になります。そこで、地域で暮らす子どもたちにとってより良い看護サービスの提供を目指し、本交流会を開催します。当事者ご家族のお話はもちろん、地域で子どもたちの暮らしを支える看護職のキャリアについてもお聞きください。
医療的ケア児・重症児等の当事者ご家族と看護職の交流会
〜お互いの声を聴いてみよう〜
開催日時:2023年11月19日10:00-12:00(Zoomミーティング)*「耳だけ参加」も可能です
参加費:無料(要事前申し込み)
参加条件:
●当事者ご家族:日常的に医療的ケア児・重症心身障害児の養育に携わっている方
●看護職:医療的ケア児・重症心身障害児のケアに現在かかわっている方、または関心がある方
●看護学生:本領域に関心のある学生(冒頭1時間のご発表から質疑応答までのご参加となります)
定員:なし
お申込みはこちら (締切:2023年10月31日(火))
※お申込みいただいた方には、赤い羽根共同募金事業にて昨年実施しましたウェビナー「集まれ!看護職たち 医療的ケア児・重症心身障害児の暮らしを支える×看護職のキャリア」のアーカイブ映像(視聴は期間限定)を11月になりましたら、参加URLと共にご案内いたします。
<プログラム>
・「子どもたちの支援にあたる看護職とご家族の関係性」
北村千章氏(清泉女学院大学大学院看護学研究科教授)
・「家族の生活と看護職の関わり」(当事者ご家族による発表)
・「医療的ケア児の看護とキャリア」(看護職による発表)
田端支普氏(訪問看護ステーション ハートフリーやすらぎ 管理者)
木内昌子氏(一般社団法人MEPL代表理事)
・交流会
「お互いの声を聴いてみよう」(少人数制・ブレイクアウトルーム使用)
②調査研究
~家族とともに考える地域の看護職のキャリア開発~
本研究*の目的は、重症心身障害児および医療的ケアを必要とする子ども(以下、医療的ケア児等)のご家族が子どものケアを委ねる看護職へ抱く思いと、そのケアを子どもが生活する場で引き受ける看護職が抱いている困難感や看護ケアへのやりがいを明らかにすることです。結果を通して、相互理解を深め、社会課題の解決に子どものご家族と看護職が協働して取り組める関係性の構築を目指していきたいと考えています。
対象は医療的ケア児等をご自宅で養育されているご家族と医療的ケア児等を地域の福祉・教育サービスもしくは訪問看護などでケアを委譲されている看護職の双方です。
おわりに
このように、Nurse for Nurseでは看護職同士のキャリア開発支援はもちろん、社会課題解決のために様々なアクターと連携を図りながら事業を展開しています。交流会は、本領域でご活躍されている看護職のキャリアについてもお話を伺える機会です。ご家族の「声」に耳を傾けながら、より良いケアを子どもたちへ届けたいと願う看護職の皆さまにご関心をお寄せいただけましたらうれしいです。また、調査研究では当事者ご家族から看護職に寄せられる期待とそこから浮き彫りになる課題を通して、相互理解を深めるだけでなく、ご家族とともに地域での看護職のキャリア開発についても考えたいと思っています。ぜひ、本事業へ皆さまのお力添えをいただけますと幸いです。
*本研究は恩賜財団済生会横浜市東部病院の研究倫理審査の承認を得ています。
看護師・保健師、公衆衛生学修士。2005年3月、慶應義塾大学看護医療学部卒業。国家公務員共済組合連合会虎の門病院勤務を経て東京大学大学院公共健康医学専攻にて修士号取得。その後、国連人口基金(UNFPA)ジンバブエ事務所で勤務したのちに世界保健機関(WHO)ソロモン諸島事務所にて勤務。2021年にジョンズ・ホプキンス大学のコミュニケーション学修士号取得、一般社団法人Nurse for Nurseを設立。