2020年12月からメディカLIBRARYで連載を開始した「心臓のはなしをしましょうか」は、3年連続で当サイトのアクセス第1位を記録していますが、先日は『心カテのはなしをしましょうか』として書籍化もしました。

同連載の特徴は、毎回記事の内容に合わせてわかりやすいイラストが付いていることですが、このイラストはすべて著者・野崎暢仁先生がご自身で作成されています。

今回は書籍化を記念して、野崎先生に「このイラストをぜひ見てほしい!」と思うベスト3を挙げていただきました。また、なぜこのようなイラスト描くようになったのか、というところも初めてお話をうかがいましたが、きっかけは「ちょっとした下心」と「やさしくないマニュアル」でした。(メディカLIBRARY編集部)

著者・野崎先生が選ぶ“絶対見てほしいイラスト”ベスト3

第1位 図解!テンポラリーペースメーカ

書籍54ページ
これ一枚でテンポラリーペースメーカの設定はバッチリ?! ダイヤルのメモリを描くのに時間かかってます(笑)。



第2位 スワンガンツカテーテル

書籍164ページ
これ一枚でスワンガンツカテーテルの準備はバッチリ?! 三方活栓のイラストはこう見えて30パーツぐらいから構成されています(笑)。でも実は私なりにいちばん描くのが難しかったのはシリンジなんです。まだまだ未完です……。



第3位 ガイドワイヤー

書籍96ページ
ガイドワイヤーのうねりに注目!いいカーブ描けています(笑)。あと、超脇役ながら、なんでそこに?っていうくらい電車のイラストにめっちゃ時間かけてしまいました!




これを極めたら……

編集部 連載ではいつもイラストを付けていただいていますが、最初に野崎先生のイラストを見せていただいたのは2016年に刊行された書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー』の編集を担当させていただいたときでした。Keynote(AppleのプレゼンテーションソフトでPowerPointに似たもの)でこれだけ細かいイラストが描けるのか!と驚いたのですが、あの技術はどのように習得されたのでしょうか?

野崎 じつは、僕はペンでは絵が描けなくて、描けてもせいぜいドラえもんくらいなんです(笑)。Keynoteを使って描いているのにはそれが一つ理由としてあります。

描き始めたきっかけとしては、学会などの講演で発表するようになりはじめたころ、発表資料ではほかの書籍やインターネット上に掲載されている図をそのまま流用することができないので、Keynoteで図形を組み合わせて何とかできないかなあと考えたことです。

そして周りを見ると、私の師匠・赤松俊二さん(滋賀県立総合病院/WCCM副代表世話人)がAdobe illustratorで作図されていて、その図を院内の医師の発表資料にも提供されていました。それがほかの医師の目にも留まり、他院の医師からも依頼されて図を提供している様子を見て、これを極めたら自分も将来こんなことができるかもしれないという下心もありました(笑)。それで、私はKeynoteでやってみようと考えました。

視覚的にわかるマニュアルを

編集部 そこからこれだけたくさんのイラストを描かれるようになったのですね。

野崎 そうですね、さまざまなイラストを描くようになったのもきっかけがあって、それは院内のマニュアルです。今回、第1位に挙げた「図解!テンポラリーペースメーカ」と第2位に挙げた「図解!スワンガンツカテーテル」は、それまであった院内のマニュアルが「やさしくない!」と感じて描きました。

病院で働いているとマニュアルでの業務の確認、学習は必須だと思います。でも実際のところ、新人や若いスタッフたちがマニュアルを読み込んでから現場に入っているかといったら、そうではないんですよね。

そのため、何か起こってから「マニュアルにはこう書いてあるでしょう」「この通りにしなきゃいけないでしょ」と上司や先輩に言われ、そこで初めてマニュアルをちゃんと読んで正しいやり方を覚える、といったケースも少なくありません。

ではなぜマニュアルを最初に見ないのかというと、まあ、パッと見たら文字だけなんです。これが理由です。

現場経験もなく、まだ頭の中に何もイメージできていないのに、「1.〇〇をする」「2.次に〇〇をする」と書かれた文字だけを見ても覚えられるわけもないですし、現場で思い出すこともできません

文字だけで書かれたマニュアルは、業務をやり出して、わかり出した人が見たときに理解できるものであって、初めての人にとってはやさしくない、これでは学習できないんじゃないかと思ったんです。

例えば、第1位に挙げたペースメーカは機械もので操作の順番がある程度は決まっているけど、〇〇のダイヤルを1番に合わせ、〇〇のダイヤルを2番に合わせるということを文字で伝えるのではなくて、いつも自分が描いているイラストをうまく流用して目で見て順番がわかり、操作方法がわかるようなマニュアルができないかなとマニュアル用のイラストを作りました。

第2位に挙げたスワンガンツカテーテルもそうです。いつもスタッフ一人ずつに伝えているのですが、スワンガンツカテーテルにはラインが3本あって、それぞれに三方活栓を付けなければなりませんが、そもそもスワンガンツカテーテルにラインが3本あるということがちゃんと認識できていないので、準備のときに三方活栓を1つしか用意しなかったりするんです。

そのたびに実際のスワンガンツカテーテルを見せて「ラインが3本あって、この3本ともに三方活栓を付けなきゃいけないから3つ準備が必要だよ」ということを言っています。

これも「スワンガンツカテーテルでは三方活栓を3つ準備する」とマニュアルに文字で書かれていても頭に入らないので、イラストで見て視覚的にラインが3本あることが確認できれば「三方活栓は3つ必要だ」とわかるはずです。わざわざ覚えようとするのではなく、目で見て理解して、頭に入れてほしいのです。

こうした視覚的に頭に入れてほしいという思いで、ペースメーカとスワンガンツカテーテルのイラストを作りました。

編集部 たしかに文字ばかりのマニュアルって初心者向けというよりも、ある程度できるようになった人が読んで理解できるものですよね。すごく納得しました。

野崎 そうなんですよね、でも先輩や上司は新人に対して「マニュアルを見なさい」「マニュアルを見たらできるから」と言ってしまうんですよね。でも、できるわけないと思うんです。

編集部 医療職ではありませんが、私も新人のころ同じようにマニュアルに苦しんだ経験がありました。

野崎 そう、だからみんな自分の新人時代に経験しているから、マニュアルがわかりづらいものだってわかってるんですよね。

編集部 でも、わかってても図示化できなかったり、ということもありますね。

野崎 そうですね、だれもが描けるわけじゃないですね。そんなときは写真でもいいと思いますが、写真はいらないものが写ってしまうんですよね。だから伝えたいことだけに絞れるイラストがいちばん見やすいということにはなってしまいます。

編集部 たしかに野崎先生のイラストは「ここを見てね」という感じで、ポイントになるところにスポットがあたっていたり、そうした意図のある構図になっている感じがします。

野崎 それは自分自身が文字を読んで学習ができないタイプだということも影響していると思います。また、いまのようにセミナーや講演で人前で話すようになったころに、師匠から「視覚で訴えろ」と教えられました。「しゃべって伝えることも大事だけど、視覚に訴えるためにスライドをきれいに作ればいい。そうしたら緊張したりしてうまく話せなくても聴き手は気にならないから」と言われて、いまでもそれはそう思ってますね。

編集部 たしかに、スライドが見やすく、わかりやすいと、それでけでその講演を受講した満足度が上がりますね。

野崎 そうそう、そうなんです。

いちばんお気に入りのイラスト

編集部 野崎先生がどんな思いを込めてイラストを描かれているのかがとてもよくわかって、これまでの連載のバックナンバーや書籍を見返してみたくなりました。

野崎 では最後に番外編として私の一番お気に入りのイラストを挙げておきますね。書籍の28ページに掲載されているこちらのエリンギのイラストです(笑)。



編集部 これは連載(#006)に掲載されたときから気になってました(笑)。すごく艶がありますよね。

野崎 そう、すごくいいでしょ! ぷっくらしてて、艶があって、割けている感じが出てて、このイラストがいちばん好きなんです(笑)。

編集部 ほんとに(笑)。書籍『心カテのはなしをしましょうか』にはこのほかにもたくさん魅力的なイラストが収められていているので、たくさんの方々に手に取っていただきたいと思います。先生、ありがとうございました!

書籍紹介



心カテの話をしましょうか

看護師の「学び」メディア『メディカLIBRARY』3年連続閲覧数1位!
ナース・CEが楽しくイメージできる
心カテのはなしをしましょうか

語り口調でスラスラ読めて理解できる!
心臓の仕組みから心臓カテーテル検査・治療における注意点まで、西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)の人気セミナー講師が長年かけてつくってきたイラストをもとに解説する。楽しみながら学びたい心カテナース、臨床工学技士におすすめ!

この書籍の購入・詳細はこちら

目次


【第1章 心臓の解剖が身につくはなし】
1 心臓の役割
2 心臓はどうやって動いているのか?
3 よい血圧はタイミングがすべて
4 心臓には血管が張り巡らされている
5 冠動脈には番号が付けられている①:右冠動脈
6 冠動脈には番号が付けられている②:左冠動脈・前下行枝・中隔枝・対角枝
7 冠動脈には番号が付けられている③:回旋枝
8 動脈血管の構造は?
9 動脈硬化にとってのリスクファクターは?
10 動脈硬化が起こるとき

【第2章 急性冠症候群(ACS)の症状・観察項目が身につくはなし】
1 虚血性心疾患になる要因は?
2 冠攣縮性狭心症の症状と診断の流れ
3 狭心症と心筋梗塞の違いって?
4 動脈硬化によって起こる労作性狭心症
5 冠動脈が細くなっている不安定狭心症
6 心筋梗塞の分類
7 急性心筋梗塞では、徐脈、血圧、胸痛に気をつけよう
8 急性冠症候群(ACS)の痛みの特徴を知っておこう
9 疾患、病態への理解が確実な鑑別診断につながる
10 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)はどのくらい緊急?
11 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)患者では、いかに早く心カテ室に搬入するかが大切
12 ST上昇の流れをマンガで理解しよう!
13 ST上昇型心筋梗塞(STEMI)の12誘導心電図を読んでみよう
14 心筋梗塞で起こるST変化の特徴を知ろう
15 aVRのST上昇は超重症の可能性大!
16 心室細動(VF)になりますよ!
17 Ⅱ、Ⅲ、aVFでのST上昇は徐脈になる
18 心臓の仕事はSV×HR=Coの式そのもの
19 SV×HR=Coは手足に触れるとおおよそわかる
20 ノーリア・スティーブンソン分類で見逃せない7つのポイント
21 一回拍出量(SV)からわかる心臓の「仕事」ができる条件
22 前負荷が低下すると血圧が下がるのはどうして?
23 心収縮力が上がるときに起こっていること
24 現場で思い出したい後負荷と薬の関係
25 緊急カテーテルでまずすること、できること
26 急性心筋梗塞患者で押さえておきたい観察ポイント

【第3章 冠動脈治療が身につくはなし】
1 冠動脈バイパス術(CABG)への治療アプローチ
2 造影カテーテルとガイディングカテーテル、その違いは?
3 心カテ室で使うガイドワイヤーと血流予備量比(FFR)、安静時機能評価法
4 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)で使うガイドワイヤー
5 冠動脈穿孔が発生したときの止血はどうする?
6 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)のバルーンが病変を拡張するとき
7 スコアリングバルーンはどんなバルーン?
8 ドラッグコーティッドバルーン(DCB)はどんなバルーン?
9 パーフュージョンバルーンはどんなバルーン?
10 バルーン治療のときの私たちの目線①:症状と心電図変化に気をつけよう
11 バルーン治療のときの私たちの目線②:血圧、冠動脈造影透視・撮影画像

【第4章 心カテ中のポイントが身につくはなし】
1 穿刺部位を選択するときの観察ポイントは?
2 キシロカイン(R)ショックと迷走神経反射で注意すべきことは?
3 異様に血栓が形成されたら、ヘパリン起因性血小板減少症を疑おう
4 カテーテル挿入後のチェックポイント
5 カテーテルが冠動脈に挿入されるときに注意したいこと
6 冠動脈造影で冠動脈を見るときのコツ①:よく見えるビュー(角度)を探す
7 冠動脈造影で冠動脈を見るときのコツ②:3本の冠動脈、大きさの違いは?
8 冠動脈造影で冠動脈を見るときのコツ③:狭窄の度合いはどれくらい?
9 糖尿病・透析患者の冠動脈、痙攣する冠動脈を見てみよう

【第5章 機器の特徴が身につくはなし】
1 冠動脈攣縮試験で使われる薬剤は?
2 冠動脈攣縮試験の流れを押さえておこう
3 冠攣縮狭心症かどうかを評価するときのポイント
4 テンポラリーペースメーカ植込みの流れ
5 ペーシングカテーテルとテンポラリーペースメーカとの接続
6 病棟で起こりうるテンポラリーペースメーカの合併症とは?
7 スワンガンツカテーテルではフォレスター分類が必須
8 スワンガンツカテーテルの必要物品と手技の流れ
9 スワンガンツカテーテルでは心内圧測定もできる
10 血管内超音波アイバスで血管内診断を行うときにわかること

この書籍の購入・詳細はこちら


発行:2023年10月
サイズ:A5判 176頁
価格:2,750円(税込)
ISBN:978-4-8404-8211-0