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【お話を伺った方】

片野 秀樹 先生
一般社団法人日本リカバリー協会 代表理事/株式会社ベネクス 執行役員


日本は世界的にも国民の疲労度が高いとされており、その傾向は年々強まっています。新型コロナウイルス感染拡大に伴って働き方改革が猛スピードで進んだことも、疲労やストレスに変化をもたらしました。小社刊『疲労を防ぐ! 健康指導に活かす 休養学基礎』は、ストレス軽減に必要な事柄やそのメカニズム、効果的な休養の取り方などについて「休養」を科学的に体系化し解説しています。編著者のお一人である片野秀樹先生にお話を伺いました。

取材・構成
「産業保健と看護」編集室



日本リカバリー協会では2017年から毎年10万人規模の調査を行っており、今、約8割の人が疲れていて、年々増加していることが明らかになっています。

1999年に厚生省が調査したときは6割で、当時はまだスマホもパソコンもあまり普及していない中で働いていました。その頃はある程度バランスがとれていた、例えば商談で先方の会社を訪問したり、あるいは向こうが来られたりと、人の動きがあったと思います。そのための移動時間であるとか、少し早めに着いたら喫茶店で一服するといった「余白」があったのが、コロナ禍もありオンラインや在宅勤務など仕事環境が大きく変わってきて、だんだん余白の取りようがなくなってきました。

オンラインだと朝から1時間おきにミーティングを8本入れるといったことが可能なわけです。そうした働き方をされている方がだんだん増えてきて、しかも頑張ることがいいことだという意識が強いから、働く時間がどんどん延長して、そうなると自身の活力やパフォーマンスが下がってきます。それでも頑張らないといけない、怠けるわけにはいかない、といった気持ちで乗り越えて……という、長時間労働の負のスパイラルに入っていってしまいます。

これまで私たちは休養というものを、どちらかというとネガティブに捉えていたと思います。オンタイムが優先で、オフは二の次三の次でした。ところが今、デジタルデバイスの普及に伴い、オンが次第に後ろ倒しになって、寝るときも枕元にスマホを置き、いつでもチャットやメールを確認できて、連絡を取ることができます。延長するオンに押しつぶされて、オフがどんどん圧縮されています。「24時間働けるんですか」と問えば、誰もが無理だと答えますが、知らず知らずのうちにそこに近づいて行ってしまっています。

社会を変えるにはロジカルな説明が必要

こうした意識を変えるには、ロジカルに説明する必要があると考えていて、社会を変えていくにあたり、ロジカルに考える背景というか、後ろ盾として「学問」があれば、オフは大切なのだと発想の転換ができると思うのですが、今まではそれがありませんでした。そこへ一石を投じたという意味で、本書を刊行したことは社会にとって意味があったと思っています。

このまま「オン至上主義」で行くとするなら、気づいたときにはすでに健康に支障が出てしまっているというリスクがあります。そうなる前に、オフをしっかりとって、活動能力の高い状態にもっていかないといい仕事はできない、パフォーマンスも生産性も上がらない、という発想に切り替えていただく必要があると思います。

働き方改革で、積極的に労働時間を減らす努力をされている企業も多いと思いますが、労働時間を減らしました、オフの時間ができました、だから生産性が上がるかというと、現実はそうなっていません。オフの時間はとるということも大切ですが、何をするかということも大切です。疲れて休みをとることになった社員にアドバイスをする立場にある産業保健職の方や労務・総務担当の方が、ヒントやアイデアを得るために本書を利用していただけるといいのかなと思っています。

休養を学んで活かすことが生き残りの必須要件に

健康づくりの3要素である運動・栄養・休養は国が1978年に打ち出した柱で、運動と栄養については学問体系があり、体育や家庭科の授業で最低限のリテラシーは学んでいます。しかし休養はそうではありません。習っていないけれども、休みたい気持ちはあって疲れてもいる、そのとき何に頼るかというと、自分の過去の記憶です。

「小さい頃は寝たら治った」という記憶や経験に頼るしかないのですが、体力は20歳をピークに下がりますし、代謝も免疫も下がります。もちろん寝ることは大切ですが、加齢に伴って体が変わっているのだから、別の方法を探して、しっかり休養をとらなければなりません。

休養の学問や知識というものが、今後さらにスピード化してくる社会の中で、生き残るための必須要件になるのではないかと考えています。学校教育の中に組み込まれるとよいのですが、何年先のことになるかわかりませんし、それまでに皆さんが耐えられないところまで来てしまいます。できるところから草の根的に始めようというのが本書のスタートラインです。

「産業保健と看護」17巻3号より再掲

書籍の案内




『疲労を防ぐ!健康指導に活かす
休養学基礎』


正しい休養、評価、指導のすすめ方
疲労を防ぐ!健康指導に活かす 休養学基礎

科学的な休養を!健康指導に関わる方必読!
世界的にも疲労度が高いとされる日本。新型コロナウイルス感染症により、人々はさらにストレス耐性が求められている。ストレス軽減に必要な事柄やそのメカニズム及び効果的な休養の取り方などについて、「休養」を科学的に体系化した良書である。健康指導に関わる全ての方々、健康志向の高い一般人必読の書。

発行:2021年7月
サイズ:B5判 226頁
価格:3,520円(税込)
ISBN:978-4-8404-7566-2
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