1.はじめに
「私は依存症です」と胸を張って言える場所が日本にはどれくらいあるでしょうか?
「依存症から回復したんだ! すごいですね! 格好いい!」と答えてくれる人がどれくらいるでしょうか?
依存症者は医療者のなかでさえ差別・偏見を受けてきました。病気であるのに意思の問題のようにとらえられ、たとえればコロナになって熱を出したら「気合が足りない」と怒鳴られているような扱いを、長年されてきました。マスコミでは有名人が根性論や精神論を堂々と話し、それが批判されることもありませんでした。
そんな情報にだけ触れていると、人は「依存症になるのは恥ずかしいこと」「意思が弱いこと」「なったら終わりだ」と思ってしまいます。その結果、医療や治療から遠ざかってしまいます。だって医療に行ったら「自分がだらしない人間」で「あなたの人生は終わりました」と宣言されてしまうかもしれないのですから……。
2.「誰でもなる。誰でも治る」
依存症が病気である以上、ほかの疾患同様にどんな人でもかかるリスクがあります。聖人君子でも、悪逆非道な人でも、しっかりとした人もだらしない人も、みんななり得ます。「誰でもなるし誰でも治る」が依存症なのです。
では依存症になって自助グループや医療などで回復したら、そのあとはどうでしょうか? 依存症にかかったこと、治療によってそれを乗り越えたことは重要な価値ある本人の経験です。その経験を話せる場はどの程度あるでしょうか? もちろん医療や自助グループは安心してその話ができる場です。でも本当はどこでもいつでも、普通に「あの病気にかかっていたときはたいへんだったよ」と話すことができて、「今は元気でよかったよね」「ちゃんと治療したのすごいわ~」って返してもらえる社会のほうが、誰もが生きやすい気がします。
3.社会や行政を巻き込む奄美プロジェクト
そんな思いを抱きながら、社会を変えるためには何ができるだろうかと考えていたときに、今回の「奄美プロジェクト」の話を同期の熊田先生からいただきました。それは、鹿児島県の奄美大島にある精神科病院が空床になっているので、そこを依存症治療の拠点にして、回復施設をつくって、地域社会も振興するという、病院だけでなく社会や行政を巻き込んだプロジェクト。
熊田先生の語る、医師や看護師が治療を施すのではなく、いっしょに生きにくさの対処法を見つけていく「治療共同体」の概念、病院や自助グループだけでなく社会自体を変えていくために必要性があり、そのために必要なこと……など。僕が漠然と考えていたことが整理され、名前がついていました。
これは日本の依存症治療が変わり、「回復者は格好いい」という共通認識を広げられるチャンスだと思って飛びつきました。さまざまな今までにつながった医療者、当事者、家族などに情報を拡散しまくりました。
結果、たくさんの人が興味を持ってくれて、3人のそれぞれ別のスペシャリティーを持ったスタッフが、今までの安定を捨てて島でのプロジェクトに参加してくれることになりました。令和8年10月1日、まず最初はギャンブル依存症に特化して入院病棟がスタートです。
今後は自助グループ(GA)を立ち上げて回復施設(グレイスロード)に来てもらって、地域の人たちと共生を目指します。山梨のグレイスロードは、最初は駅のごみ拾いなどボランティアをして地域の人との距離を縮めていき、今ではその場所になくてはならない施設になっています。いっしょにお祭りをして、いっしょに楽しむ生活。回復が進んだ後も島で住み続けたいという人が出てきたら、初期費用も必要です。住み続けるためにも自分でお金を稼ぐための雇用が必要です。雇用のためには「入院中であってもしっかりと仕事してくれる」という信頼が不可欠になっていきます。やるべきことは多いですが、この一つ一つが、島を、社会を変えてくれる気がします。
4.これからのいっしょに変化していく仲間募集
ここからどんなことが起こるのか、多分、想像しているよりもたいへんなことも起こるでしょうが、想像していたよりも素敵なこともたくさん起こるはずです。
依存症治療に携わり始めた最初のころに、「この患者さんはどうやって回復していくんだろう」とワクワクしました。今回は患者さんたちを通して「この島はどうやって依存症者の回復が格好いいということを受け入れてくれるんだろう」とワクワクしています。
やりたいことはたくさんあります。やったほうがいいんだろうなと僕が思うこともたくさん。そして、なにより現地の依存症者たちが「これやりたい、あれもやりたい」言い出してくれるはずです。それを形にしていくためにはより多くの仲間が必要です。この仲間は「当事者」「家族」「援助者」みんなです。
奄美プロジェクトにそれぞれの立場で興味持っていただける方々、ぜひご連絡お待ちしています!
E-mail: tsune1027@hotmail.com
昭和大学医学部卒業後、現在の病院に勤務。依存症治療の楽しさを知り、依存症治療にハマる。趣味は旅行で2015年には一年間バックパッカーをしていた。
書籍:僕らのアディクション治療法:楽しく軌道に乗れたお勧めの方法:星和書店、2019
