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1.はじめに

私は大学生のころから統合失調症やうつ病などの精神疾患に関心があり、精神科の医師の道を選びました。まだ医師4年目であり、日々大学病院で経験を積みながらトレーニング中ですが、老若男女さまざまな患者さんの生い立ちや価値観に向き合うことはなかなか刺激的で、自分自身の視野も広まります。今回は、病棟や外来勤務をしながら勉強をしている私の実体験に基づく、リアルな依存症についてお話したいと思います。

「依存症」というと、アルコールやギャンブルへの依存を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。さらに、そのほかの依存対象として、もの(薬物、カフェイン、ニコチン)、行為(買い物、ダイエット、カルト)、人(恋人、家族)などがあります。調べると非常に多様で興味深いです。特にアルコール依存症は患者数も多く、よく話題になります。私自身は赤ワインが大好きですが、食事会でたしなむ程度ですし、ドラッグや自傷行為、恋愛などへの依存もありません。こう言うと、依存症にはまったく縁がないようですが、私には「ある依存症」からの脱却の思い出があります。

2.大学でのブラックな経験

私は高校を卒業して強制的に大学の寮に入りました。その寮で自らが不穏になるようなイベントがあったり、無視されたり、いじめられたりしたわけではありません。それなのに突然、目標とやる気を失って完全自滅しました。周りの友達が部活動や飲み会、恋愛と、青春を謳歌している様子をうらやましく感じてはいるものの、行動できるエネルギーや勇気もなく、劣等感や虚無感を抱いていました。

そのころにハマったものが「糖質」でした。とはいえ、甘いものを買いに売店へ頻回に行ってクラスメイトや店員さんに顔を覚えられたり、怪しまれたりしたら大変なので、人目を避けた末の私のオアシスが自動販売機でした。残念ながら、寮生活は、自動販売機のメロンパンやアイスクリームの思い出しかありません。そのうちに皆と顔を合わせるのも億劫になり、飲み会に誘われても行かなくなりました。負のスパイラルに陥り、今思えば恥ずかしいばかりで、遊びに誘ってくれた友人たちには申し訳なく思っています。

ただ、医学部には私と同じように何かに依存している人がたくさんいました。アルコールやゲーム、中には窃盗まで……。依存症は身近な疾患であり、珍しいことやおかしいことではなく、ほとんどの人が何かを抱えていると気付かされました。

3.ストレスコーピング(逃げ道を作ること)

私は寮生活から解放された後、自分と向き合い、寮で蓄えた脂肪の燃焼も兼ねてウォーキングや筋トレを始めました。そして夢中になれる新しい趣味や勉強をいくつか見つけました。あのころのつらかった経験を通して、好きなことを見つけ、チャレンジし、適切な目標を作り、できたら自分を褒めるといった、小さな成功体験を積み重ねるようにしています。

経験を積むことで不安耐性に強くなり、自己肯定感や生活の質の向上につながります。これは依存症以外の精神疾患のリハビリにも適応できます。そもそも、依存症はうつ病や不安障害など、ほかの精神疾患と併発する場合が多々あります。

4.ストレスコーピング(辛いことはどうでもいいと思えるようになること)

また、私は完璧主義をやめるようにしました。例えば勉強についても「今日は30ページしか進んでいない。目標は100ページだったのに、もうダメだ」ではなく「今日は30ページ進んだ。偉い!」という思考に変えたのです。仕事など生きていくうえで避けられないことは、頑張るところは頑張らなければいけません、ただ長く続けるために自分が壊れない程度にします。

5.冷静に自分と向き合う

「依存症」とうまく向き合うためには、ストレスコーピングの方法をできるだけ多く見つけ、行きづまった際の逃げ道を多く作ることが大切です。「昇華(社会的に好ましくない目的や対象を社会的に評価されるかたちに自己実現を図ろうとすること)」が個人的に好きなワードです。

日常生活を送るにあたって、個人差はありますが、どんな人でもストレスは必ず感じるものです。「最近アルコールやタバコの量が増えた」と感じたら、潜在的に不安感や不満感を抱えている指標になります。それが何に対して不満なのかを冷静に分析し、整理して解決方法を考えることも大切です。患者さんにも同じようなアドバイスをするようにしています。

6.患者さんと接して感じること

現在、診察している依存症の患者さんたちの多くは、明らかに「怠け者でだらしなくダメな人」ではなく、根は真面目で他人を思いやるような、とても人あたりが良い印象です。一方で、自己肯定感が低く、敏感なためプレッシャーや人間関係のストレス、孤独感や不安感などがあり、葛藤や生きづらさを抱えている人が多いです。その負の感情から逃れるために依存症になるのです。

自分の経験を思い出すと、依存症の患者さんに共感することは多々あります。したがって患者さんに強く注意したり、ガッカリした表情を出すことはありません。依存症は皆が必ず克服できる可能性があり、いくら時間がかかっても温かく励ますようにしています。失敗してもそのことを話してくれたことや、断酒できなかったけれど通院できたことなど、できたことを大いに評価するようにしています。医療スタッフからのメッセージや態度も患者さんのモチベーションにつながります。

7.おわりに

趣味の行き過ぎと依存症の線引きはむずかしいですが、「生活に支障をきたす」レベルは依存症と診断しています。依存症は、お金、時間、信用、仕事、健康、家族などを失います。今後も「依存症治療」に関してはさまざまな方から意見をいただきながら学んでいきたいです。

プロフィール:田中有咲
昭和大学横浜市北部病院 メンタルケアセンター
1994年生まれ神奈川県横浜市出身
昭和大学横浜市北部病院 精神科医師
日本医師会認定産業医

現在興味ある分野は発達障害や統合失調症など

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