今回の事例



『入院してから発汗や動悸などが続き、イライラした様子がみられるようになった』

40代男性。職場でトラブルになることが多く、徐々に周囲から孤立したため、不安感などが強くなっていった。また、夜になっても眠れなくなり、なんとかお酒で紛らわす日々が続いていた。そんなある日、車の運転中に自損事故を起こし、多発骨折にて入院となった。入院して半日ほどたってから、発汗や動悸、手の震えなどが出現し、長時間続くようになった。また、不安な素振りがあったかと思うと、看護師に対して「家に帰る!」と急に怒り出すなど、イライラした様子もみられた。なお、飲酒量について、本人は「毎日、缶ビール500mLを1本飲む程度」などと話した。



Q この患者さんで、考えられる疾患は次のうちどれか?



①(疾患ではなく)性格
②パニック障害
③アルコール離脱症状





「解きかた」を解説します!




①性格を疑う場合

性格とは、個人の心理特性のほか、行動や社会的な振る舞いの傾向など、その人が持つ個性的な特徴のことを指します(ChatGPT)。Goldbergらによる“ビッグファイブ理論”が有名で、①開放性、②誠実性、③外向性、④協調性、⑤神経症的傾向という5つの尺度で性格を評価することがあるようです。今回の事例では、ケアをしてもらっている看護師に対して突然激高するなど、社会的な場面で行き過ぎた振る舞いがみられていることから、「性格」が影響している可能性もあります。

観察ポイント 見逃し注意!

医療者は、対応に困る患者さんに遭遇すると、「もうかかわりたくない」などの陰性感情をもつようになります。そして、その言動の理由として、「本人の性格の問題(元々のキャラクター)」などと決めつけてしまいがちです。ひとたび性格的なものと考えてしまうと、背景にある精神疾患のほか、身体疾患や薬剤によるせん妄などを見逃す可能性があります。したがって、あくまでも性格というのは、あらゆる疾患を排除した「除外診断」と考えるのがよいでしょう。



②パニック障害を疑う場合

パニック障害とは、明らかなきっかけなく突然パニック発作を起こし、それが繰り返される病気のことです。パニック発作では、強い不安感だけでなく、発汗や動悸などの自律神経症状のほか、息苦しさや窒息感などの呼吸器症状が現れます。パニック発作を繰り返すと、「また発作が起こるのでは?」といった予期不安が生じることから、生活をする上で大きな支障をきたします。今回の事例では、不安感に加えて発汗や動悸などの自律神経症状がみられていることから、パニック障害の可能性が十分考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

ただし、パニック発作は通常10分以内でピークに達し、その後は数分程度で消失するのが一般的です。家でパニック発作をきたし、救急車で運ばれるようなケースもありますが、その多くは病院に着く頃には落ち着いています。今回の事例では、自律神経症状が長時間続いていることから、パニック発作の可能性はきわめて低く、パニック障害は否定的です。



③アルコール離脱症状を疑う場合

習慣的に多量飲酒をしていた人が、急な断酒を余儀なくされたことで、アルコール離脱症状をきたすことがあります。アルコール離脱症状では、発汗や動悸などの自律神経症状のほか、悪心・嘔吐といった消化器症状に加えて、不安やイライラなど、さまざまな症状がみられます。また、手指振戦がみられやすいのも大きな特徴です。今回の事例では、入院によって飲酒ができなくなり、そのタイミングで発汗や動悸、手の震えなどの自律神経症状や、不安・イライラなどの精神症状がみられていることから、アルコール離脱症状と考えられます。

観察ポイント 見逃し注意!

アルコール依存症は、本人に病識がないことも多いため、「否認の病気」と呼ばれています。今回の事例でも、本人の訴えをそのまま受けとると大した飲酒量ではありませんが、アルコール依存症の人は過少申告をする傾向にあります。したがって、飲酒量については本人の話だけでなく、家族からも情報を得るほか、血液生化学検査で肝機能を確認するなど、多方面から評価を行う必要があると言えるでしょう。なお、アルコール依存症では、飲酒の影響による転倒・転落や運転事故などで受傷し、救急搬送されるケースもあるため、十分注意が必要です。




選択肢を検討した結果、答えは…



『YORi-SOU がんナーシング』2024年4号でご覧ください!




井上真一郎
新見公立大学 健康科学部 看護学科 教授




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年4号からの再掲載です。

YORi-SOU がんナーシング2024年4号

YORi-SOU がんナーシング2024年4号
【第1特集】
エキスパートの体験とコツをぎゅっと詰めました
がん薬物療法のキードラッグ ひと目でまなべるケアノート


■Part1 がん薬物療法看護に携わるナースのみなさまへ
●01 あなたの知識が患者さんをHappyにする!

■Part2 キードラッグ16 ひと目でまなべるケアノート
●はじめに Part2の使いかたガイド
●01 キードラッグ1
一般名 カペシタビン 商品名 ゼローダ®
●02 キードラッグ2
一般名 S-(1テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム) 商品名 ティーエスワン®
●03 キードラッグ3
一般名 トリフルリジン・チピラシル 商品名 ロンサーフ®
●04 キードラッグ4
一般名 レゴラフェニブ 商品名 スチバーガ®
●05 キードラッグ5
一般名 レンバチニブ 商品名 レンビマ®
●06 キードラッグ6
免疫チェックポイント阻害薬
●07 キードラッグ7
一般名 ベバシズマブ/ラムシルマブ 商品名 アバスチン®/サイラムザ®
●08 キードラッグ8
一般名 セツキシマブ/パニツムマブ 商品名 アービタックス®/ベクティビックス®
●09 キードラッグ9
一般名 トラスツズマブ 商品名 ハーセプチン®
●10 キードラッグ10
一般名 リツキシマブ 商品名 リツキサン®
●11 キードラッグ11
一般名 シスプラチン 商品名 ランダ®
●12 キードラッグ12
一般名 オキサリプラチン 商品名 エルプラット®
●13 キードラッグ13
一般名 イリノテカン 商品名 トポテシン®
●14 キードラッグ14
一般名 パクリタキセル・パクリタキセル懸濁型/ドセタキセル 商品名 タキソール®・アブラキサン®/ワンタキソテール®、タキソテール®
●15 キードラッグ15
一般名 ドキソルビシン/エピルビシン 商品名 アドリアシン®/ファルモルビシン®
●16 キードラッグ16
一般名 ベンダムスチン 商品名 トレアキシン®
●Part2の引用・参考文献

■Part3 セルフケア力アップがキー! 重要副作用の支持療法とケア
●01 皮膚障害
●02 末梢神経障害
●03 リンパ浮腫・薬剤性浮腫
●04 口腔粘膜炎
●05 便通異常(下痢、便秘)
●06 食欲不振
●07 倦怠感
●08 悪心・嘔吐


【第2特集】
悪心・便秘・眠気・せん妄
副作用を起こさないためのオピオイド超実践ガイド


■Part1 オピオイドの副作用対策
●01 副作用対策は疼痛管理・患者さんのQOL維持のために重要

■Part2 副作用を基礎知識・症例検討で学ぼう
●02 実践ガイド 悪心対応はこうする!
●03 実践ガイド 便秘を起こさせない!
●04 実践ガイド 眠気・せん妄を見極めたい!

▼詳しくはこちらから