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看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」のみなさんが、毎回テーマに沿ってそれぞれの看護の足跡を残していく本企画。

「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。

今回は「いちばんの困難を乗り越えた時」を綴っていただきました。

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困難って、一皮剥けるためにがむしゃらに頑張って、知識や技術を習得した、とか。

泥臭い過程を乗り越えた先には、成長して自信のついた自分がいる、とか。

そんなお話だと思うんです。

いろいろ考えたのですが、美談になってしまうだけだったので、とある日の夜勤についてお話しします……覚悟してください。

その日は、同期との夜勤だった。

外科病棟にしては珍しく、ターミナルとサブターミナルの患者さんが多かった。

ターミナル患者さんのなかには家族が付き添っている方もいた。

みんな、バイタルは低め安定だけど、いつ、ストンってなってもおかしくない状態だった。

【18時】

ターミナル患者さんのアラームが鳴った。

ゆっくりゆっくり、HRの数値が小さくなっていった。

同期と目を合わせ、“がんばろうね”とお互いにアイサインをした。

家族に見守られながら、ゆっくりと静かに、永眠された。

5年目の先輩のなかには看取った経験がない人もいるくらい、お看取りのない病棟だったので、現場は少しバタバタした。

【20時】

お見送り終了。

お亡くなりになった患者さんのお隣の部屋のサブターミナルの患者さんに声をかけた。

バタついたのを察してか、「大変だったね」と労いの言葉をくれた。

がん性疼痛と筋力低下により、寝返りも介助だけど、意思疎通は問題なくとれる方だ。

【21時】

別のターミナル患者さんのHRがモニター上、50台となることがちらちらと出てきた。

勤務開始時には60~70台だった。

同期と目を見合わせた。

何も話さずとも、思いは同じ。

その方は、予想よりも早く息を引き取った。

こちらも穏やかだった。

家族が付き添いしていた。

お見送りを終えたのが、25時30分。

お看取りが続き、休憩が取れていなかったので、「少しずつでも休憩を取ろう」と、リーダーが提案した瞬間。

アラーム音。

……。

さっき「大変だったね」と声をかけてくれた、サブターミナルの患者さんのアラームだった。

HRは30台だった。

「えっ……」

目を合わせる夜勤スタッフたち。

延命はしないという方針は決まっていたし、何があってもおかしくない状態ではあるけど、でも、まだそこまでの状態ではなかった。

下っ端のわたしは、ベッドサイドへ走った。

心がざわつき、自然と小走りになってしまう。

そこには、ベッドに端坐位で、俯き、左に傾斜し静止している患者さんがいた。

声をかけても反応はなく、呼吸停止していた。

ちなみに、左隣ははじめに亡くなった患者さんのいた部屋だった。

最初にすこし触れたように、その方は自力で体勢を変えることができなかった。

明らかに不自然だと感じた。

本来であればナースコールで報告すべきところを、ダイレクトに同期のPHSに電話をした。

恐怖なのか、驚きなのか、何かが度を超えてしまい、言葉が出なかった。

やっと絞り出せた言葉は、同期の名前のみだった。

駆け付けた同期も先輩も、ベッドサイドのその様子を見て固まってしまった。

「嘘でしょ……」

やはり、誰が見ても明らかに不自然な体勢だった。

お亡くなりになった方にそんな感情を抱いてはいけないけど、状況が状況で、まだ経験の浅いわたしには恐怖のほうが勝ってしまった。

状態は落ち着いていたため、家族の付き添いはなかった。

この方は1人で旅立たれた。

いまだにとても悔やまれる。

【明け方】

ヘトヘトのわたしたちは朝ご飯だけ詰め込んだ。

ご飯食べたら、荒れたベッドサイドを片付けよう。

もう、さすがにないだろう。

お願いだから、落ち着いてください。

お願いだから。

【5時】

続くときは続く。

ある意味で、予想どおりにまた1人、旅立たれた。

……。

……。

……。

諸々を終え、ひと段落したのは8時前だった。

日勤さんが、夜勤組の顔や病棟の状況を見て、「夜勤さんはもういいです、何もしないでください」と言ってくれ、わたしたちはエンドレス夜勤から解放された。

外科の病棟、しかも、ほとんどお看取りがない病棟で、一晩に4人をお見送りした。

誰かが亡くなると、“連れて行く”とはいうけれど……。

お彼岸だったからなのだろうか……。

ターミナルの多い時期だったからだろうか……。

いろいろと考えてしまったけど、本当のことはわからない。

まあ、考えすぎてるだけで、きっと自然な形だったんだろうけど。

もうすぐ夏だし、こんなお話もたまには、ね。


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fractale~satomi~
twitter:さとみ(@minisatominy

三度の飯よりお酒が大好きな飲兵衛看護師。仕事終わった瞬間からが本番だと思っている。仕事は真面目な自信あり。大学病院消化器外科3年、民間病院ICU2年、公立病院脳外科夜勤専従、訪問入浴、デイ、老健など1年の派遣生活を経て、メルボルンへ10ヶ月の看護留学。帰国後から訪問看護師として働き3年目。座右の銘は「笑う門には福来たる」。根からの明るい性格を最大限に利用し、日々楽しく訪問中。マルチポテンシャライトだから特技っていう特技はないけど、強いて言えばラポール形成が無駄に得意。今までクレームや担当変更がないのが密かな自慢。ちゃっかり保健師免許所有。 

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