「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。
今回のテーマは「はじめての急変対応」です。
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「誰か来てください!!!」
そろそろ昼休憩の早遅を決めなくちゃね、ってリーダーに言われたタイミングだったと思う。
個室から叫び声が聞こえて、みんなで部屋に向かう。
声の主の同期が、胸骨圧迫をしていた。
ドクターコールに走る先輩、救急カートを取りに走る先輩。
私はといえば、はじめての急変対応に……、厳密にいうと、血の気の引いた患者さんの真っ白な顔や、その張り詰めた空気に、足がすくんで動けなくなってしまっていた。
どうしよう。どうしよう。
「のぞみ氏! 心マ変わって!」
同期にそう叫ばれて、ベッドに駆け寄る。
何度もイメトレした胸骨圧迫。
べき
話にはもちろん聞いていた、肋骨が折れる感触。
さすがにそこまでイメトレしていなかった。掌の付け根で押すたびにぺき、べき、と不穏な音がする。
泣きそうになりながら胸骨圧迫を続ける。
30:2だったっけ。
でもまだバッグバルブマスクも到着しないから、胸を押し続けるしかない。
鼻カヌラから酸素が流れ続けているけど、呼吸は止まっているし。
「モニターつけます!」
「挿管、準備できてます!」
「DC、AEDモードでついてます!」
「ご家族、20分くらいで到着します!」
「CV挿入すると思うから生食とヘパリンも準備しておいて!」
まわりが猛スピードで処置の準備をしていくなか、唯一私にもできる胸骨圧迫を続けた。
医師が到着し、アドレナリンの指示を出しながら挿管を開始する。
「心マ交代するよ?!」と声をかけてくれる同期や先輩もいたが、なんならほかの処置はまだどれも自立をもらっていない。
ぶっつけ本番でできるはずもない。
「胸押すの弱くなってる! 次代わるよ!」
もうすぐ挿管終わる、というタイミングで胸骨圧迫を変わってもらった。
「心拍再開しました!」
どうにかこうにか、蘇生は完了した。
「のぞみんは心マ以外もできるようにならないとね」
蘇生中、胸骨圧迫を変わってくれた先輩は、プリセプターの先輩だった。
「心マしかできないと思って、ずっと心マしてくれてたんだよね? でも交代できないと、さっきみたいに押す力も弱くなって有効な心マができないからね」
「はい……」
「極論だけど、心臓の動きは胸骨圧迫をすることで補える。呼吸が止まっても挿管して人工呼吸器につなげば大丈夫。だから、精度の高さを求めないといけないよ」
「はい……」
「でもナイスファイトだったよ! お疲れ!」
翌日ハチャメチャに筋肉痛になって若干夜勤に支障をきたした。
もっとイメージトレーニングを積もうと思った、はじめての急変対応。
//バックナンバー//
#001 孤独にDance in バベル
#002 RED
#003 Dear my lovely memo
#004 BE THERE
#005 憂いのTubing
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fractale~nozomi~
twitter:のぞみ(@sratsylenol)
看護師クリエイティブプロジェクトFractaleのエモ担当。なぜか気が付いたら在宅沼に片足突っ込んでいた7年目看護師。外科・脳外科病棟→救命救急センター→集中治療室→2020年2月から在宅。新米訪問看護師。輸液ポンプ、シリンジポンプのコード整理の特技が活かせなくなってしまった。元葬儀屋、病院栄養科勤務経験のある社会人から看護師パターンのやつ。ケアの原点を在宅に感じて、改めて生と死を見つめ直そうとしている。趣味は筋トレと読書とロードバイクと音楽鑑賞。B'zに対する並々ならぬ執着心がチャームポイント。 好きなトレーニングはレッグエクステンション。
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