歩行困難となって生活に支障が出ていたPさん
Pさんは70歳代男性で、50歳のころに2型糖尿病を発症しました。X-25年に奥さんを病気で亡くして以後、一人暮らしをしています。X-17年、脳梗塞の発症を機にインスリン療法が開始されました。Pさんは自宅近くの診療所に頻回に通い、インスリン注射の手技を獲得しました。
X年1月、変形性膝関節症で歩行困難となり外来通院ができなくなったため、訪問診療に切り替えて治療を続けることになりました。膝の痛みが強く、つたい歩きをしているため、トイレに行くのにも時間を要し失禁してしまうなど、生活に支障が出ており、一人での外出も困難になっていました。
それからすぐに介護サービスの導入が始まりました。食事の買いものと掃除はホームヘルパーが行い、入浴はデイサービスを利用することになりました。Pさんは近隣とのつき合いもなく、家でテレビを見て過ごすことが日課でした。体重は10年前から90.0kg台後半だったようですが、膝の痛みがあるため動くことが減り、体重100.0kg、BMI34.1kg/m2、HbA1c9.4%まで悪化してしまいました。

しぶしぶ開始された訪問看護
X年11月、Pさんは訪問診療医から訪問看護をすすめられ、しぶしぶ承諾しました。毎朝、インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬の配合薬を11ドーズ自己注射し、血糖測定を1日1回実施していました。
Pさんは「訪問看護なんて毎週いらない!」「これ(肥満)は自分の問題なんですよ! 看護師さんは何もできないでしょう?」「へんなこと聞くけど、おたくら(医療者)は、太った人の気持ちがわかりますか?」などと話し、Pさんのつらい思いを知ることになりました。
その後、訪問看護は月2回に減りました。訪問診療医、訪問看護師、ケアマネジャー、デイサービスのスタッフ、ホームヘルパーはノートを活用してPさんの情報を共有していきました。
くだものが大好きなP さんの思い
X年12月、Pさんは口渇と頻尿の症状があり、1日に10回ほどトイレに行っていました。朝食はもち2個、昼食はスーパーマーケットの弁当1つ、夕食はカップラーメン1個にもちを1個入れるなどの食事内容でした。
また、Pさんはくだものが大好きで、「夜中の11時ごろ、空腹で柿2個とみかん3個を食べている」と言い、「小さいころから体が弱くて、親が栄養をとるためにくだものを毎日食べさせてくれた」と教えてくれました。看護師は、くだものが好きなPさんの思いを大切にしながら、実行可能な目標を一緒に考えていきました。「毎週体重を測る!」「夜食は柿1個だけにしてみる!」とPさん自身が目標を立てました。
X+1年2月、デイサービスで実施している体重測定では、順調に2.0kg減少していました。看護師は称賛して励ましましたが、Pさんは「看護師さんは大げさや! まだまだあかん!」と苦笑いしていました。
傷ついたPさんのこころ
X+1年3月、PさんのHbA1cは9.4%とふたたび悪化していました。Pさんは「デイサービスのスタッフから『体重がまた増えてきているから、医師や看護師には内緒にしておく。今日は体重測定を忘れたことにするね』と言われた」と落ち込んでいました。大切なことは、体重や血糖値に一喜一憂せず、これまで病とともに長いトンネルを抜けてきたPさんの人生の語りに耳を傾けていくことだと思いました。Pさんの隣に座り、もたれるように寄り添って……。
肥満症や糖尿病に関するスティグマ(社会的偏見による差別)にも目を向け、これからもケアのありかたを考えながら支援していきます。
京都保健会総合ケアステーション/わかば訪問看護
看護学校卒業後、京都市内の総合病院で10 年間勤務。同法人の診療所へ異動し、看護主任として従事するなかで、糖尿病患者とのかかわりかたのむずかしさを知り、糖尿病を専門的に学ぶため、2009 年に家族を連れて東京へ転居。多摩センタークリニックみらい・クリニックみらい国立で高度な糖尿病医療に携わる。その後京都に戻り、現在に至る。

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