「消化器の術式は難しくて理解できない……」。そんなお悩みも『消化器ナーシング』のこの連載で解決! 消化器外科医のおぺなか先生が描くリアルで臨場感あふれるイラストで、まるで “実際の手術を覗いているように”術式が理解できます。術式がわかれば、起こり得る合併症の危険も見えるはず。連載を通して、消化器手術を極めましょう!
消化器外科手術の最高峰! 最初から最後まで気の抜けない、外科医の総合力が試される手術です。
Point!膵頭十二指腸切除術とは
主に膵頭部がん、遠位胆管がん、十二指腸乳頭部がんなどに行われる術式です。十二指腸、膵頭部、胃の一部、空腸の一部、胆囊・胆管をひとかたまりに切除します。複雑な構造に多くの重要血管が走行しているため、臓器損傷や出血のリスクが高く終始慎重な操作を要します。さらに、切除後は離断された消化管、胆管、膵管のそれぞれを再建する必要があり、最後まで気が抜けません。切除から再建まで長丁場の手術であり、まさに外科医の総合力が試される高難度手術です。
手術は開腹が基本ですが、限られた施設で腹腔鏡・ロボット手術が取り入れられています。侵襲が大きく複雑な術式であるため、術後合併症が起こる可能性もほかの消化器手術に比較し高いものとなっています。術後もまったく気が抜けない手術です。
Check!起こり得る合併症
膵管空腸吻合部から膵液が漏れることです。術後早期に発生することが多く、ドレーン排液の性状変化(ワインレッド様)やドレーン検体のアミラーゼを測定することで診断します。膵液漏により腹腔内膿瘍を形成することがありますが、それが長期化した場合は仮性動脈瘤を形成し、しまいには動脈瘤破裂による大出血をきたし、死に至る可能性もある非常に恐ろしい合併症です。
胃の一部の切除による消化管ホルモンの減少、胃周囲の炎症などが原因で、胃の動きが一時的に悪くなり食事が思うようにとれなくなることを指します。炎症の改善により次第に軽快することがほとんどですが、食事がとれるまでは補液や経腸栄養による栄養管理を継続する必要があります。
胆管と空腸を直接吻合するため、胆管に腸液が逆流し胆管炎を発症することがあります。術後、突然に悪寒戦慄を伴う高熱を認めた際に強く疑います。重症化すると敗血症から全身状態の悪化をきたすため、早期発見・早期治療が非常に重要です。術後しばらくしてからも繰り返し発症することがある厄介な合併症です。
膵頭十二指腸切除術は術後合併症リスクがかなり高く、術後からが本番といっても過言ではありません。以前僕も術後2週間での腹腔内出血でたいへんな思いをした経験があります。「先生、ドレーン排液がほんの少し赤いんですけど……」の報告がきっかけで、幸い大事に至る前に対応ができました。こまめな観察と報告に感謝です!
現役消化器外科医
Twitter→@ope_naka
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[特集1]
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■総論 術後の正常排液
●1 外科 術後出血時の排液
●2 外科 上部消化管縫合不全時の排液
●3 外科 下部消化管縫合不全時の排液
●4 外科 胆汁漏時の排液
●5 外科 膵液漏時の排液
●6 外科 腹腔内感染時の排液
●7 外科 乳び漏時の排液
[特集2]
どう選ぶ?どう使う?
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