▼バックナンバーを読む

事例

Aさん(78 歳、女性)は、日課の散歩中に転倒し歩行困難となりました。通りがかりの人に発見され、右股関節痛を訴えたため救急搬送されました。右大腿骨頚部骨折(femoralneck fracture)と診断され、緊急入院となりました。既往歴は気管支喘息(bronchial asthma)、心房細動(atrial fibrillation)があり、内服治療中です。入院前は独居であり、身の回りのことは自分で行っていました。しかし、近所に住む長女は、Aさんが最近物忘れがひどくなったことを気にしています。

問題

手術は無事に終了し、術後はクリニカルパス通りにリハビリテーションを進めることになりました。Aさんは手術当日の夜、「足が痛くて動けない。なんででしょう」と手術をしたことを忘れていました。看護師が手術をしたことを伝えると、「あ、そうだったわ。呆けたのかしら。自分で自分が心配だわ。不安になっちゃう」と話していました。日中は見当識障害はなく、「痛みが強いし、こんなんじゃ不安でリハビリができない。夜も眠れなかったし、少し眠らせてください」と訴えていました。日中の看護として適切なのはどれですか。
<正解率66%>

(1)休息のため、術後1 日目は睡眠を優先させる。

(2)疼痛を軽減させるため、鎮痛剤を使用し、車椅子乗車を促す。

(3)不安が軽減し、リハビリに臨めるよう抗不安薬、睡眠剤の服用について医師と相談する。



… 正解は …











(2)

解説

(1)⇒睡眠障害はせん妄を引き起こすことがあります。患者の睡眠状況を客観的に評価することや日中の活動量を増やし、睡眠・覚醒リズムをつけ昼夜逆転を予防し、1日の生活パターンを確立する必要があります。また、睡眠を妨げる要因を明らかにし、それを取り除くことも必要です。
(2)⇒術後の早期離床は、肺への酸素取り込みの増加、深部静脈血栓症の予防、下肢筋力低下予防、腰背部痛の予防等、術後合併症予防に効果的です。疼痛による苦痛は患者の体力を消耗するため、疼痛コントロールを図る援助が必要です。患者に離床の必要性を説明し、早期離床を進めていく必要があります。
(3)⇒患者から不安の訴えがあったときは、不安がどのレベルにあるのかを正確に見極め、そのレベルに応じた介入が必要です。高齢者は代謝、排泄機能の低下により、薬剤の作用が遷延しやすく、その弊害も多くなります。抗不安薬や睡眠剤はかえって認知機能の低下やせん妄の危険性が増すこともあり、高齢者への薬物投与は慎重に検討する必要があります。薬剤を第一選択とせず、心身の苦痛を軽減し、安楽を保つ介入をしましょう。

長期に臥床していると、多くの合併症を引き起こす可能性が増します。術後の回復を促進するためには術後合併症を予防し、早期に日常を取り戻すことが重要です。特に、高齢者の場合にはせん妄症状やうつ傾向が出現することで離床がさらに遅れる恐れがあります。手術による侵襲から回復し、離床できる時期であれば可能な限り早期に離床できるよう援助する必要があります。疼痛の出現を不安に感じ、離床をためらうことがあるので、疼痛を緩和し、不安に思うことに対処し患者の意欲を支え、早期離床に導くことが重要です。

※2021年5月14日掲載分の再掲載です。