吉田ミナ
独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター 看護部/
がん化学療法看護認定看護師

看護師歴30 年。外来化学療法センターで薬物療法を受ける患者に長年かかわっている。
誠実な対応を心がけている。




「ちゃんと伝わってますよ」

ある日の夕方、一人で残業をしていると30歳代の入院患者のAさんが壁伝いに歩いて化学療法センターに来られました。Aさんは幼い子どもと夫の3人暮らしで、外来で1年間ほど治療を受けていましたが、残念ながら病状が進行し、緩和ケア病院へ転院する前日でした。

いつも静かにお話しするAさんから、「いままでお世話になりました。明日転院することになりました。お礼が言いたくて。ご活躍をお祈りしています」と言われ、きついなか、わざわざ来てくれたことに感謝の気持ちを伝えた後、私は言葉に詰まってしまい「何か気の利いた言葉を伝えたいのですが、うまく言えなくてすみません」と返してしまいました。すると、Aさんから「大丈夫、ちゃんと伝わっていますよ」と。大事な家族とのお別れが近づいて、身体も心もきついときに、医療者を気遣うAさんの優しさに胸がいっぱいになりました。

私はがん化学療法看護認定看護師を取得して22年が経過します。そのほぼすべての期間、外来化学療法センターで勤務してきました。センターでは1,000件/月以上のがん薬物療法を行っていますが、その日の件数を安全に実施することに追われ、患者さん個々の背景や思いを十分に捉えた対応が行えていないのではないかと思うことがあります。外来での短いかかわりのなかでも、誠意をもってかかわれば患者さんには伝わります。反面、患者さんに向き合えていない対応もすぐに伝わってしまいます。

私たち医療者は、患者さんの人生のなかの一瞬のかかわりしかできません。一瞬のかかわりだからこそ、患者さんの大切な生活を支えられるような存在でありたいと思っています。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2023年5号からの再掲載です。


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