田中雄大
コパン訪問看護ステーション 管理者/がん看護専門看護師

大学病院勤務歴11年(内科5年、外科5年、化学療法室1年)。訪問看護&がん看護専門看護師6年目。看護のモットーは「看護で得られた経験で人間として成長していくこと」。




「寝たらもう起きてこれないと思うから……。怖い」

この言葉を聞いたのは、訪問看護を5年ほど経験し、在宅看取りも150件と経験を積んだ時期でした。

Aさん(40代男性)はスキルス胃がんで腹膜穿孔を起こし、腹部にドレーンが入り、絶飲食、高カロリー輸液管理の状況で、予後2週間と言われて自宅に帰ってきました。Aさんは退院時より「できるだけ普段の生活をしたい」と希望され、38℃でフラフラな状況のなか、奥さんと犬の散歩にも挑戦しました。すると、そこから徐々に症状が落ち着き、医師からは次の桜を見れないと伝えられていましたが、奥さんと花見に行くこともでき、私たちから見ても奇跡的だと感じていました。

しかし、退院後6カ月たったころから徐々に腹痛が強くなってきました。Aさんは疼痛の増悪に対して不安をもっており、その時期に、取り切れない痛みが出現した場合の希望を聞くと「苦しむのは嫌だから眠らせてください」と言いました。

それから1カ月後、オピオイドの持続皮下注射でも取り切れない疼痛があり、Aさんにオピオイド増量の提案をしました。すると、「増やしたら寝ちゃう。起きていたい」と希望し、その後に冒頭の言葉を言われました。

Aさんが伝えてくれた言葉は、私に多くのことを考えさせてくれました。本当に今までのケアが正しかったのか? 死に向かう方へのかかわりかたは合っていたのか?と、急に怖くなりました。

看取りの現場に多くかかわっていたため、人の死に向かう過程をどこかで当たり前と感じていました。しかし、私自身は死が迫る体験をしていないなかでの考えであり、当事者の恐怖に少しも配慮できていないことを痛感しました。“死”は必ず訪れるものですが、Aさんの言葉を胸に、死に向かう患者さんの恐怖を少しでも看護の力で軽減できるよう、一事例一事例考えながら今後も過ごしていきます。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2024年1号からの再掲載です。


YORi-SOU がんナーシング2024年1号

YORi-SOU がんナーシング2024年1号
【特集】
オンライン症状管理の現場を直撃!
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免疫チェックポイント阻害薬 看護ガイド2024


■Part1 ICIの仕組みや治療を説明できるようになる
●01 ノーベル賞の理由が分かる!
ICIの仕組みとirAEが起こる理由
●02 患者さんにダウンロードして渡せるICI患者説明シート
●03 治療の全体的な流れを把握しよう
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■Part2 治療法に合わせた患者指導ができるようになる
●04 見逃されがち・高頻度・重篤!
抑えておいてほしいirAE
●05 どのタイミングで指導・説明が必要?
ICI単剤療法の場合
●06 +患者指導・説明が分かる!
ICI2剤併用療法の場合
●07 +患者指導・説明が分かる!
抗がん薬併用療法の場合
●08 +患者指導・説明が分かる!
放射線併用療法の場合

■Part3 irAEマネジメントの未来がみえる!オンライン症状管理のいま
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ePROと電子カルテ連携を初実現
●11 〈ePRO導入事例〉慶應義塾大学病院
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