林ますみ
NPO法人ミーネット ピアサポーター

2004年、卵巣・卵管・子宮・大網を切除。さらにリンパ節郭清をし、卵巣がんと診断され抗がん薬治療。がんの仲間と「ライフトピアサロン」を立ち上げ、がんの学習・笑いヨガ・音楽会などの交流会を開催している。

▼NPO法人ミーネットとは
がん体験者やその家族を対象に、身近な相談役として「ピアサポーター」を養成。市民・行政・医療機関の連携のもと、愛知県の地域に根ざしたピアサポートを行う。





「もっと自分を労わってあげてください」

卵巣がんを全摘し、抗がん薬治療を終えてから1年6か月が経過していた。もう何ごとも起こらず、以前と同じように仕事と家事を両立していけると信じていた。

明け方4時ごろ、胃に差し込むような痛みを覚え目が覚めた。大切な予定があったため、我慢して仕事に出たが治まらない。病院に駆け込んだら即入院。なんと腸閉塞を起こしていたのだった。絶食での点滴が続く。絶えず吐き気に見舞われ、洗面器が溢れるくらい吐いてしまった。次の日も夜通し苦しんだが、点滴の液漏れが頻繁に起こることもつらかった。そんななか、大腿骨を骨折して同じ病院に入院していた義母を、点滴を付けたまま毎日見舞った。

結局、腸閉塞は開腹手術をすることになり、仕事、家事、義母のことと気持ちは焦るばかりだった。そんな心の内が伝わったのか、担当のS看護師が私に言った。

「林さんのがんばりには敬服しますが、自分が思っている以上に身体はダメージを受けているかもしれませんよ」。(え?)と心の内でつぶやく私に、S看護師はこう続けた。「もっと自分を労わってあげてください」。

淡々とした語調だったが心に響いた。ふり返れば、抗がん薬の影響で抜けた髪が生えそろったころから、失われたものを取り戻すかのように多忙な毎日を送っていた。新しい仕事のストレスを抱え、介護度がまた一つ上がった義母のサポートに追われつつ、わずかな時間でこなす家事。自分を労わるどころか、痛めつけていたのではなかっただろうか。

S看護師の言葉がきっかけとなり、退院後、仕事を辞めた。自分のがんについて、しっかりと勉強し、ピアサポーターになった。

ときおり、いつかの私のようにがんばりすぎて疲れている相談者に出会う。そんな方には当時の自分の話をしながら「〇〇さんも、もっと自分を労わってあげてください」と伝えている。




本記事は『YORi-SOU がんナーシング』2023年5号からの再掲載です。



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