本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「昇進して孤独になった」です。

どの管理職も共通して孤独を感じる

普段私がお受けする相談で多いものは、認知機能低下患者の対応と、看護師同士の対人関係です。これらに関することは、年齢・経験年数・性別・役割に関係なく共通の悩みです。

その一方、管理職特有の「昇進して孤独になった」という相談があります。これは主任・師長(科長)という現場の中間管理職に加え、看護部副部長・看護部長というトップマネージャーも感じる、管理職に通ずる悩みです。

管理職が孤独を感じるということは、部下を仲間だと思えていない状態

組織内で昇進し管理職となれば、一般的に職務上の権限は広がります。それまでできなかったことに、取り組めるようになります。自分の目指す看護を、部下である仲間とともに実践することもできます。もちろんこれには多くの責任が伴いますが、社会人・管理職として成長できるとても貴重な経験です。

こうして気持ち新たに管理職の職務に取り組んでいると、他者との摩擦を新しい立場で経験します。

患者・家族から受ける苦情対応、多職種・他部署と自部署間の調整、上司の命令と部下の要望間での調整、これらの対応につねに迫られます。そして一度管理職になれば、同じような経験をし続けることになります。さらに、職位が上がればその量・範囲は広がります。それは膨大な業務量であり、多くの人は疲れ果てています。

そんななか、時には部下から直接・間接的に批判を受けることがあります。それは昇進前には同僚で、同じ立場で苦楽を共にした看護師かもしれません。自分を支援してくれるはずの同僚に批判され、裏切られたような気持ちになります。

これを繰り返していくうち、「自分には支えてくれる人がいない」「だれも助けてくれない」という気持ちに陥り、「昇進して孤独になった」と感じるようです。

大変苦しい状況なのは確かですが、孤独を感じたまま管理職を続けることは良くないです。管理職が孤独を感じるということは、部下を仲間だと思えていない状態です。残念ですが、その態度は部下に伝わります。「上司に良く思われていない、上司に嫌われている」ととらえられる可能性は高いです。それゆえ管理職は、一刻も早く孤独感から抜け出す必要があります。

仕事がうまくいかない原因を他人に責任転嫁している

ここで改めて、管理職が「昇進して孤独になった」と言う目的を考えてみます。私は、自分の思うとおりに部下が動かないことが気に入らないのだと考えます。管理職が本当に言いたいのは、恐らく「自分は精いっぱいやっているのにだれもわかってくれない、助けてもくれない、労ってもらえない、尊敬されない。これまでは仲間と思っていたけどみんな敵だ、皆のせいでわたしは孤独になった」です。この思考であれば、「昇進したから孤独になった」と思い込めます。これなら悪いのはすべて他人ですし、自分には何の責任もないと現実逃避することができます。

このような管理職は、端的に言えば部下に孤独を癒やしてほしいのです。さらに、部下との対等な対人関係を築きたくないのです。部下、そして何より自分と向き合うのが怖いから、仕事がうまくいかない原因を他人に責任転嫁しているのです。部下との対人関係がうまく築けなければ、仕事は協働できません。管理職の仕事は、部下であるすべての看護師と対等な立場で協働して成り立つものです。

その協働の一歩は、あなたと看護師の対話です。仕事をしていれば、必ず意見の違いがあり摩擦は生まれます。管理職であれば、部下から批判を受けることは仕方ありません。あたりまえなのです。例えどんなに優秀な人でも、かならず批判はあります。批判を受けないなど、不可能です。それが人格否定でなければ、もうこの際あきらめましょう。納得できないかもしれませんが、批判を受けるのは信頼されているからです。

また、面と向かっての批判であれば、喜んでいいと思います。

このとき、反論も論破もせず部下からの訴えに誠実に対応すれば、ここから対話が始まります。部下が何を話そうとしているのか理解できれば、批判は前向きな提案に変わります。それはお互いの合意形成につながり、部下と一緒に仕事上の課題に取り組む経験ができます。これが部下と対等に接することであり、同時に対人関係の課題に取り組むことです。

管理職はけっして孤独ではない

これ以上批判を受けたくない、人と向き合うのが怖いという恐れに、過剰に囚われていませんか。傷つきたくないのは誰も同じです。しかし傷つくことを恐れ、対人関係の課題から逃げ続けていれば、管理職は永遠に孤独なままです。この先もずっと、「孤独になった」と言い続けることは、私はとても辛いことだと思います。

自分の対人関係の課題について少しずつ考え、向き合うことができるようになれば、管理職はけっして孤独ではないことに気付けるはずです。

あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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