本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「男性だから患者に警戒される」です。

「看護師は女性」というイメージはまだ根強い

看護師に女性が多いことは、ご存じだと思います。歴史的に女性の多い職場なのは事実ですが、近年男性看護師は増え続けています。20年ほど前には、今ほど男性看護師に出会うことはありませんでした。それが現在は、部署に複数勤務していることも珍しくありません。多くの病院・施設・教育機関・事業所など、いずれの職場でも男性看護師は当たり前の存在です。多様性という観点からは、とても良いことだと思います。

これに伴い、私も男性看護師からの相談に応じることも多くなりました。時に寄せられる相談に、「男性だから患者に警戒される」があります。男性看護師の中には、「あるある!」と頷く方もいるでしょう。

実際に「男性だから患者に警戒される」ケースは少ない

詳しく話を聞くと、初対面で患者・家族に警戒心を持たれてしまい、その後なかなか距離を縮めることができないと言います。また、認知機能低下患者に怖がられやすく、対応を拒否されたとも言います。「女性看護師なら、そんなことはないのに……」と、ひそかに胸を痛める男性看護師は多いようです。

看護管理者として誤解を恐れず言えば、患者・家族から「男性看護師は威圧感がある」という苦情を受けることはあります。また、看護師同士で対人関係のトラブルが起きた後、女性看護師から「男性看護師は怖い」と聞くこともあります。ただ忘れてはいけないのは、その頻度は極めて少ないことです。それは、「ごくまれ」の範疇です。私のかかわる男性看護師を思い出しても、ほとんどの方は他者に警戒されていないように見えます。そうであれば、「男性だから患者に警戒される」のも、「ごくまれ」だと考えるのが自然です。ではなぜ警戒されているように感じるのか、考えてみます。

警戒されるのは、患者と適切な対人関係を築けていないから

患者に警戒されるということは、「攻撃されるかもしれない」という印象を相手に与えている可能性があります。これは、患者と看護師が適切な対人関係が築けていない状態です。さまざまな要因が考えられますが、その理由を「男性だから」ということにしたいのだと言えます。解剖学的な意味では、性別を変えることは困難です。少なくとも、今すぐ女性にはなれません。このように困難なことを理由にすれば、男性看護師が患者から警戒されるという意見は正しいようにも感じます。

確かに、医療現場を含めた日本の社会に対人関係の課題はあります。権威的な男性が女性を下に見たふるまいをしていることはたくさんあります。性別を人間の優劣にすり替える人もいます。このように、対等な関係を知らない人は、残念ですが存在します。こうした社会で、男性から不誠実なかかわりをされてきた患者が、「男性を警戒する」事実はあります。

「男性だから」を気にしているのは患者ではなく自分自身

しかし私は、それでも男性だから警戒されているのではないと考えます。多くの場合、男性看護師自身が男性という理由をつけて自ら距離をとり、患者に警戒されているように見えます。このように、「男性だから警戒される」と考え、それを「仕方ない」とあきらめれば、患者と対等な関係は永遠に築けません。私には「関係を築かない宣言」に聞こえます。それより、なぜ警戒されるのかを冷静に振り返るほうが建設的です。「男性だから」を気にしているのは、患者ではありません。あなたです。

すべての人と対等にかかわることをつねに心がける

最後に、男性看護師である私の提案をお示しします。「現状はまだ男性が警戒されやすい社会かもしれない。それでも良い対人関係を築くために、自分にはなにができるか考え行動する」です。

対人関係に性別・年齢・経験・職位・役割の違いなど関係ありません。すべての人と対等にかかわることをつねに心がけてください。そうすればいつの間にか、「男性だから」と言う必要がなくなります。そのころには、患者さんに警戒されることはもうありません。あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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