本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「悪口を言われている」です。

悪口が気になるのは、気持ちに余裕がないサイン

他者が自分をどう思っているか、だれでもすこしは気になるものです。まして悪口を言われようものなら、とても嫌な気持ちになります。看護師からも「同僚にいつも悪口を言われているんです!」という相談を受けます。そこで詳しく話を聞いてみると、「たぶん……、言われていると思います」と、微妙にニュアンスが変わります。ほとんどの場面では同僚との関係は悪くないのですが、悪口についてとても過敏にとらえているようです。

看護師は日勤・夜勤とシフトがあり、チームで仕事をすることが多いため、仲間外れになれば仕事はやりにくくなります。また悪口を言われれば孤立を感じるため、「悪口を言われている」ことを恐れるのはごく自然だと思います。このため、悪口が気になるときには「他人のことが気になっているな。今、疲れているんだな」というくらいの心構えで、気持ちに余裕ができるのを待つのが良いと思います。

他人を疑う気持ちが、ありもしない悪意をつくり出す

一方、あまりに他者のことが気になりすぎると、つねに「自分はどう思われているんだろう」という考えに囚われるようになります。それは、相手を疑うことにも容易につながります。疑いの気持ちをもっていると、他者の何気ない言動が自分への非難や攻撃のように感じます。たわいない言動を悪意として拾い上げてしまいます。

例えば休憩中、話が盛り上がっているところに別の人が来たとたん、ふと皆が冷静になって場の雰囲気が変わることがあると思います。話がひと段落したということで、席を立つ人がいても不自然ではありません。ところが他者のことを疑っていると、この出来事を「悪口を言われていた、仲間外れにされた」ととらえる危険性があります。一度抱いた疑いの気持ちは、なかなか振り払えません。さらにその思考の傾向が続くと、疑いは確信に変わります。ありもしないことまで疑ってかかるようになります。

相手との関係を見直すために、自分の心を見つめてみる

私は、「いつも悪口を言われている」と訴える人は、同僚が自分の悪口を言っていると考えたほうが気持ちが落ち着くのだと考えています。自分の悪口を言われていると知ったとき、傷つかないように身構えているように見えます。「やっぱり、あの人は私のことが嫌いだったんだ!」という心の準備です。

悪口を心配しているということは、相手との関係に違和感を持っている状態です。見方を変えれば、相手との関係を見直したいと考えているとも言えます。それなら今、「悪口を言われている」と訴える前にできることは、自分の心を見つめてみることではないでしょうか。自分の心を見つめることを避ける人は、「相手が悪い!」と攻撃的になるか、「どうせ私が悪いんだ」と自分を責める傾向があります。過度に他者を疑う人も、このような思いぐせがあると考えます。

自分と向き合うことができれば、悪口は気にならなくなる

現在、同僚との関係が悪くないにもかかわらず、つねに相手を疑う生き方は苦しくないでしょうか。もし本当に同僚があなたを嫌っているなら、自然に距離は離れていきます。そして万が一、悪口を言われていたとしても、同僚には「陰で」悪口を言う必要があるだけです。あなたにはどうしようもありません。相手との距離を縮めたいのであれば「何か嫌な思いをさせていないか心配。もしそうなら、遠慮なく言ってほしい」と、同僚に聞いてみてください。不安や悲しみなど自分の心の声に耳を傾け、相手に執着しない生き方を考えるほうが穏やかに過ごせると私は考えます。

対人関係について少しずつ考え、自分と向き合うことができるようになれば、他者の悪口は気にならなくなります。あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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