本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「医師が怒鳴る」です。

暴力的な医師への対応は組織全体で取り組むべき課題

看護師として働いていると、ときどき「医師が怒鳴る」場面に遭遇します。さらに、医師が看護師に物を投げつける、物を蹴るといったこともあります。医療関係者以外に知られることはないですが、こうしたことは時代・場所・人が変わっても起こる事件であり、対応に困り果てている看護師はつねにいると思います。怒鳴られた看護師はもちろんですが、相談を受けた管理職(上司)がどう対応すればいいのか悩まれるようです。

改めて言うまでもなく、「怒鳴る・物にあたる」は暴力であり、社会では許されません。怒鳴る医師本人とその上司だけでなく、組織全体で対応する課題です。病院は閉鎖環境のためにうやむやにされやすいですが、どんな理由があっても曖昧にしてはいけません。これを踏まえたうえで、怒鳴る医師への対応を考えていきます。

「怒鳴る」のは他者を思い通りに操作し、尊重されたいから

なぜ、「医師が怒鳴る」のでしょうか。ひとつは、怒鳴ることで他者を思い通りに操作したいのだと思います。もうひとつは他者から相手にされたい、そしてあわよくば自分の機嫌を取ってほしいのです。大声で怒鳴れば他者は萎縮し、怒鳴られないように気を遣って接します。これを尊重されたと勘違いし、気を遣われることが快感なのだと思います。

「怒鳴らないコミュニケーション」があることを知ってもらう

医師は恐らく「怒鳴るコミュニケーション」を先輩などから学び、自分もやって良いと思い込んでいます。大変困った思考ですが、改善の余地はあります。「怒鳴らないコミュニケーション」があることを知ってもらうのです。

まず、周囲の人は医師が怒鳴っても過敏に反応せず、機嫌を取らないようにします。相手にされなくなったと感じた医師は初めのうちは大騒ぎするでしょうが、それでも機嫌は取りません。怒鳴っても他者の反応が得られないことに少しずつ気付いてもらいます。

怒鳴ってほしくないという意思を管理職から医師に直接伝える

それでも医師が変わらず怒鳴るときは、怒鳴ってほしくないことを直接伝えます。伝えるのは、できれば管理職が良いと思います。「私たち看護師は、怒鳴ることは受け入れられない」というメッセージになるからです。「そんなことをすればよけい機嫌を悪くする」とか、「怖くて言えない」と感じるかもしれませんが、今のままでは怒鳴ることは止みません。医師に喧嘩を売るわけではないのですから、恐れず用件だけ伝えます。この場合、可能なら医師と2人で落ち着いて話せる時間や場所をつくります。そして、「怒鳴らなくても、適切に指示いただければ私たちは動けます。アドバイスがあれば、教えていただけるとうれしいです」とお願いします。おそらく、これだけで怒鳴ることは減ります。

「自分の要望が対話で伝わる」経験をすれば怒鳴る必要がなくなる

一方で「怒鳴らないと看護師は動けない」「患者の命を守るため、時には怒鳴ることも必要」「看護師の成長を思って怒ってあげているんだ」など、自身の言動を肯定する医師もいます。

この場合は管理職が「その場でスタッフに怒鳴らず、後から私に言っていただくことは可能ですか。先生の言いたいことを私がスタッフに伝えます。先生の希望は共有したいです。どうお考えですか」と伝えます。そうすると、ほとんどの場合、「いや、じつは看護師の急変対応が良くなかった。指示どおりの薬品が出てこなかった。報告が下手だった。態度が悪かった。だから腹が立った」と、医師自身が困っていることを話します。このように、「自分の要望が対話で伝わる」という経験をすれば、次から怒鳴る必要はなくなります。これが、「怒鳴らないコミュニケーション」を知ってもらうことであり、対等な対人関係を築くことだと考えます。

怒鳴る医師を不健全に喜ばせないように冷静な対応を心がける

今回は医師に着目しましたが、看護師側も不適切な対応をしていることがあります。怒鳴られた看護師がその場で怒鳴り返す、強く反抗する、喧嘩を買う、不機嫌になる、無視をする、泣く、過度に謝るなどです。不快な気持ちは良くわかりますが、これでは不毛な戦いが始まります。先にお話ししたように、怒鳴る医師は相手にしてほしいのです。いずれの反応も、怒鳴った医師を不健全に喜ばせることになります。

加えて、今回のように管理職が対応する際は注意する点があります。自分の部下、そして自分が怒鳴られれば管理職の感情は高ぶりますが、怒りに任せて安易に医師と直接対決してはいけません。管理職を戦いの場に引きずり出すことは、医師に快感を与えることにつながります。

誤った権力行使は不毛な戦いを招き、負の連鎖を生み出す

さらに、医師の上司を通じて注意をする場合には細心の配慮が必要です。上司に注意された医師は、いったんは怒鳴らなくなるかもしれません。しかし、その代償に復讐が始まる危険性があります。管理職が見ていない場で部下を怒鳴る、嫌がらせをするなどがあり得ます。管理職には職務上の権力がありますが、誤った権力行使は不毛な戦いしか生まないことは知っておく必要があります。

最後に管理職に提案します。怒鳴られたという不快感を部下に転嫁し、「あなたにも非がある」「すこしは我慢しなさい」「これが現実」などと言いたくなるかもしれません。さらに指導という名目で、「あなたがきちんと言い返しなさい」「もっと強くなりなさい」なども管理職が言いがちなことです。これらは残念ですが、怒鳴る医師とまったく同じふるまいです。こうした対応は、不適切な対人関係を部下に学ばせています。部下は、将来後輩の相談にどう対応するでしょうか。負の連鎖を生まないよう、強く意識してください。

今回のテーマは、上司と部下・先輩と後輩・先生と生徒・親と子、そしてパートナー間など、多くの関係に当てはまる事例です。「自分の立場が上」と認識されている方、同じようなことをしていませんか。他人事ではなく、自分の課題として考えてみてください。あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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