本連載は対人関係に悩みを抱える看護師が現状を見つめなおし、対人関係の課題に取り組むきっかけをつかむことを目的にお送りします。私が現場の看護師から受ける相談をもとに、一緒に考えていきます。今回のテーマは、「悪口の同意を求められる」です。

情報共有のためのコミュニケーションに潜む悪意の種

看護師の仕事はチームワークが大切であり、患者の治療が円滑に進むためには看護師間の情報共有が必要です。カルテなどにある文書や画像に加え、気付きや考えなどを言葉でやりとりすることには大きな意味があります。こうした言葉での円滑な情報共有は、看護師間に普段から良好なコミュニケーションがあってはじめて成り立ちます。このため休憩中や仕事に余裕のあるときに、同僚と会話を楽しむことはとても大切な時間だと思います。趣味や友人・家族の話題、悩み事などを話せることは互いの距離を縮めます。

その一方で、同僚と一緒にいる時間が長くなると、しきりに他人の批判を始める人が現れます。さらには誇張したうわさ話を吹聴し、他人を笑いのネタにする人もいます。ただ、この時点では悪口とは気付けない場合も多く、その場にいる人は情報を共有している安心感をもつ場合があります。仲間意識すら芽生え、どこか楽しさを感じることもあります。

悪口のターゲットになるのが怖くて同意せざるを得ない

このように他人の不遇を、「自分は大丈夫」とか「あの人よりはまし」と感じることは、ある程度自然なのかもしれません。あまり健全ではないですが、自分1人で考えているうちはとくに問題ありません。しかし、悪口には必ず相手がいます。その悪口の多くはその場にいない人を面白おかしく取り上げるため、聞き手の興味を引きます。ただ、ここで少しでも同調したり笑顔を見せたりしていると、悪口はどんどんエスカレートします。仲間ができたと勘違いした悪口の主は、「あなたもそう思うよね」と同意を求めます。

ここで多くの人はようやく「悪口に同意を求められる」ことに気付きます。ところが、一度同調した手前、態度を変えられません。自分が悪口のターゲットになるのが怖いからです。もし悪口の対象がこの事実を知ったとき、不快感・疎外感を覚える人は多いのではないでしょうか。

適切な対人関係を築けない人は悪口を言うことで他人の興味を引く

「悪口の同意を求める人」は、だれかを貶めることで自分の価値が上がると勘違いしています。この不適切な手段でしか他人の興味を引く方法を知らず、今まで適切な対人関係を学ぶ機会がなかったのだと考えます。

だれかと仲良くしたいなら、「話そうよ」とか「一緒にご飯が食べたい」「飲みに行かない?」と言えばいいのです。孤独を感じているのなら「寂しいから私の話を聞いてほしい」と言えばいいのです。自分が勇気をもって呼びかけることで対人関係は始まり、その結果、友人や仲間ができます。さらに関係が深まれば、親友やパートナーになることもあります。これら他者とのつながりを実感することは、対人関係に向き合う喜びです。

しかし、適切な対人関係の築き方を知らない人は、その喜びを知りません。つねに強烈な寂しさと、孤独の恐怖を感じていると思われます。これらを紛らわすため、他者と自分を傷つけてでも手軽に他者の興味を引きたいのです。

悪口を言う人には近づかず、反応を示さないようにする

悪口の同意を求められたときは「その話は聞きたくないです」と伝えて、その場から速やかに離れましょう。

「同僚に悪いし、嫌な思いをさせたくない。みんなを楽しませようとしているだけ。付き合いが悪いと思われる」などと感じるかもしれませんが、他人の悪口を聞き続けるのは精神的に不健康です。また、「自分も悪口を言われる」と、おびえ続けることになります。さらに、「〇〇さんも言っていたよ」と、悪口の共犯にされるおそれもあります。

このままでは皆が悪口を恐れ、同僚を疑う人ばかりの職場ができあがります。良好な対人関係には程遠い状態です。そのため、まず悪口の主と距離をとることを勧めます。一時的に非難を浴びるかもしれませんが、関係を取り繕う必要はありません。悪口の主は、「悪口を言い、同僚の興味を引くこと」が目的です。他者を貶めてでも、自分が注目されたいのです。逆にだれかが「悪口を言うなんて最低ですね!」と強く批判しても、悪口の主はうれしいはずです。何でもいいから、とにかく他者の反応を求めているのです。けっして「あなた」に聞いてほしいのではありません。どこの誰でもいいのです。このためあなたが反応を示さなければ、悪口の同意を求められることはなくなります。

「対人関係の鍵はつねに自分がもっている」ことを意識する

悪口の主との関係に困ったときに思い出してほしいのは、「対人関係の鍵はつねに自分がもっている」という事実です。困難な状況でも、私たちにできることはたくさんあります。それは相手に迎合することではありません。まして悪口の主を悪人扱いすることでも、対決することでもありません。

あなたは心理的・物理的な距離をとることも、意見を言うこともできるのです。それは他者との関係を「これからどうするか」という視点で考え、行動することです。他者との関係は「自分で選ぶことができる」、この感覚を忘れずにいてくださるとうれしいです。あなたの対人関係は、きっとよくなります。

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小林雄一
看護師。1979年 広島県生まれ。脳卒中リハビリテーション看護認定看護師。
認定看護師・看護管理者としての実践・指導・教育と並行して、執筆・講義活動をしている。JA尾道総合病院 科長。現在、脳神経外科病棟科長。日本脳神経看護研究学会 評議員、一般社団法人 広島県リハビリケア協会 理事。
施設内外で看護師の育成に取り組むと同時に、看護師の対人関係能力向上に貢献するため、独自の面談活動・セミナーを行っている。



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