ここは空想病院企画室。

毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。


ゲスト:だーやまさん
作業療法士として重症心身障害児や医療的ケア児の通所施設に勤務。傍ら、自身の罹患する「Charcot-Marie-Tooth病」患者会を立ち上げ、難病当事者としても積極的に活動中。当事者性を有する医療専門職を「当事者セラピスト」と定義し、仲間づくりやその社会的役割の研究を進め、「当事者がありのままでやりたいことを叶えられること」を目指して活動中。

企画室室長(著者):喜多一馬
平成医療福祉グループ ケアホーム住吉。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。



病院で働く専門職たちには、
患者さんの抱える不安や心配に寄り添いつつ、
専門的かつ客観的な視点から関わるというふたつの視点が必要です。

両者を兼ね揃えたスタッフばかりの病院……
それが、当事者×専門職ばかり…『受容と共感の、全力!存在肯定しまくり病院!』です!

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design
instagram:(ishiyama_akiko

特徴その1
~当事者×専門職を超積極的に採用~




この病院では、当事者×専門職を超積極的に採用しています。

例えば…

● 脳性麻痺×医師
● 自己免疫疾患×看護師
● 神経難病×作業療法士
● 脳卒中×理学療法士
● 膠原病×ケースワーカー
● 気分障害×薬剤師
● ガンサバイバー×臨床心理士
● 下肢切断×義肢装具士

このような当事者×専門職が活躍しています。

なぜなら、当事者×専門職は患者さんの抱える様々なニーズに共感し寄り添いながら、適切な評価と計画をもとにサービスを提供することができます。「当事者の主観性」×「専門職の客観性」の相互活用といったところでしょうか。

患者さんに最適なサービスを届けるためには彼らの存在が不可欠で、これが「とても良い病院の在り方」だと、院長をはじめとするすべての職員が確信を持っています。

ちなみに、当事者×専門職の「当事者」とは疾病や障害だけを指しません。

● 心身の不自由やしんどさの体験
● 治療やリハビリの体験
● 仕事や役割を失ってしまった体験
● 社会とつながる難しさの体験
● 上手くいかなさや分かってもらいにくさの体験
● 自身の当事者性と向き合おうとした体験
● 生活しづらさや生きづらさの体験

これら全ての体験を指しています。

ちなみに、この病院での当事者体験のある職員は、いまや全職員のうち92.6%。これは日本の障害者(936.6万人=人口の約7.4%)とそれ以外の人の割合がちょうど逆転していると言えるまでになっています。

特徴その2
~ネガティブもポジティブも「ありのままに受け止めるふところの深さ」~



当事者×専門職の最大の特徴は、患者さんを「ありのままに受け止めること」を得意としているところです!というのも、患者さんは疾病や障害によって様々な感情を引き起こしますよね。

● 思うように身体を動かせない…
● 前みたいに出来なくなっちゃった…
● 元の生活に戻れるの?
● この先どうなっちゃう?
● どうしてわたしが?!
● 誰の役にも立てない…
● もうだめかもしれない…

喪失、悲嘆、怒り、逃避……声にならない感情が溢れることがあります。当事者×専門職はそんな様々な感情を当事者体験に基づいてありのままに受け止めることができます。どんな状態であってもありのままに受け入れることができます。

そうなると、患者さんたちは「この人たちなら分かってくれるはず……」と自然に話すことができ、「同じような体験をしているんですよ」と実感をもった受容と共感を返すことができます。「こんなことを病院の人に話すのは……」や「家族や友人だからこそ話せないんだ……」と、誰にも打ち明けられない感情を心の奥底に抱えることはありません。

ちなみに、ゲストのだーやまは「作業療法士が入院患者になるなんて…きっとスタッフはやりにくいだろうなぁ…」と考えて、引きこもり患者になった時期がありました。

そんな時、当事者×専門職である看護師が「お子さんいくつ? 入院中って無性に会いたいよね?」「普段は専門職かもしれないけど入院中は一人の患者としてふるまえばいいんですよ?!」「遠慮しないで!」と、声をかけてくれました。当事者体験に基づくとてもやさしい言葉に思わず涙が溢れました。

患者さんのネガティブな感情は、傾聴されることでポジティブに切り替わることがあります。まずはありのままを受け止めて受け入れる、そのうえで専門職視点からのアドバイスをお伝えする。ふところの深い当事者×専門職たちがいるからこそ、未来思考で前を向ける患者さんたちがいるのです。

特徴その3
~最先端の技術開発と最新の治療研究の実験・実践フィールド「IC室」の設置~



当事者×専門職が超積極的に採用されていると、当事者体験があるがゆえに業務上で困ってしまう部分もたくさんあったりします。

● 病院内の移動が大変
● 細かい作業が苦手
● 麻痺でトランスファーが難しい
● 体力がない
● 自身の健康維持や療養に時間を割く
● 気持ちがふさぎ込んでしまう
● 自分自身がしんどい時期がある

「そんな状況で病院の仕事がつとまるの?」なんて声が聞こえてきそうですが、病院では当事者×専門職たちの困りごとは患者さんにも共通する困りごとと捉えています。なので、当事者×専門職たちが活き活きと働く手段・方法を考え開発・実践し、すべて患者さんの生きやすさに還元させていきます。彼らの姿を見た患者さんたちは、「あんな風に生きてみたい!」「私もキラキラ輝きたい!」とエンパワメントされていきます。

そのために最先端の技術開発および最新の治療研究の実験・実践フィールドとして「I&C(Imagines&Creates)室=想像・創造室」が設置されています。例えば、次のような取り組みがあります。

・当たり前すぎデジタルインフォメーション:すべてのインフォメーションはAIによってデジタル処理され、多言語かつ多文化に対応しています。ダイバーシティ&インクルージョンなんて当たり前すぎです。視覚障害のある専門職の提案がきっかけになり、外国籍スタッフや識字障害のあるスタッフの意見も取り入れて開発されました。

・バリチョイ庭園⇒緑あふれる庭園では、利用される方の心身状況に合わせて気温・湿度・酸素濃度などが最適化されます。園路のバリアレベル(勾配・凹凸・路面状況など)を調整する「バリアチョイ残しシステム=バリチョイシステム」も導入、誰でも気軽に庭園で過ごせます。神経筋疾患の専門職たちが「体調に合わせてちょうどいい歩行練習が出来たらなぁ」「分かるー」とボヤいていたことがきっかけで考案されました。

・超リハビリ室⇒リハビリ室には最先端技術の開発と導入。“重力をコントロール”できる「G-room(Gravity-room)」、“呼吸できる特殊な水”で満たされた「O-pool(Oxygen Water-pool)」、“バーチャル空間に没入”して心身のリラクゼーションをはかる「UT-system(幽体離脱システム)」などがあります。これらはそれぞれ…進行性の神経疾患で歩行や自発呼吸が難しい専門職や、心身のバランスを崩しがちな専門職の当事者体験から生まれたアイデアです。

・デジタル自宅再現空間⇒病室は一般床のほか、“ホログラムとナノブロックで自宅の様子を再現”する「デジタルリフォーム:まるで自宅」を導入したお部屋もございます。「家みたいにゆっくりしたい」「家と同じ状況で動作訓練したい」と思うときには、一瞬で自宅を再現します。自身もリハビリを受ける立場の当事者×セラピストたちが集まり「やっぱり退院してすぐ自宅生活へ適応する、自宅をそっくり再現した環境でリハビリするに限る」と意見交換をした結果として開発されました。

・テレポートランスファー⇒患者様の搬送、車椅子の乗り移り、入浴や着換えの際など…お身体の負担を軽くするために“テレポーテーションや重力コントロール”テクノロジーを用いた「テレポートランスファーシステム」を実現しました。何の力も労力もかけることなく動けます。身体機能に障害のある専門職だけでなく、妊娠中・高齢化・皮膚疾患(表皮水疱症など)のある専門職などなどどんな専門職でも活用できるシステムが開発されました。

・オリジナル機能特化型義肢開発⇒患者さんのニーズやお仕事に合わせた義肢の開発を行っています。3種の包丁とピーラーおよび電動ペッパーミルを搭載した調理特化型前腕義手(なんと…三ツ星レストランシェフが導入)、エラ呼吸機能が付いた潜水特化型人工心肺(ちなみに…海女さんが導入)、ホバークラフト機能が付いた大腿義足(もちろん…倉庫の作業員が導入)などなど…当事者×専門職たちとその当事者仲間たちとのディスカッションを通して、可能性と発想はどんどん広がっていきます。

これらはあくまでも一部……「IC室」によって当事者×専門職は負荷なく働くことができ、患者さんの人生を良くすることにも貢献しています。

特徴その4
~ポジティブ思考の「保険外支援連携室」~



「I&C室」と肩を並べる存在として、「保険外支援連携室」と呼ばれる保険外サービスと連携する部署が存在します。

みなさんは普段働いているなかで、患者さんの困りごとが「医療・介護・障害福祉の保険サービスでは解決しないな…」と感じたことはありませんか? 例えば……

● 車椅子でも海水浴に行けたらいいのに…
● ユニバーサルトラベルに繋げて旅行に行けたら…
● 麻痺があっても着やすい服って売ってたらなぁ…
● 患者さんが集うサロンで話し合えたら…
● 嚥下食を作る料理教室で学べないかな…
● 天守閣にのぼるって無理なのかな…

これらはなかなか病院では解決できません。でも、世の中に既に存在している「保険外サービス」なら解決できるものもありますよね。それらの情報を患者さんに届け、利用できるようにするのが保険外支援連携室です。

ここでは、「人とのつながりで、やりたいことを叶える」がモットー。患者さんの生活状況や未来への想いを徹底的にヒアリングして、日ごろからフラットな関係で連携を取っている保険外サービスに繋げます。入院中でも、海…ライブハウス…キャンプ…これらに行くことが当たり前なんです。「そんなことやっていいの!?」を実現させちゃう部署が保険外支援連携室なのです。

疾病や障害はたくさんのことを諦めさせるものですが、なんでも実現しちゃうので「諦めることを諦める患者さん」が続出しているんだとか。

特徴その5
~収集と解決に取り組むふたつの部活が活動中~



患者さんは様々な困りごとを抱え込みがち。

そこで、病院内ではふたつの部活が活動しています! 患者さんの抱える困りごとを徹底的に収集する「吐き出せ! みんなの困りごと収集部」と、見つかった困りごとを解決するための「動き出せ! みんなの困りごと解決部」です。この部活によって患者さんは困りごとを抱えることがなくなり、解決に向けて動き出すことができます。

これまで、ふたつの部活では以下のような実践がなされてきました。

実践①
困りごと:脳卒中で手が動きにくくなってゲームがしづらくなった
解決方法:某超有名ゲーム会社と協力して脳卒中患者の特製コントローラーの制作

実践②
困りごと:職場に戻りたいけど病院の人たちのサポートなしでは不安
解決方法:病院専門職全員訪問による就労支援のための職場環境調整の実施

実践③
困りごと:長期入院による心身の疲労が蓄積してしまった
解決方法:ホテル会社や飛行機会社も協力した入院中の海外旅行

海外旅行なんて贅沢だと思いますか? いえいえ、部活ですから、困りごとならなんでも解決に向けて考えていくのです!でも、病院だけでこれを実現するのはなかなか難しい…なので、この部活に参加するメンバーは職員や患者さんだけではないことが最大のポイントなんです。

● 患者さんに関わりのある学校や会社の関係者
● 患者さんの自宅の近隣住民やお店の人たち
● 患者さんとは関係のないふら~っと立ち寄った人たち
● なんとなく医療に興味のある人たち
● 自分の困りごとを相談したい学生さん
● 日本の文化をもっと知りたい外国ルーツのある人たち

などなど。ぶっちゃけだれでも参加は可能な部活です。

ごちゃまぜなメンバーが参加することでそれぞれの立場や体験や知識や技術を持ち合わせることができ、困りごとを見つけて解決まで導くことができるようになっています。

「誰かの体験や知識が、誰かの何かの役に立つ」がスローガン。

「困りごとは、誰かが生きやすくなるためのヒント」という考え方が地域全体に広がっていて、患者さんは「今の自分だからこそ、提案できることはないかな?」と考える人が多いんだとか。「病気や障害の当事者」という意識が、もしかしたら将来的には希薄になっていくのかもしれません。みんな「何かの当事者」なんですから。病院は、人々の結びつきは強くし、「暮らしやすく、生きやすい」地域づくりにも貢献しています。

おわりに

“当事者体験”は、その人しか得ることのできない主観的で大変貴重な『体験知』。

“専門知識と臨床経験”は、客観的でエビデンス(根拠)に基づいた『専門知』。

これら2つの『知』は、「人生の主導権を取り戻すこと」を“支える専門職”にとっても“支えられる患者さん”にとっても、めちゃくちゃ大切。だからこそ、当事者×専門職を超積極的に採用しています。

一般的にネガティブに捉えられがちな当事者体験に意味や役割を与え、決して否定したり排除することなくふところ深く受け入れ、お互いの存在を尊重し笑い合うことができる。それが、「受容と共感の、全力!存在肯定しまくり病院!」なのです。

「みんなそれでいい!」んです。




私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える”個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える”社会モデル”が主流となってきています。本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方を身に付ける機会を提供します。ぜひ、本連載を読んで働く病院で何が出来るかを考えてみてくださいね。