ここは空想病院企画室。

毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。


ゲスト:さやかさん
運動性失語症・片麻痺の当事者・作業療法士。2009年に脳動静脈奇形による脳出血を発症。その後、やんかなんかありながらも作業療法士に復帰。社会福祉士取得したり、メガバンクに就職したり、社会保険労務士の勉強したり、「面白そう」と思ったらよく考えず行動する人。ゆるい障害当事者ブログ「しょうがい療法士」運営。

企画室室長(著者):喜多一馬
平成医療福祉グループ 介護福祉事業部。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。



病院では、
いろんな人が治療と向き合っている。

私の後遺症は右半身の麻痺と失語症。

失語症を簡単に説明すると…
・話す
・読む
・書く
・話を理解する
上記のことができなくなる、または苦手になります。

失語症になると日常生活のコミュニケーションが大変。
そして退院後の社会生活(家事、外出、買い物、仕事などなど)はもっと大変!
「就労できるのか?」ということも大きな課題。
話せないし、読めないし、書けないし…

ずっと思ってました。
「なんか〜…失語症でも楽に病院受診したり外出できたり買い物できたりしないかな〜」
「医療も福祉も就労もまとめることできないかな〜」

それができる病院を考えてみました!
『境界線マーブル病院』です!

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design
instagram:(ishiyama_akiko

特徴その1
〜直感的・視覚的にわかる【ピクトグラム・ナビ】〜




失語症になると文字が読むこと・音声の聞き取りが苦手になります。失語症の方にとって、文字や複雑なアナウンスは本当にただのノイズ。病院内でリハビリ室に行きたい、中央検査室に行きたいのに、案内掲示板の文字が読めない!周囲の光・音・文字が邪魔してしまう…そんな場面が多々あります。

そこで、文字を読んだり、音声を聞いたりではなく、直感的・視覚的にわかる【ピクトグラム・ナビ】を使用します!

【ピクトグラム・ナビ】内蔵メガネを受付にお借りし、装着、起動。受診票のバーコードを読み取ると、患者の今日の予定を把握します。すると、ピクトグラムが目の前に現れ案内してくれる仕組みです。これによって、ノイズだらけで行きたい部屋に行けなかった失語症のある患者さんも、スムーズに移動することができます。

ちなみに、【ピクトグラム・ナビ】は失語症の症状に合わせたカスタマイズ機能も備わっています。行き先を矢印で示したり、柔らかな光で示したり、光や音と同期したり…誰が装着しても安全安心に行き先へ誘導してくれます。使うたびに示し方が変わるので、失語症の症状の把握にも役立つ!と言われる方もいるらしいです。

特徴その2
~感情の「見える化」【オーラプロジェクター】~



失語症になると「話す」ことができなくなります。病院で自分の状態を話すとき「ちゃんと説明しなきゃ…!」と、プレッシャーがかかり、さらにうまく話せなくなることもあります。

そこで【オーラプロジェクター】という仕組みはどうでしょうか?

身につけているデバイスが、その時の「痛み」「不安」「リラックス」などの感情を、本人の背後に映し出します。まさにオーラ!スタッフは言葉を介在しなくとも本人の「今の状態」を察知して対応できます。

うまく言葉にできなくてもスタッフが理解してくれることで、これまでよりも安心して入院生活を過ごすことができます。もちろん、失語症以外の方にも役立っています。認知症のある方、小児でまだまだうまく話せない方、寝たきりなどで意志表出ができない方…失語症から生まれた【オーラプロジェクター】が病院を利用する多くの患者さんを支えています。

特徴その3
~読書をあきらめない【空想スマートレンズ】~



私は読書が好きです。

1日3行の日もありますが、なんとか文字を読むことができます。ただ、努力性の「できる」が曲者なのです。「できる」けど、とんでもなく疲れてしまう…その後は半日ぼぉーーーーーとしてしまうなんてこともザラです。そして、失語症の程度は「できない」から「とんでもなく努力してできる」や「苦手」というふうに、人それぞれ。

失語症だけど好きな読書を諦めたくない。

そんな思いから、【空想スマートレンズ】を考えました。

失語症の方は、目に入ってくる情報・刺激を抑制すると、文字を読むことが少しだけ楽になることがあります。【空想スマートレンズ】では、ノイズ・フィルター機能を搭載し、読んでいる行以外をあえて「ぼかす」ことで、視覚的な刺激を調整し、負荷を最小限にします。また、本人が読みやすいフォント、大きさ、太さ、行間に、自動的にリアルタイムで変えてくれるフォントの流動化機能も、【空想スマートレンズ】の特徴です。

「今日は数行しか読めないだろうな…」と思う日でも、気が付けば数十ページを読んでしまっていることが当たり前になります。

こちら、なんと、読書が苦手な小学生、乱視や視力低下により読書から遠ざかっていた方、広く一般にも利用されるようになっています。「あれ、読書ってこんなに楽しいの?」と気付く人が増え、どうやら出版業界にも良い影響を与えているとか。医療からはじまった取り組みが社会を変えているとも評判なんです。

特徴その4
~穏やかに刺激を【コクーン・ルーム】~



コクーンは「繭」のこと。病院内に繭のような形のパーソナルスペースがあればいいなと思いました。それは、失語症の方は、服の衣擦れの音や誰かの会話などの周囲の環境音がとても気になり、自分の必要な情報だけ選別することが苦手になるからなんです。

そこで【コクーン・ルーム】の出番です。

繭に包まれた安心感、周囲とは完全に隔離されず、程よい環境音の中で頭の中をリセットして、頭の体力を回復することができます。

・最近なんだか刺激にやられてしまっているなぁ
・ちょっと刺激を遮断して回復をしよう
・時間があるからコクーン・ルームで過ごそうか

どうやらあまりの快適さに、ビジネス業界も目を付けている【コクーン・ルーム】。働く従業員からは「こういう穏やかな時間を職場で過ごせて最高です…」と多くの声があがり、社員の満足度や健康を高めるために福利厚生で導入されているんですって。ここでも医療からはじまった取り組みが社会を変えているようなのです。

特徴その5
~社会保険労務士が常駐【ライフプラン・コンシェルジュ】~



大きな病気や怪我をすると治療費への不安に加え、「今の仕事を続けられるか」「休職中の収入はどうなるか」という強い経済的不安があります。そこで、【ライフプラン・コンシェルジュ】として社会保険労務士が病院に常駐しています。

おっと、社会保険労務士って聞きなれないですよね。これは、労働・社会保険や人事・労務管理の専門家である国家資格者のことなんです。障害年金や行政手続き、医療チーム・福祉チームと一緒に具体案を練ることができ、特に就労してからの労働環境やトラブルの相談することができます。

病院では何かと長い待ち時間。診察待ち、検査結果待ち、お薬待ち、支払い待ち…これらの時間にふらりと歩いている【ライフプラン・コンシェルジュ】があなたに声をかけます。もし、詳しく話を聞きたければコンシェルジュブースでじっくりと話すことができます。病院では体や心に特化した相談をすることが多いものですが、【ライフプラン・コンシェルジュ】によってより幅広く生活や人生について相談することができます。

もちろん、退院後に相談したいときにも気軽に訪れてください。ライフプランをコンシェルジュするんです、病院で過ごす人も病院の外で過ごす人も、どちらにも関わります。

特徴その6
~境界線のない【グラデーション・エントランス】〜



「病気になったら病院に行く」はもちろんなのですが、病院は「医療 → 福祉 → 就労」という一方通行ではなく、「医療と福祉と産業がマーブル状に溶け合った病院」が理想。

【グラデーション・エントランス】という仕組みがあるといいなと思いました。

エントランスを抜けると大きなデジタルパネルがあり、それをタッチすると、今の自分の状態(治療が必要、働きたい、相談したい等)に合わせて、その日の「街での過ごし方」を提案してくれます。いつでも戻れたり、立ち止まったりできる、ステップダウンを肯定する仕組みです。

私の体験談なのですが、失語症が残存した状態で就労したとき、
「あ。これ働くの急ぎすぎたか??」
「この部分のリハビリやってなかった…」
と思うことが度々ありました。

だが、もう戻れない!!!今は就労のフェーズだから!!!(と思ってしまう…)

でもこの【グラデーション・エントランス】を使えば、罪悪感なく説明負荷の少なく(失語症なので言葉で説明することが、とんでもなく負荷になります)、ステップダウンや立ち止まれることができます。

これまで紹介した境界線マーブル病院の特徴は、社会を変えたり、社会と繋がっていることが大きなポイントです。そんなマーブルさを最も象徴的に示すものなのが、この【グラデーション・エントランス】なのです。




私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える”個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える”社会モデル”が主流となってきています。本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方を身に付ける機会を提供します。ぜひ、本連載を読んで働く病院で何が出来るかを考えてみてくださいね。