ここは空想病院企画室。

毎回異なるゲストとともに、
当事者性やマイノリティ性の視点から
「こんな病院あったらいいなぁ」を空想します。


ゲスト:絶対に終電を逃さない女さん
1995年生まれ。大学卒業後、体力がないせいで就職できず、専業の文筆家となる。様々なWebメディアや雑誌などで、エッセイ、小説、短歌を執筆しており、単著に『シティガール未満』(柏書房)、『虚弱に生きる』(扶桑社)がある。「YNKs」にて「YNKsみんぞく採集」(https://ynks.jp/series/minzokusaishu/ )連載中。

企画室室長(著者):喜多一馬
平成医療福祉グループ 介護福祉事業部。急性期・回復期病棟で勤務後、地域にて就労継続支援B型・福祉用具貸与事業所・チョコレートショップ・古着屋・障害者アート事業などに携わり、現職。共編著に『差別のない社会をつくるインクルーシブ教育』など。最近の楽しみは近所の図書館で読みたかった本を取り寄せること。



今回の空想病院企画室は、ゲスト絶対に終電を逃さない女 さんと室長喜多の会話からお届け。

空想病院の企画方法は様々。ゲストが書き上げた原稿がほとんどそのまま掲載されることもあれば、ゲストが原案を出して室長が書き上げることもあり、今回のようにゲストと室長でやり取りをしながら深めていくこともあるんです。

どんな会話から空想病院が生まれていくのか……ちょっと見ていってください!

イラスト:いしやま暁子
X:(@chovon_design
instagram:(ishiyama_akiko




喜多:
『虚弱に生きる』を読みました。絶対に終電を逃さない女さん(以下、絶対さん)は病気ではない不調や異常に疲れやすい「虚弱」があり、それに対してたくさんの努力と工夫をされていますよね。そんな個人的な調整の一方で、この連載のように社会側が調整できることもあるのではないか?と思い、今回はゲスト依頼をしました。

絶対:
読んでいただき、ありがとうございます。この連載は社会的意義のある企画だと感じましたので、お声がけいただき光栄です。

喜多:
そう言っていただけて、嬉しいです。では、さっそく絶対さんの「こういうのあったらいいな」を聞かせてください。

絶対:
私はいろんな病院を受診してきたのですが、「まあ…なんでしょうね? ちょっとお疲れなんですかね、とりあえず痛み止めと解熱剤を出しておきますね」で診察が終わることが多かったんです。そこで他の科を紹介してもらうことはあまりなくて、それがもうちょっとあるといいんじゃないかなぁと思います。

喜多:
たしかにそのような場合に「とりあえず」となることはありますよね。

絶対:
蕁麻疹や咳で内科を受診したとき「原因が分からない」で診察が終わったことがあります。でも、後から「ストレスでそういう症状が出ることがある」と知りました。もしそういうことを教えてくれてたら、気持ちが軽くなるかもしれないし、ストレスの可能性があるなら心療内科を紹介してくれても良かったのに、と。

喜多:
そういうときに安心できるシステム…空想病院としてどんなことができるか、考えてみましょう。

絶対:
あと「かかりつけ医」の概念が難しいなぁと思っています。 診察を一回してもらっただけでかかりつけ医と呼んでよいか分からないですし、「かかりつけ患者面するな」とか思われないかなみたいなことを思います。

喜多:
たしかに! 僕も思い返すと、かかりつけ患者面をしてしまっているのでは…と思ってきました。僕がかかりつけ医だと勝手に思っているだけかもしれない…。

絶対:
そうだとしても、診察してくれるんですけどね(笑)。

喜多:
絶対さんらしい視点です(笑)。これも空想病院に入れてみましょう。看護師さんに対してはどうでしょうか?

絶対:
そうですね。私は血液検査をする際に「血管が細すぎて取れない!」と看護師さんが困っていることが多いです。先日、なかなか採血ができなかったときに「どうにかして取らないといけないんだけどな」って看護師さんが呟いていて、それが面白くて良かったです。「心の声が見えた!」みたいな、看護師さんの人間味を感じたと言いますか。

喜多:
そんなところに面白さを感じるんですか!

絶対:
看護師さんって愛想の良い女性が多くて、ちょっと接客業みたいだと感じるんです。そこまでしなくていいんじゃないかなと思っていて。たまにサバサバした感じの看護師さんがいるとちょっと安心しますね。

喜多:
なるほど、こういうところから安心を感じたり落ち着いたりすることもあるんですね。

絶対:
あ、そういえば。症状が複雑だったり長期間に渡ることだったりすると、症状を思い出せなかったりうまく説明できなかったりしますよね。それを事前に看護師さんがヒアリングしてくれて、要約して医者に伝えてくれるみたいなのがあったらどうかなって思いました。

喜多:
たしかに難しいときはありますよね。具体的にそう感じたエピソードがあるんですか?

絶対:
このまえアニサキスに当たったと思って、内科に行ったんです。診察前に看護師さんと「何日に何を食べた?」「どこで買った?」「いつからこういう症状が出てる?」「こういう症状も加わってそれがいつ治った?」といった話をしっかりしたんです。こういう複雑で時間かかるような説明をしなきゃいけない時に助かるなって。医師はやっぱり忙しいし、限られた時間で診察するためにもそういう事前の要約みたいなのはあったらいいかもしれないですね。

喜多:
うんうん、それも空想病院として盛り込んでみましょう!




そんな話をしているうちに、今回の空想病院が見えてきました。

「なんとなく調子が悪い」を診てもらえる病院…『なんとなく病院』です。

病名がつくほどではないけれど、
疲れやすかったり、体調が安定しなかったり、
うまく説明できない症状が続いたり。

そんな「なんとなく不調」を抱えた人が、まず最初に来る病院です。

原因を探したり、症状を整理したりしながら、
「じゃあ次はこれを調べてみましょうか」と
次の一手を一緒に考えていきます。

この病院には、そんな体調を扱うための
ちょっと変わった仕組みがいくつかあります。

特徴その1
~原因探索ルーレット~




医師が「原因がはっきりしませんね」と言ったとき、 すっと登場するのが原因探索ルーレットです。

えっ、原因をルーレットで? そんな運任せの診察…大丈夫なの…?

いえいえ、もちろん運任せではありません。

ルーレットには、症状・検査結果・生活背景・既往歴…これらの情報を基に考えられる原因の候補がいくつか浮かび上がります。医師と患者が一緒にルーレットを回し、選ばれた候補に対して「まずここを調べてみましょうか」と次の一手を決めます。

このプロセス…一見すると遊んでいるようですが、複数の可能性を立てながら原因を絞っていく臨床推論と同じなんです。診察のなかで医師が頭の中で行っているプロセスを、この病院ではルーレットを使うことで患者と共有できちゃいます。

患者にとってつらいのは、次に何をすればいいのか分からないこと。

この病院では、診察の終わりには「じゃあ次はこれを調べてみましょう」という一手が決まるようになっています。原因が分からない日でも、次の一歩だけは、ちゃんと見つかるのです。

特徴その2
~この先生でいい気がするナビ~



「かかりつけ医って、どのくらい通えば【かかりつけ】なんですか?」

そんな遠慮や疑問を改善する仕組みとして、
「この先生でいい気がするナビ」があります。

「この症状であれば、A先生が続けて診ていくとよさそうです。このまま、かかりつけ医にしますか?」

診察後に患者のスマートフォンに通知が届き、「はい」か「あとで決める」を選択します。「はい」を選ぶと、その時点でその医師は「かかりつけ医」として登録されます。そんなシステムです。

ちなみに、その日の診察内容や症状、これまでの経過、そして診察中のやり取りや患者との相性などをもとに、どのような不調であればこの医師が継続して関わるのに適しているかが整理されて表示されています。

たとえば、
・だるさや頭痛、胃の不調など、原因がはっきりしない体調が続いているとき
・不眠や動悸、めまいなど、自律神経の乱れが関係していそうな不調があるとき
・検査では異常がないと言われたのに、しんどさだけが残っているとき
・生活やストレスの影響も含めて、体調をまとめて相談したいとき
・「こんなことで受診していいのかな」と少し迷うとき など。

次に来院したときに、「前に受診したんですが、かかりつけ患者面みたいにならないかな…」と遠慮する必要はありません。

かかりつけ医は通った回数で決まるものでも、患者が勇気を出して宣言するものでもありません。「この人が適していそうだ」という提案に対して、「それでいい」と頷くこと。その小さな合意で、関係がはじまっていきます。

特徴その3
~症状編集士~



症状が長く続いていたり、いくつか重なっていたりすると、
・いつからだったか
・何がきっかけだったか
・どこまで話せばいいのか
これらをうまく説明できないことがあります。

この病院では、診察の前に症状編集士が登場します。
患者の話を聞きながら、症状を整理することの専門家です。

症状編集士は「最近の体調について教えてください」と問いかけ、
・なんとなくしんどい
・頭が重い
・眠りが浅い
・食欲がない
といった患者の断片的な言葉から、
・症状の整理
・体調と生活の関係
・患者が抱える不安
などを一緒に整理していきます。

こうしてまとめられた内容は「症状編集メモ」として、
診察室で待つ医師に渡されます。

医師はメモに目を通しながら、
「このあたりから体調が崩れてきた感じですね」
「眠りが浅くなっているのも、同じ時期ですか?」
と症状をさらに詳細な問診がはじまります。

患者の負担が軽減されるばかりではなく、
医師が効率よく診察を行えるようになり、
どちらの満足度もとても上がっているとのこと。

特徴その4
~そのままナース~



この病院の看護師は、少しだけ「そのまま」です。

採血のとき、 「今日はちょっと血管見えにくいですね」
「少しチクっとしますね、ごめんなさいね」
と、手元を見ながらつぶやきます。

うまくいかないときには、
「うーん、もう一回だけいいですか」
と、少し困った顔をしたりもします。

受付でも、
「なんとなくでも大丈夫ですよ」
と、やわらかく返してくれます。

この病院では、看護師にそのままさがあるんです。

看護師が少し迷ったり、少し考えたりする姿が、そのまま患者に伝わることを大切にされています。そこから生まれる空気によって、患者も少し肩の力を抜いて受診することができます。

そのままだからといって、そこから「この看護師さん大丈夫かなぁ」と不安になることはありません。そのままナースは表現しても良いそのままさを熟知しているので、患者を笑顔にしたり安心させたり肩の力を抜かせることしかしないのです。もちろん、看護師としての必要な知識や技術もしっかりと有しています。

安心して受診するための人間味と専門性を兼ね合わせた看護師が、あなたを迎え入れるのです。




「こんなことで来ていいのかな」と迷ったときも、「どこから話せばいいか分からない」と感じたときも、そのまま来て大丈夫です。なんとなく困っていることも、「なんとなく病院」に教えてください。




喜多:
僕は『虚弱に生きる』を読んで、まだまだ気付いていない不調の形があることを知りました。多くの読者から共感の声を得ていることからも、きっと気付かれていない不調がたくさんあるんだと感じました。絶対さん、こんな病院はどうでしょうか?

絶対:
このくらいで病院に行っていいのかな? 行ってもどうせまた原因不明だったり治らなかったりで意味ないんじゃないか? などと逡巡して結局行かないことがよくあるので、なんとなく受診していいというのを大々的に言ってくれていて助かります。
ルーレットはあらゆる原因の可能性が文字で示されているのが安心できますし、かかりつけ医をアプリを使ってこちらの意思で決められるのも楽です。看護師さんが症状編集士的な役割を果たしている病院はすでにありますが、そうした名前が付いているとより安心してゆっくり説明ができそうです。優しさと人間味を兼ね備えた看護師さんもありがたいです。
総じて、私のようないろいろ細かいことを気にしてしまう人向けの病院だと思いました(笑)




私たち医療従事者は、患者さんの障害について「その人に障害がある」と考える“個人モデル”で考えがちです。しかし、現代では「社会や環境が障害をつくり出している」と考える“社会モデル”が主流となってきています。本連載では「空想病院」という視点から、病院という社会や環境を見直し、社会モデルの考え方を身に付ける機会を提供します。ぜひ、本連載を読んで働く病院で何が出来るかを考えてみてくださいね。