忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。


朝の申し送りで全員が黙る、あの数秒

ナースちゃん:
先週の申し送り、かなりホラーだったんですよ。

先生:
え、まさかまたあの病室から、夜勤巡回中に物音が……?

ナースちゃん:
ちょっと待って、それどの病室!? 私知らないんですけど! ……まあそれはおいといて。「本日入院、80代男性、透析中止で緩和ケア介入になりました」――以上。誰も何も聞き返さず、カンファ室が不気味な静寂に包まれました。全員が「あ、深掘りすると自分に降ってくるやつだ」って顔して一瞬の沈黙後、次の患者さんに移ったんです。情報共有という名の集団見て見ぬふりですよ。

先生:
ああ確かに、カンファでよくあるホラーシーンだよね。

ナースちゃん:
で、最終的にその患者さん、私が受け持つことになったんです。でも1週間経つ頃には傾眠になって、全身掻きむしった痕と夜間せん妄、浮腫でむくむく。ご家族は、「透析止めたのは、間違いだったんでしょうか」って泣きだす始末……。

先生:
それはハードだね。

ナースちゃん:
結局これ、私はどう関わったらよかったんでしょう。 私の知っているがん終末期の経験と、全然合わなくて……。

「がん終末期の応用でいけるでしょ」が空振る理由

先生:
んー、そこなんだよね。「透析中止=看取り=がん終末期の応用」って思いたくなる気持ち、すごく分かるよ。でも、それだと上手くいかない理由が4つあるんだ。順番に整理してみよう。

ナースちゃん:
4つ! やけに具体的ですね。

先生:
1つ目は、経過のリズムが違う。透析中止後の生存期間は、臨床的な目安として中央値1週間前後と言われているよ。もちろん人によって長さは違って、最短数日から長くて月単位までばらつくとされてるんだけどね。ただ、がん終末期みたいに週から月単位を前提に動いていると、介入がどうしても後手に回っちゃうよね。

ナースちゃん:
「介入3日後からゆっくり面談」じゃ、もう遅いってことですね。

先生:
2つ目、症状が違う。がん終末期は個人差があるとはいえ、多くの場合苦痛症状は疼痛が中心になるよね。でも透析中止後は掻痒・むずむず脚・悪心・せん妄・浮腫・呼吸困難などの症状が前面に来る。方向性が違うから、見るところもケアの焦点も変わるんだ。

ナースちゃん:
どれもがん終末期でも経験する症状ですけど、中心がズレてるって感じですね。

先生:
3つ目、薬の選択肢が乏しい。たとえば尿毒症性の掻痒には抗ヒスタミン薬がほとんど効かないし、悪心も腎機能の問題で使える薬が限られる。だからこそ観察と非薬物ケアが前面に出てくる。ここはナースが圧倒的に強いところなんだよ!

ナースちゃん:
「症状はとりあえず医師が薬でなんとかしてくれる」って、私心のどこかで甘えてました。

先生:
4つ目、ご家族の感じ方が違う。がん終末期のご家族は「自然経過への受容」を時間をかけて準備してきていることが多い。早期からの緩和ケアもだいぶ浸透してきたしね! でも透析中止後のご家族は「自分たちがやめさせた」という決断の罪悪感を抱えて病棟に来ることが多い。これが看取りの質を大きく左右するんだ。


がん終末期 vs 透析中止後 (タップして拡大↑)

透析中止後1週間、ナースができること

先生:
じゃあ、ここから「ナースが何を見て、何を触って、何を拾うか」を具体に説明しよう。

経過の地図を持つ
先生:
まずはじめに時間軸から。透析中止後、1~3日目はいわゆる立ち上がりで、尿毒症症状がじわっと出始める。4~10日目が症状のピークで、せん妄・浮腫・呼吸困難など多彩な症状が重なってくるよ。10日目あたりからは逆に傾眠に移って、看取りに向かうイメージだね。終末期の最終局面にかけて症状が増悪することは、保存的管理の文献でも繰り返し報告されているよ1)

ナースちゃん:
進行慢性腎不全の症状負担って、がん患者さん並みって聞きました。

先生:
よく知っているね! ナースちゃんの言うとおり、症状負担の重さはがん患者さんに匹敵するという報告があるんだ2)。透析中止後は「もう何もしない時間」じゃなくて、いちばん症状が出る時間だと心得ておこう!


中止後1週間の経過 (タップして拡大↑)

症状ごとに「ナースができること」を知る
先生:
次は症状別に見ていこう。ナースができることをまとめるよ。

- 掻痒:掻き跡の場所と深さ、夜間の睡眠妨害、皮膚の乾燥度を見る。爪を短く整える、保湿、乾燥を避ける環境調整(室温・湿度)、綿の衣類、ぬるめの入浴なんかの対応ができるといいね。

- むずむず脚:夜間の足の動き、訴え方を見てほしい。ふくらはぎを下から上に2-3分マッサージ、温・冷罨法なんかの方法が使えるよ。まずは温罨法から試してみて! 就寝前の足浴も効くことが多いね。

- 悪心:食事タイミング、室内の臭気、口腔の状態を確認してみよう。口腔ケア、換気、ファウラー位などの工夫ができるといいね。あと大事なのは、食事は強要しないこと。ときに患者さんがご家族からのプレッシャーを感じていることもあるから、丁寧に思いを聞いてあげてね。

- 浮腫:1日単位の増悪、下肢から全身への広がり、呼吸への影響を見よう。体位調整、皮膚保護を中心にケアしていこう。それからご家族への説明も大事だね――「おしっこが出ないから、水分が上手く捨てられないんです」って言葉、ナースから出るとご家族の受け止め方も変わるんじゃないかな。

ナースちゃん:
「水分が上手く捨てられない」。点滴増やしたいご家族の気持ちを、頭ごなしに否定しない言い方ですね。

先生:
せん妄は少し慎重に行こう。出現時間帯、見当識、あとはご家族同席時に症状が変わるかも大事なポイントだね。脱水か尿毒症かで対応が変わるんだ。脱水なら、口腔ケアと少量の水分摂取でいけることもある。でも尿毒症由来だと、輸液を増やすとかえって浮腫を悪化させる――ここはナース単独で判断するところじゃなくて、観察を持ち寄って医師と相談する場面だね。夜間こうでしたって観察内容を伝えて、輸液をどうするかは医師と一緒に考えよう。

ナースちゃん:
せん妄のケアはひとりで抱えない、大事なことですね。

先生:
透析を含まない包括的保存的ケアの考え方は、国際的にも整理されているよ3)。ただ米国や欧州の議論をそのまま日本に持ってくると保険制度や在宅資源の点で合わなくなるから注意してね。日本の現場ではやっぱり日本透析医学会の提言4)が一番大事になってくるからね。


症状別 ナースができること (タップして拡大↑)

ご家族の後悔に寄り添う
先生:
透析中止を「決断した」ご家族は、看取りの最中に罪悪感が再燃することが多いんだ。「もっと続けさせてあげればよかった」「あの時止めていれば」――1週間という短い時間の中で、何度も後悔の波がやってくる。

ナースちゃん:
……分かります。私も3日目に泣かれて、咄嗟に「お気持ち、分かります」って言っちゃったんです。言った瞬間、ご家族の表情がすっと冷たくなって。あ、間違えた、って。前に先生に教えてもらったのに。

先生:
「浅い共感」をしちゃったんだね。なかなか難しいよね。浅い共感、深い共感についてもう一度振り返りたい人は、こちらの記事を読んでみて。

ナースちゃん:
ちゃんと復習しときます!

先生:
深い共感で大事なのは、相手のことを安易に理解したつもりにならず、きちんと傾聴することだね。「ご本人はどんなことをおっしゃっていましたか」「ご家族の中で、どんな話し合いがあったんですか」「そのとき、どんな気持ちでしたか」――決断の文脈を、ご家族自身の言葉で振り返ってもらおう。そこには、良いも悪いもないんだ。私たち医療者はそれを評価しないし、ましてや断罪してはいけないんだよ。

ナースちゃん:
評価しない聞き役。簡単そうで、現場でいちばん難しいやつですよ。分かっているつもりでも、ついつい自分の考えや主観って、口から飛び出しちゃいますからね。

「もうやることはない」じゃない、観察と非薬物ケアが前面に出る時間

先生:
最後に、今日壊しておきたい3つの「分かったつもり」を確認しよう。
ひとつ目、「透析中止=もうやることはない」ではない。中止してからお看取りまでの時間こそ、介入の濃度がいちばん上がる時間なんだ。
ふたつ目、「症状は医師が薬で取ってくれる」――尿毒症症状は薬の選択肢が乏しいからこそ、観察と非薬物ケアが症状緩和の前面に出る。ここでナースがどう動けるかで、最期の1週間の質が決まるといってもいいね。
みっつ目、「患者さん・ご家族の意向で透析中止になったんだから、皆納得できているはず」――これも違うよね。人生に関わる重大な決断って、意思決定の場で終わりじゃなく、看取りの最中にこそ何度も悩みや苦しみが繰り返すものなんだ。患者さんご本人の自律的な選択を尊重したからといって、ご家族の苦悩がそこで終わるわけじゃないんだよ。

ナースちゃん:
1週間の中で、ご家族の罪悪感を深く傾聴できたか、ご家族の苦悩をきちんと受け止められたか――そこにナースが立ち会えるかどうか、ですね。

先生:
そう。だから、透析中止後の1週間は、大げさじゃなくナースが主役の時間と言えるね。

ナースちゃん:
えっ、ちょっと待ってください。観察して、非薬物ケアして、ご家族の罪悪感を深く受け止めて、医師に観察報告して、ご本人と人生を振り返って……めちゃくちゃ忙しいじゃないですか、ナース。

先生:
確かにね。なんというか、僕まで心が重たくなるような、それでいて頑張ろうと強い決意を感じるような、深く静かな気持ちになってくるね……。

ナースちゃん:
コラ! 深い共感で逃げようとするな!

【参考文献】
1)O’Connor NR, Kumar P. Conservative management of end-stage renal disease without dialysis: a systematic review. J Palliat Med. 2012;15(2):228-235.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3318255/
2)Davison SN. End-of-life care preferences and needs: perceptions of patients with chronic kidney disease. Clin J Am Soc Nephrol. 2010;5(2):195-204.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2827591/
3)Murtagh FEM, Burns A, Moranne O, Morton RL, Naicker S. Supportive care: comprehensive conservative care in end-stage kidney disease. Clin J Am Soc Nephrol. 2016;11(10):1909-1914.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5053791/
4)日本透析医学会. 透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言(2020年改訂版). 日本透析医学会雑誌. 2020;53(4):173-217.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/53/4/53_173/_article/-char/ja




光齋久人
悠翔会くらしケアクリニック練馬
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
University of Technology Sydney

緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。東京で在宅緩和ケアをしながら、研究にも励んでいます。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
X:しくじり緩和ケア医@シドニー (@StumblePall
note:つまづき緩和ケア医 (https://note.com/stumblepall

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患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第1回スペシャルトーク!
共感ってなに!?
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患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第2回スペシャルトーク!
もう「何もできない」とは言わせない! 口内炎ケアで看護師ができることまとめ
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点滴しないと、寿命が縮まるんじゃないですか!? 終末期における補液の考え方とエビデンスまとめ
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