忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。
モルヒネのレスキュー、再投与可能の指示があっても、呼吸抑制などの副作用が怖くて上手く使えないことがありませんか? 使ってよい根拠、「麻薬は怖い」と渋る患者さんへの対応、使ったあとに観るポイントを整理していきます。
モルヒネの呼吸抑制が怖くて、レスキューを使えなかった夜勤
ナースちゃん:
先生、前の病院で一緒だった同期、一般病棟勤務の子から電話相談が来まして。肺がんの60代男性、体を動かすと右の背中が痛む方。夜勤のとき痛みでオプソを1回レスキューしたそうです。1時間後、まだ痛いと言っている。指示簿には1時間ごとに再投与可能と書いてあったそうです。……でも、使わなかったと。
先生:
オプソのレスキュー投与間隔は、ガイドライン上も1時間だね1)。指示簿にもきちんと書いてあったみたいだけど、どうして投与できなかったんだろう?
ナースちゃん:
そこなんですよ! そもそも、患者さん本人が「麻薬はあんまり使いたくない。我慢できる」と言っていたそうです。それに、夜は人が少ないじゃないですか。呼吸抑制とか、何かあったら怖い。他の先生の疼痛時の指示にはいつも、「6時間ごと」とか「1日4回まで」とか書いてある。なのに、オプソは「1時間ごと」っていう短いインターバルで、さらに1日何回まで使っていいかも書いてないでしょ? 結局何が正しいか分からなくって、日和って朝まで様子を見ちゃったそうです。……患者さん、朝まで痛みを我慢して一睡もできなかったって。
先生:
眠れない夜は長かっただろうね。で、ナースちゃんは何て答えたの?
ナースちゃん:
胸を貸すつもりが、言えたのは「えっと……使っても良かったんじゃない?」だけ。緩和ケア病棟ではオピオイドレスキューを使うのが当たり前すぎて、使えなかった頃の気持ちを忘れてしまいました。それに、そもそも麻薬をあんまり使いたくないって言っている患者さんに、どう説明すれば良いのかも難しいですよね。患者さんを尊重してる顔をして、その実、こっちの怖さの隠れ蓑にできちゃうわけで……。同期の子の気持ち、すごく良く分かるんです。
先生:
正直な言葉だね。そしたら今日はまず、その怖さの正体を薬理的に紐解いてみようか!
モルヒネの呼吸抑制が起きる仕組みと、ガイドラインが「まれ」とする条件
先生:
呼吸抑制は実在するよ。オピオイドが脳の延髄の呼吸中枢に直接作用して、呼吸の回数が減るんだ1)。レスキューを重ねて「量が増えると危ない」の直感は、薬理的に正しい。ただ続きがあって、がん疼痛の治療目的で適切に投与する限り、呼吸数は低下しないか、低下しても1回換気量が増えるので低酸素血症になるのはまれなんだ1)。起こりうるのは、急速静注で血中濃度を一気に上げた場合と、必要量を大きく上回る過量投与のときと言われているよ1)。同期さんの場面はどうだった?
ナースちゃん:
どっちでもないです。がんで痛いと言っている患者さんに、決められた量と時間で、内服1回だけ。直球ど真ん中の「適切に投与する限り」ですよ。……でも、私がこう言い切れるのは、私が緩和ケア病棟にいるからじゃないですか? 「まれ」であることを実地で確認済みなだけで。
先生:
そうなんだよね。沖縄県内の看護師調査(448人)でも、突出痛のある患者さんに関わる頻度は緩和ケア病棟が高く、一般病棟は約6割が「関わる頻度が低い」群だった2)。他の疾患も受け持つなら自然で、環境による経験の差なんだから怖くて当たり前だよね。
ナースちゃん:
つまり私の麻薬に対する知識と感覚は、環境に助けられて体で覚えただけだってことですよね。長嶋監督が「スーッと来た球を、バッといって、ガーンと打つんだよ」とか言ってるのと一緒ですよ!
先生:
自分のことを長嶋監督と並列に語れるのは、ナースちゃんと張本選手くらいだね!
オピオイドの過量は、呼吸数ではなくまず眠気で察知する!
先生:
国立がん研究センター中央病院の研究で、がん疼痛に強オピオイドが使われた17,463例のうち、拮抗薬のナロキソンまで至ったのは18例だったという報告があるよ3)。リスク因子の筆頭は腎機能の低下、予後予測が週単位、抗精神病薬やガバペンチノイドの併用、変更や増量の直後、だったよ3)。
ナースちゃん:
で、「レスキューを1日に複数回使った」は何位です?
先生:
入っていないんだ。ガイドラインでも、オプソの投与間隔は1時間ごととされているけれど、一日の上限量は決まっていないんだよ1)。
本当に注意を向ける先は、レスキューの回数じゃない(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
怖がる相手がズレてたんですね! レスキューを重ねた回数より、腎機能が落ちたり他の薬剤が入ったりしたことにこそ目を光らせないと。
先生:
そういうこと。もう一つ、見直しの引き金にガイドラインが置くのは、呼吸数じゃなく眠気なんだ。「オピオイドによる呼吸抑制を生じることがあるため、眠気が生じた段階で鎮痛手段の見直しと評価を行うことが重要である」と書いてあるよ1)。眠剤やリスペリドン、プレガバリンなんかでも眠気が起きるのは皆知ってるよね。患者さんが眠そうにしていると、ついこれらの薬を犯人に仕立ててしまいがちだよね。でもそんな時こそ、犯人を安直に決めつけずに、「もしかしてモルヒネからくる眠気かも?」と疑ってみることが大事なんだよね。
麻薬を渋る患者さんに何と言うか、使ったあとに何を観るか
ナースちゃん:
ここまでは分かったんですけど、先生、いちばんの難所が残ってますよ! 乗り気じゃない患者さんに何て言えばいいのか? 看護師が知識でマウント取って、上から説得するのは違う気がするんですよ。
先生:
確かに、それでは結局上手く行かないよね。ガイドラインは、ためらう患者さんには、なぜ使いたくないのか、背景の思いや理由を理解する姿勢で関わってほしいと書いてある1)。日本の一般市民の約30%が「モルヒネは中毒になる」「モルヒネは寿命を縮める」という印象をもっているというのだから1)、渋る患者さんがたくさんいるのも当然のことだよね。
ナースちゃん:
じゃあ実演を。「◯◯さん、さっき、麻薬はあんまり、っておっしゃってましたよね。使いたくないのは、どのあたりが心配ですか」。……で、「癖になりそうで」と返ってきたら?
先生:
まず「そこが気がかりだったんですね」と受けて、エビデンスはそれから渡してあげよう。オピオイドを使ったがん患者さんの追跡で、精神依存の基準を満たしたのは550例中1例、0.2%1)。寿命を縮める根拠もなく、その懸念で鎮痛を差し控えるのは妥当ではないとされているよ1)。
ナースちゃん:
おお、ちゃんと根拠があるんですね! じゃあ次は、指示簿の疼痛時頓用薬によく付記されてる文言。「6時間ごと」とか「1日4回まで」とかの指示のばらつきって、あれなんなんですか?
先生:
ロキソニンやカロナールの「6時間あけて1日3回まで」の感覚が、オピオイドのレスキューにも混ざりやすいんだろうね。当たり前のことだけど、薬剤ごとに用法用量は違うので、原則は書いてある指示に従って欲しいな。ただ、迷ったらちゃんと処方医に確認してみよう。それと、使ったらその後患者さんの状態を観察する、までがセットだよ。経口のレスキュー薬は多くが30〜60分で効くから、そこで一度、効いたかを確かめに患者さんのところに戻って欲しいんだ。
ナースちゃん:
でも、夜勤なんだから深夜ですよ? 起こしたら舌打ちされる自信あります。
先生:
そんなときは、まずは患者さんに触らなくてもいいんだよ。呼吸のパターン・回数、いびきのような音、寝返り、表情まではベッドサイドから観察できるよね。「なにかおかしいな」と思ったら、呼びかけて起こしてみよう。痛みが取れて眠っているのか、オピオイドで眠らされているのか、呼びかけへの反応で見分ける。こういうときこそ呼吸数が大事な指標で、18例の麻薬過量でナロキソンになった患者さんの実測回数は、3〜10回/分だったそうだよ3)。
レスキュー投与間隔と観察すべきタイミング(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
おーし、今夜早速同期の子と飲みに行って、「眠気がスーッと来たら、バッと観て、ガーンと報告」って教えてあげよう! あの夜は「喝」だったぞって。
先生:
いやいや、むしろ朝まで気にかけ続けた気持ちに「あっぱれ」をあげて欲しいな。
ナースちゃん:
じゃあ、私の心のリトル張本と大沢親分両方出演させましょう。ひとりサンデーモーニングしてきます!
【参考文献】
1)日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会 編. がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2020年版. 金原出版, 2020.
https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/pain2020.pdf
2)吉澤龍太, 神里みどり. がん患者の突出痛のコントロールに関する看護師の認識—病棟・外来・緩和ケア病棟の所属別による比較—. Palliative Care Research. 2025;20(4):223-232. doi:10.2512/jspm.20.223
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/20/4/20_25-00017/_article/-char/ja/
3)石川彩夏, 石木寛人, 松原奈穂, 池上貴子, 川崎成章, 荒川さやか, 池長奈美, 飯田郁実, 近藤麗子, 里見絵理子. がん疼痛治療におけるオピオイド過量症状に対してナロキソンを用いた症例の検討. Palliative Care Research. 2024;19(4):237-243. doi:10.2512/jspm.19.237
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspm/19/4/19_24-00029/_article/-char/ja/
悠翔会くらしケアクリニック練馬
東北大学大学院医学系研究科保健学専攻緩和ケア看護学分野
University of Technology Sydney
緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。東京で在宅緩和ケアをしながら、研究にも励んでいます。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
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