農林大学校に退学届の提出や寮の荷物整理に向かう電車の中でこれまでの学校生活を思い起こしています。看護学生のころ、登校しても必要がなければ1日中人と話す機会がない日もあったり、みずから話すタイプではなかったため誰かと雑談することもほとんどなかったのと打って変わって、農林大学校では友だちに恵まれ、コンビニに行くことさえ楽しくて、楽しくて、つねに笑っている日々。自分自身でもこんなに違う人間のようになるなんて想像もしていませんでした……

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友だちの誘いに乗ってみる

部活をしているといえど、週に2日ほどしかなかったので、残りの3日間は授業が終わった後は暇になります。

お風呂に入って、洗濯物を回して、食堂でご飯を食べた後は夜の点呼まで時間があります。夕食後にどこかに出かけるには短すぎるので、だいたいは部屋のベッドの上でYouTubeを観たり、友だちの部屋に行ってしゃべったりしていました。


友だちと話しているなかで、私がダンスを10年ほど習っていたと話すと「ダンスやってみたい! 教えてほしい!」と言われました。10年もやっていた割にレベルは高くないものの、柔軟、アイソレーション、リズム取りなど基礎的なことは教えられるレベルなので、ほかに興味がある人がいないか探して声をかけて、LINEのグループを作って開催する曜日を決めて場所を取りました。

日時とやる場所をLINEグループに流しましたが、当日は開始時間前に集まる人はおらず、ゆるゆると集まってくる感じでした。部活ではないので時間通りに来る必要はないですが、ある程度の人数が集まらないと始められないので、早く来てくれた友だちと雑談しながら待ちます。

ある程度集まってきたら、最初に柔軟の説明を軽くしてから音楽を流し、音に合わせて柔軟をしていきます。やりたいって言ってくれた子のためにもグダグダにはできないなと思っていたので、以前習っていた先生が使っていた曲をピックアップして、どういう柔軟をやっていたか思い出しながら組み立てました。

「えー、体が硬くて無理~」「できない〜」と言われながらもひと通り柔軟をして、アイソレーションに移っていきます(アイソレーションは、体を首・胸・腰に区切って、意識的にその部分だけ動かす練習をします。アイソレーションをすることによって体の可動域を広げ、体のコントロール方法を習得します)。


私は小学2年生からダンスを始めたので、なんとなく楽しいと思ってやっていたら徐々にできるようになったので、基礎的なことで壁にぶつかった記憶がありません。そのため初めてアイソレーションをやる人に生じる「できない」感覚を想像ができません。

案の定、お手本として動きを見せると「無理〜、こんなのできない〜」「人間とは思えない動きなんだけど(笑)」と言われてしまいました(涙)。


みんなダンスがやりたくて来ているわけではなく、ノリで来てみた人のほうが多かったので、挑戦してできるようになろうという姿勢ではないのは当然でした……。


とりあえず首・胸・腰のアイソレーションをやって、次のリズム取りに移ります。

ダンスのリズムはダウンとアップに分かれていて、1、2、3、4、5のタイミング(オンカウント)で膝を曲げるダウンとエンカウントで膝を曲げ準備し、1、2、3、4、5のタイミングで膝を伸ばすアップです。


初めてだと、ダウンはなんとなくできても、アップのタイミングを掴むのが難しいのです。頭で理解しようとしても難しく、理解したとしても体がうまく動かないのです。日常生活中にダウンの動作はしたとしても真反対のアップをすることはないので、最初は脳トレに近い感じです。

そのため、最初はアップをしようと思っていてもなぜかダウンになってしまったり、アップのリズムを取っていても途中から混乱してダウンになってしまったりします。


脳トレ感覚でみんな楽しんでくれましたが、やはりうまくなりたい気持ちが強くないと練習としては続かないんだなとやっていて感じました。

想像と実践で生じる差

いままでも「ダンスを教えて!」と言われたことはありましたが、笑って流してきました。それは、自分のレベルが高くないから教える自信がない気持ちと、組み立てた想像と実際にやってみた際に生じる差を受け止める元気がなかったからです。

10年もダンスをやってきましたが、自分のことをうまいと思ったことは小学校4年生以来ありません。技術的にもセンス的にも自分より上の人はたくさんいます。

地元にいるときはスクールがたくさんあったので、「教えて」と言われても私が教えることはありませんでした。しかし、農林大学校は辺地な場所にあるのでダンスを習いたいと思っても簡単には行けません。そのため、みんなの暇つぶしになればいいかなとハードルを低くすることができ、私でもよければという気持ちで教えてみようと思いました。


ですが、想像以上にグダグダになってしまうことにフラストレーションを感じていました。どうやら、やるのなら、みんなが上手くなることを目標にやりたいと思っていた自分がいたみたいです。実際にやってみて、生じた感情から自分がこう考えていたんだと再認識することができたと思うと、やってみてよかったです。


頭のなかで組み立てたものを実践するのは、体力的にも精神的にもエネルギーの消費が激しいです。予測して立てた計画と実践した結果の差にエネルギーを消費してしまうみたいで……。

個人での挑戦は、想像と実際の差はそれほど大きくないので身軽に挑戦できますが、他者を巻き込んだ挑戦では差が大きくなってしまい、ストレスがかかるのでいままでやってこなかったんですよね。



ダンスの文化はすごく好きなので、新しい文化を知ってもらえてよかったなと思うと同時に、人を巻き込むのはやっぱり疲れるなと思いました。1人で行動していたほうが楽なんですよね。

「早く行きたければ一人で行け、遠くへ行きたければみんなで行け」
(If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.)

このようなことわざがありますが、私は割とせっかちですし早期に結果がでないと続かないので、もっぱら1人で行きたいタイプです。

ですが、この日の経験が後に文化祭で踊ることにつながり、このことわざの意味をひしひしと感じることになります。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。