新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさん。コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、それまで通っていた農林大学校を退学することを決意。荷物整理のために2カ月ぶりに学校を訪れて寮の荷物整理をし、一泊して翌朝に友人や先生たちに見送られて出発しましたが高速道路に乗ったあたりで大雨が降り始めました。休憩のため立ち寄ったサービスエリアを出ていよいよ首都高速に入りましたが、車線の多さとナビの指示でパニックになり出口を間違えてしまいました。再び高速道路に入ります……
ようやく地元に近づいてきた
ナビに従って再び首都高に入ります。
また間違えないか、予想外の方向に分岐がないか、心がざわめきながらも運転を続けていると標識に知っている地名が出てきました。
知っている地名が出てくるとなんだか落ち着くものです。地元で車を走らせた経験はほとんどありませんが、母の運転で出かけたときに聞いたことのある道路に突入です。
もうここに入ってしまえば、家はすぐそこです。寮から3時間以上運転していても疲れはありません。事故なく実家に着く感覚が確実のものとなってきます。
高速道路を降りて国道を走り家に向かっていると、パラパラと小雨が降ってきました。出発したときの大雨に比べれば降っていないくらいのものです。ナビを見ると標識に沿って運転していれば知っている道に出そうだったので、ナビを切りました。
LINEを開いて、音声入力で母に連絡します。
「いま国道を走ってるからもうすぐ着くよ」
この道は中学生のときにゴツいバイクがたくさん走っていて、それに憧れていたんですよね。バイクの免許が取れる年齢になったらすぐに取りに行って、ピンクのヤマハ・マグザムに乗るんだと妄想していました。その妄想は、看護高等学校入って打ち砕かれるんですけどね（笑）。
バイク事故の手術や術後の人生のたいへんさを見ている医師からの「バイクは絶対に乗らないほうがいい」という言葉は重たかったです。また、中学の同級生のバイク事故などを知って、憧れは憧れのままにしておこうと思いました。
ASDを持つ私は地元に帰ったら車も乗るつもりはありません。ASDの特性と車の運転の相性は良いとは言えないので。
父が待っている
また母にLINEを送りました。
私「下道入ったから、15分くらいで着くと思う」
母「はーい！安全に帰ってこられて安心したよ〜駐車場わかるー？」
私「父の車の隣でいいんだよね？」
母「そうそう〜、お父さんなんか心配だから駐車場で待ってるって言ってるから（笑）」
まじかよ。いやいや駐車場の位置わかるからいいのに。
私と父の関係は決して良くはなく、中学生のときからほとんど話していません。小学生のときに胸ぐらを掴まれ、その瞬間から父親だと思わないようにしました。また、私が小学生のときから10年間単身赴任をしていたので、話さなくていい環境だったんですよね。
看護学生時代、家族社会学の授業で「家族とは生まれて初めて所属する社会的集団である」と教えてもらったとき、頭に雷が落ちました。これだ。私が「家族」という抽象的なものを理解するために、この説明が欲しかったのだと。
映画やCMの影響から、家族というと温かく愛に溢れた関係をイメージしがちです。でも、端的に「家族とは生まれて初めて所属する社会的集団である」といわれると、温かいイメージなんて持たなくていいのだなと思えて、心がすごく楽になりました。
生まれて初めて所属する社会的集団の構成員の1人が、言葉ではなく不機嫌や力で人をコントロールしようとしていただけだと。そういうこともあるよなと。
ASDにとって、抽象的な概念や現象を具体的な言葉で示してくれる学問は本当に楽しく、安心をもたらしてくれました。家族社会学の授業中は同級生の2/3が寝ていましたが、すごくおもしろかったです。学びが私の心を支えてくれました。
そして私は父親を反面教師にして、言葉を磨いてきました。うまく言語化できないフラストレーションからの不機嫌によって人をコントロールしようとせず、言葉で自分の状態を説明できるように、建設的にコミュニケーションができるように、たくさん本を読み、素敵な言葉たちを身体にストックしてきました。
同じ感情でも単語や言い回しが違えば、まったく違うニュアンスになります。表面的な言葉を鵜呑みにしがちなASDの私にとっては、毎日が難問で、謎かけだらけです（笑）。
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。
