新卒では看護師の仕事には就かず、農林大学校へ進学したまめこさんは、コロナ禍に初めて病院で働きはじめ、農林大学校は退学することに。病院勤務は週3日、働き始めて2カ月が経ちました。看護助手業務からスタートして、現在は緊張や不安を感じながらも周囲の温かい声かけにも助けられ、入浴介助や食事介助を担当していますが、今朝は出勤してナースステーションでの申し送りから参加し、入浴前の患者さんの準備と初めてのことが続きます……

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慣れないスピード感

患者さんは、ほとんど自分で食事を取れる状態のため、時々ぼーっと手が止まってしまうときに声をかけて、それ以外の時間は座って見守るという、なんだかむず痒い時間です。

ナースステーションから見える位置だし、何もしてないじゃんとか、もっと元気に笑顔で声をかけるべきだとか周囲から思われていたらどうしようと、定時の12時半が早く来て帰れないかなと、なかなか進まない時計を見ていました。

みんなが求めている正解の立ち振る舞いはこれですってビデオとかで先に示してくれていたら、その通りにやれば怒られることはないし、こんな不安も感じなくて済むのにな。私は多くの人が指している「普通」も「当たり前」もわからないから。


師長「まめこさん〜どう?もう慣れたー?」

いま、食事介助中に話しかけられているけど、きっとこの“慣れた”が指しているのは特浴のことだよな……。

私「いや、まだ慣れないです……」

師長「そう〜?大丈夫そうと思ったけど〜」

私「やることがたくさんあって頭の中がいっぱいいっぱいですし、時間のことも考えなきゃいけないと余計……」

師長「まあまあ、回数を重ねればさ、時間配分もわかるようになるし、大丈夫だよ。今のとこ心配ないなって感じだしさ」

師長さん「次はまた私が付くようにするけど、その次からひとり立ちってことで」

前に「教えるペース早かったら言って〜」と言ってくれたのに、結構なスピード感で進むことに私は返す言葉もなく、棒立ちになっていました。

師長「そんなに緊張しなくて大丈夫(笑)。私が付かなくなってもフリー業務の看護師が特浴室の外にいるから、わからないことがあったら聞けるからさ。大丈夫〜大丈夫〜」

師長「あ、もう12時半だね、お疲れさま〜また次回よろしくね〜」

師長さんに言われた言葉と、もう次からほぼひとり立ちになってしまうことへの胸のざわめきが、頭をぼーっとさせました。

ベテラン看護師さんは何を思う?

そうして入浴介助はひとり立ちし、特浴室の外にいるフリー業務の看護師さんに「そんなんじゃおわんないよー!」とドア外からたびたび叫ばれ、ドアを開けられては「手の中もっとちゃんと洗って、垢取れてない」と指摘をもらい、手の中をしっかり洗うことを意識したら「スピード上げて〜」と言われて「匙加減がわからないし、これ以上早くできないよ(泣)」と思いながら、とにかく一生懸命やりました。


私が新人看護師すぎて、どこまで言ったらいいのか先輩たちも発言に困っているようで、ドアの外から「絶対おわんないよね」「遅いって言えばいいじゃない」「私言えないよ、本間さんが言ってよ」というやり取りがあっての「そんなんじゃおわんないよー!」でした。

「私言えないよ」と言っている看護師さんは貫禄あるしズバズバ言っちゃう系に見えるのに、こういうのは言えない感じなんだな〜と少し不思議に思いつつ、私が傷つかないように配慮してくれているんだろうなと感じました。


本間さんは定期的にドアを少し開けて、隙間から私の動向を見ては「ふ、ふ、ふ」と見ています。この「ふ、ふ、ふ」はどういった感情なのだろうか、粗探しをしては師長さんに報告する系タイプなのか、それともただ見ているだけなのだろうか、だとしたらなんで楽しそうなのか。

看護高等学校のときに5年間同じクラスだった人も、20年間育ててくれた母親ですら、私にとっては何を考えているのかわからないときがあるので、関わりが浅い「ベテラン看護師」勢がどういった思考・感情・慣習で動いているのかよくわかりません。


嫌われてしまうのだろうか。
呆れられてしまうのだろうか。
嫌がらせをする機会を狙っているのだろうか。

私のことを、どう思っているのだろうか。

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まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。