農林大学校に退学届の提出や寮の荷物整理に向かいながら、これまでの学校生活が思い出されます。同級生の多くは年下だったので入学まで不安だったこと、3人部屋のルームメイトをきっかけに2日目には話せる人が増えていったこと、同級生に同じ看護師がいて驚いたこと、看護学生時代の厳しい生活と比べて、我慢しなくていい環境に身を置いていることを徐々に実感していったのでした……

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集中という名の嗜好品

農林大学校は午前が座学、午後は実習のスケジュールが組まれています。

座学では森林管理学、測量学、樹木医学、鳥獣対策論、きのこ栽培論、簿記など学びます。農林大学校に心の療養に来たとはいえ、勉強は好きなため「いっぱい勉強するぞー!」と張り切っていました。ですが座学の進むスピードがとても遅く、自分で教科書を読んだほうが早いと思うレベルでがっかりしてしました。

私が通っていた5年一貫の看護学校は、看護大学生に比べて短期間で国家試験に必要な範囲を終わらせるため、授業スピードがとても早かったのです。

外部講師として病態を教えてくれる医師は、「この授業時間でやれっていうのが、そもそも無理なんだよね」とぼやきながら授業をしていましたし、ある先生の授業は日本語で話しているはずなのに、早すぎて日本語に聞こえないこともありました。

少しでも考え事をしていると、スライドがどんどん進んでいて、どこをやっているかもわからないくらいのスピードで進んでいきました。1秒たりとも集中力を切らさないように授業を受ける、毎回の授業が「試合」のようでした。

それでも必要な範囲が授業のなかで終わらないときは、「教科書全部読んどいて。それがテスト範囲だから」と言われたこともありました。ほんとにクレイジーですよね。授業でふれたところがベースとはいえ、各自で教科書を読まざるを得ないほど授業時間数とテスト範囲が不釣り合いでした。

それも楽しかったんですけどね。


そんな生活をしてきた私は、農林大学校でも持ち合わせる集中力をたぎらせるようなかたちで臨もうとしていました。ですが、そんな必要はありませんでした。

最初は真面目にノートをとっていましたが、小テストではノートをとらなくても点数が取れる感触があったため、それからは教科書をぼんやり見るだけになりました。時間だけが消費されていく感覚。

毎回の授業に緊張することも、授業中に心拍数が上がることも、息が切れることもない授業があるんだなと驚きと残念さと安堵が入り混じった気持ちになっていました。

私にとって集中することは楽しいものだったんですね。不安があったからあれだけの集中力を発揮できたのだろうと思いますが、それでも楽しかったのです。看護学生時代、その不安に蝕まれてしまいましたが、学ぶことが嫌になったことはありませんでした。

いちばんになることは、どこへ行っても難しい

集中力を総動員して授業が受けられないおもしろくなさを感じていました。ゾーンに入りながら勉強する楽しさを知っている私は、なんだかもぞもぞします。

高校時代から林業を学んでいるクラスメイトもいるので、すべてにおいて1番になるのは難しいのかなと思いながらも、やっぱり負けず嫌いなのですべて1番がいいと頭は言います。

看護学生時代でいう小テストレベルの勉強をして、農林大学校でのテストでは1位もしくは上位に入っていました。小テストレベルの勉強といえど、がんばっていないわけではないので、1位が取れなかった科目は悔しかったです。 

心の療養目的で進学しているのもあって、がんばり過ぎないことをがんばるのも私の目標です。

「1位じゃなくても、それでいいって思わないといけない」

がんばろうとするときに、がんばらなくていいんだよと自分にブレーキをかけるのは想像以上にきついことでした。

小・中・高校とがんばることが「よい」こととされてきました。でも、心身のバランスが崩れていた当時、がんばらないことをがんばらなければいけませんでした。この矛盾に私は折り合いをつけていかなければいけない。農林大学校はそのための1年でした。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。