農林大学校に退学届の提出や寮の荷物整理に向かう電車の中でこれまでの学校生活を思い起こしています。校外実習の現場は学校からバスで1時間ほど。バスの中はクラスメイトが各々自由過ごし、暖かくて、カオスな時間でした。現場では腰にナタを巻き、ヘルメットをかぶって安全靴を履き、それまで看護の世界で感じていた「作業する場所は安全である」という常識が通用せず、いままで経験してきたこととはまったく違うもの、考えかたに出会い、心が震えたのでした……

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学校生活=看護師になるための努力期間だったころ

私はいままでよく言われる学校生活=青春のような、楽しさで溢れているキラキラした生活は送ったことがありませんでした。

県内で唯一の看護科のある高校に入るためにできるだけ内申点を稼ぎたくて、真面目に優等生として中学校生活を送りました。高校生になったらスカートを短くして、メイクして、髪も染めて、キラキラした高校生活を送るんだと意気込んでいました。そうした理想を描くことで息苦しい中学校生活も乗り越えることができたんだと思います。


ですが、いざ高校に入学してみたら校則がすごく厳しい。
「服装の乱れは心の乱れ」と言われます。

同じ高校でも普通科はスカートを切っている人もいるのに、看護科の先生たちは絶対に許さない雰囲気を漂わせていました。1学年40人しか生徒がいないため先生の目がよく届くのです。だからスカートが短いとすぐ注意されます。私が理想としていた雑誌『Popteen』に載るようなギャルな高校生にはまったくなれませんでした。

放課後はみんなと遊びに行くことを思い描いていたのに、実習の練習をする日々。高校1年生から課題も多く、遊んでいられない状況でした。そして理想と乖離し過ぎたからか、それとも中学校3年間がんばり過ぎたからかわかりませんが、高校1年の夏からうつ症状になってしまいました。


高校へは通学だけで1時間半ほどかかっていたので、行き帰りでだいぶ疲れていました。小学校と中学校は家から近く登校時間が10分程だったためなかなか慣れず、課題もあるから学校が終わったら真っ直ぐ家に帰るのが当たり前になってしまいました。看護高等学校には5年間いましたが、そのなかで放課後に遊んだのは片手で数えられるほどです。それもテスト返却期間にお昼ご飯を友だちと食べに行った程度です。

思い出して書いているだけでなんか虚しくなってきました。思い描いていた理想の高校生活とかけ離れたもので結構ショックでしたね。でも、できるだけ早く経済的に自立するために看護師になりたかったので、自分のそうした気持ちは見ないようにしていました。

周りは遊んでいるのに……

専攻科1年生(看護高等学校4年目)になると50分授業が7限まであり、高校生のときより勉強だけの日々になりました。8時40分から始まって16時過ぎまで授業です。授業中にまとめられなかったことを17時過ぎまで学校でまとめて、家に帰ってご飯を食べてお風呂入ってまた勉強して寝る生活です。平日にドラマやバラエティー番組を観られるのはテスト返却期間のみで、それ以外はずっと勉強していました。

日々時間が足りませんでした。私が自分で好きなことをしていいと決めていたのは、学校から家に帰るまでの電車に乗っているあいだだけです。この時間にSNSを見たり、気になることを検索していました。だらだらスマホを見てしまうと時間の無駄になり、後で自己嫌悪に陥るので、それ以外の時間は見ないようにしていました。

TwitterやInstagramを開けば、同い年の子たちはちょうど大学1年生で遊びまくっている様子が嫌でも見えます。

私たちは1単位でも落としたら留年。それに5年間のカリキュラムは詰め詰めなので、先生からは「1日でも休めば単位が危ういよ」と言われます。勉強に付いていくことも、体調管理をしっかりすることも、気が抜けない状態でした。この状態がどれだけ過酷か、わかるでしょうか。

いま思うと学生時代によく心が壊れなかったなと思います(うつ症状や過呼吸になったり不安神経症を発症したりしましたが、もっと不調を来していてもおかしくはなかった気がします)。


私も遊んでみたいな。
でも久しく遊んでないから、どう遊んでいいかもわかんないけど。

25分野17個のテストを6日間でやり(赤点は60点ですが、平均的が下回ることもありました)、5年間でいちばん恐れる留年の可能性が高い専攻科1年生の実習を乗り越え、半年間におよぶ専攻科2年生の実習を終えました。そして国家試験。

憧れの学校生活は憧れのまま終わるはずでした。看護高等学校を卒業したら学生生活を送る機会なんてもうないと思っていたので。

でも、運が良かったのか悪かったのかわかりませんが、新卒で看護師にならないことを決めた私は農林大学校でまた学生生活を送ることになりました。

勉強のために諦めてきた部活や友だちと遊んだりすること、そういうことができたんです。その一つひとつが泣きそうになるほどうれしかったんです。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。