クリティカルケアにおいて重要なテーマである「家族ケア」を扱った、新たなマスターピースとして注目されている『救急・ICUナースのための家族ケア』の執筆陣から、代表講師に立野淳子先生、ゲストスピーカーとして、鎌田未来先生、西村祐枝先生、田戸朝美先生お迎えしたオンラインセミナーがこのたびリリースします。
セミナー代表講師をおつとめいただく立野淳子先生(小倉記念病院 クオリティマネジメント課 課長)に、セミナーについてお話を伺いました。
――クリティカルケアにおける「家族ケア」は、限られた時間で、重症患者もかかえて、心理的に不安な状況にある家族に関わるということで、とても難しいと思います。立野さんは現場のスタッフの方が、どのようなところに難しさを感じていると思いますか?
はい、クリティカルケアの特徴だと思いますが、家族と初対面であるっていうことですね。そこが大きなことだと思います。初対面なのに、病状がかなり重篤であると、率直になんて声をかけていいかわからないっていうところが一番にあるんじゃないかと感じています。――なんて声かけたらいいのかわからないっていうのは、もっと掘り下げると――相手の反応に自分がうまく対応できるかどうか、自信がないっていうところもあるかなと思います。
慢性疾患や悪性疾患でずっと入院されていて、面会に何度も来られている方ですと、「こんにちは」という挨拶から入って、何気ないお話もできると思うし、そうなると信頼関係もできて、相手の反応もある程度予測できると思います。
一方で、クリティカルケアっていうのはやはり重症な方もいれば、患者さんも、小児からご高齢の方まで、さまざまな方が来られるし、受傷機転もさまざまです。病院に運ばれる少し前までは元気だった方もいらっしゃいます。そういった患者家族に話しかけて関わろうとは思っているとは思うんですが、そのときに、自分が次になんて応答したらいいかわからないことが、難しさを感じるところじゃないかと思います。
――「家族ケア」に苦手意識を感じている方は、どういったことから勉強すればいいでしょうか?
「経験で学ぶ」っていうことも一つの方法だと思います。先輩たちがどういう風に関わっているか、見て学ぶことです。
もう一つは「ある程度予測を持って関わる」っていうことも大事だと思います。
重症患者さんのご家族がどういう心理状態であるのか、そしてその方々にどう関わるのが一般的なのか、知識とスキルを理解し、身につけたうえで実践してみることもとても大事なんじゃないかなと思います。
それで非常にスムーズにいく家族もいれば、非常に対応に困ったなという家族もきっと経験すると思います。そういったときに「あの家族の反応は何だったんだろうか」「どういう対応を自分はとったのだろうか」と、どなたか一緒に振り返れる方が身近にいると非常にいいんじゃないかなと思っています。
――今回リリースされるセミナーの聴きどころを教えてください。
まず前半の講義では、重症患者さんを抱えるご家族の方々がどういう状況にあるのか知ることができます。それで、その方々にどう関わればいいのか、ヒントが得られるんじゃないかなと思います。
そして、先ほど申しあげた予測的に関わるっていう意味で大事になる、知識の部分も得られると思っています。その知識を実践に生かしてみることに、セミナーをご活用いただけたらと思います。
また後半の座談会では、この領域のエキスパートがいろいろ話しています。実践談の中にも関わり方のヒントが隠れているんじゃないかなと思っています。言葉では言い表せないことも話していると思います。
――確かにそうですね。例えば「怒り」の感情に、「NURSE」の「Name:感情を言葉で示す」は、患者さんの「怒り」に対して、「お怒りなのですね…」とネーミングするわけにもいかず、実践するのは難しいというお話もでました。
それでは、先に刊行されています、書籍はどんな1冊になっていますか? セミナーとの違いについて教えてください。
よくクリティカルケアの「家族ケア」で取り上げられるのは非常に関わりが難しい「特殊状況」をピックアップされがちなんですけれども、本当に大事なのは、「日々の対応」ですね。例えば、週に何日か家族面会時間にいらっしゃるような方だとか、毎日面会に来られたりする方とか、お電話で来院を伝える方とか、そういった日常業務の中での関わりからまず入っていくといいのかなと思います。
今までのセミナーとか書籍は対応の難しい方々にどう関わるのかっていうところにフォーカスが当てられたものが多かったんですけれども、今回の書籍では、そういうところももちろん取り上げてはいるんですけれども、それよりも「日々面会に来られるご家族に私たちはどう対応しますか?」といった基本的なところもしっかり書いています。
初学者の方や、「まだまだクリティカルケアに来たばっかりで、十分な経験がないわ」って思うような方は、まず日々の関わりのところから、書籍ではまず読んでいただきたいなと思っています。そして、ぜひ書籍とセミナー、両方合わせてご覧いただくと、より家族との関わり方がイメージできるんじゃないかなと思います。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
クリティカルケアに携わっている医療従事者って、ご家族や患者さんもそうなんですけど、ご家族と関わる側の私たちも「何と声をかけていいのか……」非常に心理的に負担な部分も抱えていながらも、いいケアをしたいと思うばかりに、「どうしたらいいのか」っていう悩みも多く抱えていらっしゃるんじゃないでしょうか。
ただ、そこで、難しいからといって関わりをやめるのではなくて、皆さんが少しでも関わってくださることが、家族にとっていいケアになるという思いもありますし、患者家族がこころの安寧を取り戻していくケアになっていくと思います。
みんなで一緒にこのクリティカルケア領域の家族ケアを、しっかり質の良いものにするために一緒に頑張っていけたらと思っています。
立野淳子
小倉記念病院 クオリティマネジメント課 課長
急性・重症患者看護専門看護師
▼プログラム
1 なぜ「家族ケア」が必要か (5分)
・イントロダクション
・なぜ家族ケアが必要か?
・重症患者家族が抱える多重ストレス
・ICUでの家族ケアが家族の未来にも影響する
2 家族ケアに役立つ理論とスキル 危機理論・危機モデル (25分)
・危機の考え方
・アギュララの危機モデル
・どうして臨床現場でアギュララのモデルが活用しやすいのか?
・活用事例で理解を深めよう
・step1 情報収集/step2 アセスメント
・step3 問題の明確化/step4 目標と計画立案
3 家族ケアに役立つ理論とスキル 意思決定モデル・ACP (28分)
・3つの意思決定方法のタイプ
・SDM(共同意思決定)のプロセス
・救急・ICUにおいて意思決定支援がなぜ難しいのか?
・患者の自己決定を支援するためのポイント
・家族と話し合いをするときのポイント
・SDMにおけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の位置付け
・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の7つのエレメント
4 家族ケアに役立つ理論とスキル コミュニケーションスキル (18分)
・「告知をする」から「悪い知らせについて話し合う」へ
・治療のゴールを決めるための REMAP
・看護師でも活用できる REMAP
・感情に対応するための NURSE
・コミュニケーションスキルは後天的に身につくスキル
<ディスカッションパート>
*後半は立野先生と救急・ICUのエキスパート(実践者/看護管理者/教育者)それぞれのお立場から、症例ベースで、患者ご家族にとって重要なことをどうとらえていくか、私だったらこうかかわる、こういうかかわりもできたのでは……、などをディスカッションしていただき、受講者が今後のケアに役立てられる提案をいただきます。
5 ディスカッション① 医療者と家族の認識のギャップをどのように埋めるか? (15分)
【症例紹介:鎌田 未来 東京ベイ・浦安市川医療センター】
・医療者と家族の認識に乖離がある!
・誤認にもとづく家族の訴え…「なぜ?」にどう対応する?
・UFOの理論 ~Fill in gaps
6 ディスカッション② 家族からの怒りの感情にどのように対応する? (18分)
【症例紹介:西村 祐枝 岡山市立市民病院】
・ICUの退室拒否「長女は看護師長に強い口調で訴えた」
・看護師は家族の怒りの感情にどのように対応する?
・医療者の心の安寧はどうすればいい?
・みなさんならどのように対応しますか?
7 ディスカッション③ 重症患者家族へのケア ~ニード論をもとに~ (26分)
【ミニレクチャー:田戸 朝美 山口大学大学院】
・患者家族が持つさまざまな感情と状態
・重症患者家族のニード
・情動的コーピングと問題志向的コーピング
・CNS-FACE Ⅱを活用しよう ・ニードを捉えて家族ケアに活かす
・わたしが思う、これが家族のニード
・講義のまとめ
講師の著書のご紹介
日常ケア、特殊状況でのケア、医療者のストレス・ジレンマへの対応までを網羅!
家族の心のケア、精神的支援が実践でわかる
救急・ICUという特殊な環境下での家族への対応は悩ましく、難しい。生命の危機を前に短時間で意思決定が求められるなど、ナースには、さまざまな状況や場面に応じた適切な対応や振る舞いが求められる。日々いのちの危機と向き合う中で、しっかり家族に寄り添い、医療者自身のこころも大切にできる、家族ケアの実践と理論が結びついた渾身の1冊。
発行:2024年1月
サイズ:B5判 256頁
価格:3,740 円(税込)
ISBN:978-4-8404-8447-3