看護管理者にとってスタッフの人事考課は必須の業務であり、公正で公平な評価する能力が求められます。このたび河野秀一 先生(株式会社サフィール 代表取締役)による人事考課・評価の実践ガイド書『看護管理者のための人事考課・評価 基準と手順がわかる実践ガイド』が刊行されました。また、河野先生によるセミナー開催も決定いたしました。
今回は、本書より「評価面談の意義と目的」についてご紹介いたします。これから迫る年度末評価面談に向けておさえておきたい内容です。
評価面談の意義
管理者がスタッフを評価すると、評価結果が出ます。この結果は上司が行った評価ではありますが、内容は評価されたスタッフ本人のものです。評価制度の適切な運用を考えると、その結果をスタッフ本人にフィードバックすることが正しい流れです。
しかし、評価を実施しても結果を伝えない管理者に出会うことがあります。また、病院によっては、評価をしても面談を行わないところもあるようです。厳しく言えば、それは「評価が持つ育成機能を放棄している」とも言え、非常に残念なことです。
一般的に、評価と面談はセットです。1年間を共に同じ部署で大変な思いをして働いてきたメンバーと結果を共有し、話し合う場を設けることは、管理者にとって非常に重要なプロセスです。評価制度において、評価結果を伝える唯一の場が「評価面談」であり、評価面談は今後の成長に向けたスタートとなる機会でもあります。ただ結果を機械的に伝えるだけなら、スタッフを順番に呼び、評価シートという紙切れ1枚を事務的に渡すこともできるでしょう。しかし、その紙切れ1枚に付加価値を与えられるかどうかは管理者次第です。
教育熱心な管理者であれば、評価制度を活用し、面談を効果的に行いたいと考えるはずです。評価制度の最終プロセスである評価面談の内容が、組織マネジメントや評価制度運営に大きな影響を及ぼすのです。
では、なぜ評価面談が重要なのでしょうか。一般的に、評価面談の意義として以下の3つが挙げられます。以下、解説していきます。
1 スタッフの能力開発のため
スタッフは日々の業務遂行を通じて学んだ知識やスキルを現場で活かし、行動することで成果を生み出します。1年という長いスパンの中で、スタッフは新たな知識やスキルをさらに身につける機会があり、その「習熟度」や「できるようになったこと」を評価項目に沿って上司と確認する場が評価面談です。
また、目標管理制度では、目標設定面談の場で、スタッフ本人にとって少し難しめの「ストレッチ目標」を設定し、そのチャレンジする取り組み過程を通じて能力の向上を図るしくみが含まれています。ただし、スタッフ自身が自分の成長度合いを正確に把握することは難しいため、管理者が観察し、「ここが成長している」と伝える場が必要です。面談がなければ、真の能力開発にはつながらないのです
2 評価の納得性を高めるため
評価を実施する際は、基本的にスタッフの自己評価と直属の上司による一次評価の2つの結果が得られます。しかし、人事制度における評価結果が昇給・昇格・賞与などの処遇に反映される際には、上司の評価結果が使用されます。これは、評価に客観性と公正さが求められるためです。自己評価にはどうしても主観が入りやすく、正確な評価が難しいことも多いため、上司とスタッフの評価にギャップが生じることもよくあります。
例えば、スタッフ自身は「できている」と思っていても、上司から見るとまだ基準には到達していないと判断されることもあるでしょう。逆に、上司から見て達成している評価項目について、スタッフが納得しておらず低く自己評価してしまうこともあります。このような上司と部下の間で生じるギャップをそのままにしておくと、スタッフは自身の強みや課題を認識できないまま時がすぎ、次年度を迎えることになってしまいます。
また、面談を行わず、上司から評価結果だけが一方的にスタッフに伝えられたとしたら、どうでしょうか。スタッフにとっては、自己評価とのギャップは明確になりますが、その説明がなければ納得感は低くなります。「なぜこの評価なのか」という客観的な事実や根拠の説明が必要です。上司が部下との face to face の面談で、評価の根拠を真摯に伝えることには大きな意義があります。この場で上司が丁寧に説明することで、自己評価が高い場合でもスタッフは納得感が得られるでしょう。
3 スタッフのモチベーションを高めるため
評価面談には一般的に30分程度が必要とされます。日常的に管理者とスタッフがまとまった時間を取って臨床実践能力について話し合う機会は、評価面談を除けばほとんどないのではないでしょうか。スタッフは、管理者に「自分を見てほしい」「理解してほしい」「認めてほしい」という承認欲求を抱いており、評価面談はこの欲求を満たす貴重な機会となります。普段忙しそうな師長が自分のために時間を割いてくれ、悩みも聞いてもらえることは、スタッフのモチベーションを自然に高める効果があるのです。
面談で管理者が伝える内容には、良い評価もあれば、改善が必要な点も含まれるでしょう。良い評価の場合は、「できたこと」や「成長したこと」をスタッフと確認し、承認欲求が満たされることでモチベーションが向上します。
一方、「できなかったこと」を伝える際には、評価面談における育成の視点が重要になります。基準に達しなかった理由について、なぜできなかったのかを管理者とスタッフが共に原因を分析し、共有することが大切です。また、目標に届かなかったとしても、その過程や取り組み姿勢を評価し、きちんと伝えることも重要です。結果だけでなくプロセスをちゃんと見ていたことを言葉で示すことで、信頼関係が深まります。その上で、今後「どうすればできるようになるか」を話し合うことが効果的です。
また、「どうすればできるようになるか」を話し合う場面では、管理者が答えを与えるティーチングではなく、コーチングスキルを使うことが望ましいです。答えを与えすぎると、その後も指示待ちのスタッフになってしまう可能性があるからです。原因が明らかになり、コーチングによりスタッフが自分の力で今後の見通しを立てられることで、取り組みへの意欲が高まり、モチベーションも向上します。
評価面談は、単に評価結果を伝える場にとどまらず、部下に対してさまざまな影響を与える機会です。基準や評価の根拠を明確にすることで納得感が得られ、これから目指すべき業務の方向性や能力開発について上司と部下が共有感を高める場としての役割も果たしています。
河野秀一
株式会社サフィール 代表取締役
▼プログラム
1.人事考課の基本
・評価のねらい
・評価の類型
・評価の側面
2.人事考課の実際と進め方
・基本原則
・評価のエラー
・評価のポイント
・評価の進め方
3.人事評価面接の実際と進め方
・面接の流れ
・面接のタイプ
・面接スキル
・面接時のポイント
4.ミニワーク 評価者会議
・文章事例を使って模擬ケースを設定し、実際に人事考課を実施していただきます。
・本当に正しく評価できていますか?
5.質疑応答
・皆さまの質問に回答いたします。
・自由記述式の質問用紙を配付いたします。
講師の著書のご紹介
人と組織が伸びるカギは正しい評価にあり!
スタッフの能力を引き出し、辞めない職場をつくるアプローチ
人事考課に必要な評価の知識とスキルを解説
スタッフを正しく評価するためには、印象や感情などの主観ではなく、事実に基づいた客観的で公平・公正な視点を評価者全員が持つことが求められる。看護管理者が陥りやすい評価エラーの傾向を知り、納得性のある考課を行うためのポイントが学べる実践ガイド
発行:2025年2月
サイズ:B5判 152頁
価格:3,300 円(税込)
ISBN:978-4-8404-8761-0