
中医学検定の発起人であり、医師や看護師、医学生を対象とした講義など、中医学を広めるために精力的に活動を行っている今中健二先生をお迎えしまして、 『医療従事者のための中医学入門』セミナーを開催いたします。 講師をおつとめいただく今中健二先生(中医師/神戸大学大学院非常勤講師/中国医学協会会長)に、中医学やセミナーについてお話を伺いました。
――最初に、中医学とはどういうものなのでしょうか?
中医学は、5,000年以上前から中国で行われている伝統医学になります。それは、2,400年前に体系づけられました。体の中には五臓六腑があり、人体の体の仕組みや、それぞれがどういう働きをしているのか、学術的に理論立てられ、医学として完成しました。
特に、病気に至るロジックを重要視していて――それは、中医学では「道(みち)」と表現します。道というのは、「道理」のことです。病気になるのは、すべて道理(原因)があります。例えば、腰周辺にむくみがある場合、だんだん腎臓や膀胱を圧迫していって、尿が出にくくなり、いずれは腎臓の機能が低下し、体のさまざまなところに毒素が溜まっていきます。その結果、他の臓器にも病気を引き起こすことがあります。このように、「全部つながっているものだ」と考え、「道理」を重要視するのが中医学の考え方になります。
一方で、西洋医学では、特に病理変化が起きたタイミングから介入していくことが多いのではないでしょうか。血液検査であったり、病理検査であったり、病気がある部位にどんな細菌があって、何が引き起こされているのか、そこを改善することを重要視します。
――実際、中国では西洋医学はどれくらい入っているのでしょうか?
半分半分くらいです。中国もかつての中国国民党の時代に、西洋化を進める動き――日本で言う文明開化です――がありました。その後、振り返ってみると伝統もとても大切で、中医学を再評価する動きが起こり、現代は西洋医学も半分。中医学も半分。実際、病院にも、西洋医学専門の病院と中国医学専門の病院。両方やっている総合病院があります。
――漢方薬がなじみ深いのかなと思います。漢方薬と中医学の関係を教えてください。
漢方薬は、中医学の中の治療方法の一つになります。治療方法には、さまざまなものがありますが、主に三大療法と言われているものが「漢方薬」そして「鍼灸(針とお灸)」。そして、「按摩推拿(あんますいな)」と言われる、――整体治療とも言われます――ツボ療法。この3つが主に行われる治療方法です。
そして、そこから紐づいているものとして、オイルマッサージや、薬膳料理、アロマテラピーなど、暮らしに密接した環境ケアも手段としてあります。
――看護師が中医学を臨床で活用している事例はありますか?
訪問看護で活用されている方がいます。
中医学を初め習いたてのときには、どちらかというと、先ほどの漢方薬や、薬膳、マッサージのような技術を使いたくなります。もちろん処方権がないから漢方薬は処方できないにしろ、薬膳料理を出しますとか、マッサージをしますとか、自分の仕事の範疇でできることを考えがちです。これは、中医学を学んだ看護師さん「初級レベル」と言えます。
「上級レベル」になってくると、そういった治療法や技術を使わなくても、自然に看護の中に溶け込んできます。例えば、「初級レベル」だったら、高血圧、糖尿病の患者さんに、野菜中心の食べ物をすすめてみたり、効能を期待して大根おろしを出してみたり、ハーブを使った料理を作ったりするのですが……。
もっと根本的なところで改善できることがあります。高血圧、糖尿病、なら全体的に食べる量を減らしたい。お米を食べると、糖質が高くなりカロリーも高くなります。お米を使わないような料理を提案していくことを、さらっとメニューの中に加えていきます。
また、夏であれば、夏野菜中心のメニューにしていくと、体から熱も生まないし、体の血液がサラサラになるような食材を中心に料理を考えてみるみたいなことを――生活、暮らしの中でできることを考えます。
つまり、「何かをしましょう」ではなくて、「自然にそれを行っている」状態です。行動のすべてが中医学になってくるような、活用の仕方です。
それ以外でも、例えば、冷え性の患者さんだと、すでに冷えてしまった状態を体内から温められる薬なんてないわけで、医師も困ってしまいます。ヒーターを使って外部から温めることもできますが、それでは中枢温はなかなか温まらないものです。一番体が温かくなる方法というのは、この小春日和の太陽のエネルギーだったりします。太陽のエネルギーが体の芯から温めてくれます。
カーテンを開けて太陽光を取り込めるような環境を作ってみたり、日光浴ができる暖かいところで、「ここの部屋に来ると暖かいからこっちにおいでよ」と、患者さんに声掛けをしたり、太陽の陽気をチャージすると、体がポカポカになってくることを提案し、環境ケアしていくことも、入院の場面で病棟ナースが行っていることかもしれません。
――お話を伺っていたら、これだったらできそうっていうものもありますね。
そうですよね。学んだことが、自然に溶け込み、暮らしの行動を変えていきます。
ここで活用していることは、看護学校一年生のはじめに習う「環境を変える。環境を整える」ことです。環境にアプローチすること、これを実践できるのが中医学を学んだ看護師さんです。
――すでにやっていることにも、中医学的なものが含まれていたりする?
そうです。エビデンスがあると分かると、「自分の行動」のエビデンスとして身につきます。
「なんで私はこの患者さんに運動をすすめたのだろう?」「なんで日光浴をすすめたのだろう?」「お散歩をすすめたのだろう?」――中医学理論があるから、自信を持ってすすめることができる。患者さんに対しても、理由や根拠を言えるので、行動変容をより促すことができる。これが特徴かもしれないですね。
――中医学入門セミナーはどのような方に受講いただきたいでしょうか?
来る6月29日に『第3回 中医学検定』が行われます。ここを目指すことも一つの目標・目的ではあるのですが……。実際、病院でも漢方薬を処方する医師がとても多くなってきているなかで、そのベースとなっている中医学を学ぶ機会が、実はあまり多くないのです。
中医学を学びたいと思ったときに、学べる機会として鍼灸学校に通う時間もないし、製薬メーカーさんのセミナーに参加することもなかなかできないし、そういう状況のなかで、「中医学を学ぶきっかけになる入門セミナー」を開催したいと思いました。
「中医学って何だろう…?」「自分のスキルの中に一つの選択肢として中医学を取り入れてみたいな」って思っておられる方の扉を開けるセミナーになったらいいなと思っています。
――最後にセミナー参加を検討されている方にメッセージをお願いします。
中国医学っていうものは身につけておくと非常に良い学問です。
「今の自分の仕事の中で患者さんに対して何かできること」っていう視点で行えるのが中医学です。診断から治療のところ、そして治った後のケア・養生のところまでを含めて。一連の流れの中で、体系立てられている医学なのです。この学問を学ぶことによって、医療・ケアの選択肢の幅が広がります。
仕事だけではなくて、皆さんのプライベートの活動でも、ご家族がちょっと体調悪いなぁと思ったときにも活用できます。
さらに、皆さんの興味・関心を持っているスキルを治療・看護に生かしたりできます。「食べることが大好きな方」は薬膳料理というやり方で提供することもできるし、「マッサージを受けるのが好きな方」はもちろんマッサージやツボ療法などを使うこともできる。「アロマが好きだ。運動が好きだって方」はヨガやアロマなどを取り入れることもできます。
自分の興味関心事を、医療と看護に結びつけることができるのです。それが中医学です。ぜひ、セミナーに参加して、自分の中にある何か――今まで興味を持っていたことを紐づけてください。「あ、私ってこんなことができる看護師だった」という、自分発見のためにも参加してもいいですね。
今中健二
中医師・神戸大学大学院非常勤講師/中国医学協会 会長
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『医療従事者のための中医学入門』
▼プログラム
中医学って何だろう…?
東洋医学と漢方と中医学って、なんとなくのイメージはあるかも知れませんが、具体的にイメージしにくいのではないでしょうか。ここで違いについて解説します。
西洋医学 vs. 中医学
一緒に学んで混乱しないの? 西洋医学と中医学の違いについて解説します。
簡単に中医学を学んでみよう
はじめて中医学を学ぶ方へのポイントも解説します。

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