新年度がはじまり、手術室ナースとして新しくスタートされた方や、新たにスタッフを迎え入れる先輩手術室ナースも多くいらっしゃるのではないでしょうか。そんな皆さまにご覧いただきたいセミナーがあります。手術看護特定認定看護師で、SNS(@op.center_of_japan)でもご活躍の松原昌城先生による「手術室看護師の迷いどころトコトン解説」です。今回は、松原昌城先生(医療法人社団英明会 大西脳神経外科病院スペシャリスト)にセミナーについて聞いてみました。




――はじめに自己紹介をかねて、今はどのような病院で働かれているか教えてください。


脳神経外科の単科の専門病院で働いています。170床ちょっとの小さい病院です。手術看護認定看護師の資格だけでなくて、特定行為研修も修了しましたので、手術看護特定認定看護師として、病院の中での教育・指導に携わっています。また、特定行為看護師としては、手術室の中の麻酔管理と病棟の呼吸器患者のRSTラウンドを実施しています。

――「手術室看護師の迷いどころとことん解説」では、一連の流れの中の手術看護についてどっちが正しいのか「vs.形式」で比較しながら解説していくスタイルが印象的です。この狙いや着想について教えてください。


わたしが日頃感じているのは、手術室の中では元になる基礎的な知識があって、そこから派生する「応用の知識」がたくさんあると思っています。その応用の知識を身につけるためには、経験がすごく大事になってくるのではないかと思っています。

その経験をしてもらいたいけれど、なかなか経験を積むことができない人達がどうしても出てきます。例えば、急変の場面を経験したとします、でも、なかなかその場面が、みんな順番に均等に回ってくるわけじゃないです――。その点が臨床教育ですごく難しいところかなと思っています。では、その経験を伝えるためにはどういうふうにしていったらいいのかなっていうところで「vs.形式」を考えました。

そもそもこれを思いついたきっかけがあります。今、6歳の息子がいるのですが、彼は恐竜が大好きです。最初は、(一般的な)「恐竜図鑑」を読んでいたんですけど。あるときから「恐竜図鑑」は読まなくなりました。恐竜の基礎的な知識は身についたのです。

で、今は何を読んでいるかというと、他の出版社さんの本になりますが……『恐竜最強王図鑑』を夢中になって読んでいます。やっぱり基礎的な知識が身についたからこそ、そうやって応用のところに、――いざ恐竜が戦っている様子って、きっと人間は誰も見たことはないと思うんですけど――想像を膨らませながら、応用の知識というところで、『恐竜最強王図鑑』を夢中に読んでいることに気づきました。じゃあそれ、手術看護の教育の中でも使えるんじゃないのかなって思い、今回の比較しながら、とことん解説する発想に至りました。

――親しみやすく、初めての方にはすごく入りやすいのかなと思います。


ありがとうございます。

――今回のセミナーでは、手術室看護経験2~3年目を対象に、ご自身の経験を振り返りながら伝えていただいていると聞いています。今の手術室看護経験2~3年目はどんなところに課題を感じていると思いますか?


先ほども少しお話ししましたが、やっぱり応用の部分の経験を積んでいくっていうところが。手術室看護師は――これ 2~3年目だけに限らず――すごく難しいところなのかなと思っています。なので、そういうところを意識しながら、自分の経験っていうのも伝えるようにしています。

特定行為の術中麻酔管理パッケージの研修を修了して、わたし自身すごく感じるところですけど……。麻酔科の先生がいるから、普段は手術室看護師の基礎知識だけでも安全に手術が終わることができていると、思っています。

でも、これは麻酔科の先生の知識はやっぱりすごくて、その中には、手術室看護師も知っておかないといけないようなことも、たくさんあるのではないのかなと思っています。

でも、現状としては、診療科の手術も、どんどん発達していて、手術室看護師って、特に大学病院や総合病院などに勤めている人たちは、診療科特有の知識は先生たちから現場で言われるから、まだ学べて深めていけます。その一方で、手術室の中でも診療科特有の知識に重きがどんどん置かれてしまうことで、麻酔の知識が基礎的なところにとどまってしまい、麻酔科の先生に任せてしまっているところが多くなっているんじゃないのかなと感じています。

ですから、その基礎的なところのベースを少しでもアップしていけたらいいなと思っています。

――今回のセミナーの聴きどころを教えてください。


「麻酔器の知識」のところが手術室看護師は圧倒的に不足している人が多いと思っています。日頃、毎日のように目にする麻酔器ですが。じゃあ手術中に麻酔器の観察をおこなっている人って実際何パーセントぐらいいるのかな…。

もちろん始業前点検のときに触って、少しでも慣れる機会があるといいのかなと思っています。実際に麻酔器を調整するのは麻酔科の先生の役割ではあると思いますが、麻酔科の先生が不在のタイミングでアラームが鳴ったときに、どこまで麻酔器のアラームを観察して、患者に今何が起こっているのかを麻酔科の先生に伝えられるのかが、手術室看護師として求められることの一つかと思います。特にその麻酔器のところをしっかり聴いてもらえたら嬉しいなと思います。

――松原先生はSNSでも情報を積極的に発信されています。また、セミナーや学会などで講師としてもご活躍です。今、お金を出して学ぶ価値ってどういうところにあると先生はとらえてらっしゃいますか?


無料セミナーとかYouTubeで学ぶっていうのは、やっぱり今多くなっているとは思うのですが……無料セミナーこそ、その裏には何かあるんじゃないのかなとは思っています(笑)。

――無料ほど怖いものはないみたいな……


どうしても無料に人は集まるとは思います――インタビューの回答として、ふさわしいかわからないですけど――無料セミナーのその裏にはやっぱり次ね、お金がかかる何かが潜んでいたりする(笑)。とは個人的には思っていますが、まあそれはいったん置いといて……。

無料と有料セミナーでは参加者の学ぶ姿勢が異なります。そもそも無料セミナーは申し込みしていても参加されない方もいらっしゃいます。一方、有料セミナーは貴重な自分のお金を使って、参加しているので学ぶ姿勢が整っており、同じ内容だったとしても吸収力が違います。例えば、自施設で勉強会を企画していても、質問されることは極わずかだったりします。

一方で、有料セミナーでは、一字一句逃すまいと参加者は目を輝かせながらスライドを凝視しており、行列ができるほど、質問をもらうこともありました。

「お金を出して学ぶ価値」として、大きいのは「学ぶ姿勢が整う」ということではないかと思います。

――最後に、メッセージをお願いします。


手術室看護師は、そもそも人数も少なくて、こういうふうに学んだりする機会も他の一般病棟の看護師さんたちと比べるとすごく少ないのかなと思っています。その中で、わたしが経験してきた知識や技術が少しでも皆さんの実際の現場の中でお役に立つことができたら、嬉しいなと思っています。

わたしが最終的に目指したいところは、全国どこの病院で手術を受けたとしても、質の高い手術看護が提供できるところです。

手術医療は、大学病院と地方の病院では、使える道具が変わることで、質に差が出てくることはあると思います。でも、手術看護は、道具は関係なく、看護師の観察力によるもので、本当は質に差が出てはいけないと思っています。このセミナーをきっかけに、どこの病院でもより質の高い手術看護が提供できたらいいんじゃないかなと思っています。

松原昌城
医療法人社団英明会 大西脳神経外科病院スペシャリスト
手術看護特定認定看護師





オンラインセミナー
『手術室看護師の迷いどころトコトン解説』

▼プログラム


#01 術前訪問
看護師ならではの傾聴とは? 術前訪問の場面をロールプレイを交えて解説します。
はじめに
術前訪問 ルーティン vs 個別性
信頼関係 必要 vs 不要
信頼関係構築のための共感
看護師ならではの傾聴
手術を受ける患者の看護
術前訪問 不安と恐怖
過去に手術を受けたことのある患者への傾聴

#02 麻酔導入時の看護
麻酔の種類・考え方と、看護師が押さえるべき観察ポイントが分かります。
全身麻酔 吸入麻酔 vs 完全静脈麻酔
全身麻酔の要素とバランス麻酔
吸入麻酔薬の考え方・特徴
完全静脈麻酔の定義・特徴
完全静脈麻酔のVライン管理

#03 挿管介助の看護
正しく挿管されたか確認するとき、あなたはどうしていますか? 具体的な手技の動画を交えて解説します。
挿管チューブの使い分け
挿管確認 聴診 vs 二酸化炭素
確認の内容と方法
挿管時の聴診の順番
EtCO₂について
挿管チューブのカフとカフ圧について
「喉押して」と言われたとき
BURP法
輪状軟骨圧迫法
メンデルソン症候群について

#04 麻酔中の看護
麻酔中のモニターと器械出し時のコミュニケーションについて解説します。
TOFモニターについて
EtCO₂高い vs 低い
EtCO₂が変動する要因
モニターの波形の正常と異常
器械出し できる人と怒られる人の違い
テクニカルスキルとノンテクニカルスキル
ノンテクニカルスキルの向上と実践
耳かき理論でみるコミュニケーション

#05 麻酔器の仕組み
麻酔器の仕組みをじっくり学んで、苦手意識を克服しましょう!
麻酔器の仕組みと機能
FIO₂の考え方
麻酔器の仕組みのおさらい
麻酔器のモード 従量式 vs 従圧式
気道内圧の観察と看護
肺保護戦略について
PEEPについて
肺リクルートメントについて

#06 麻酔覚醒時の看護
覚醒の遅延について、原因別に解説します。
吸入麻酔の覚醒と完全静脈麻酔の覚醒
麻酔覚醒遅延の定義と原因
吸入麻酔薬からの覚醒
静脈麻酔薬からの覚醒
麻酔の拮抗薬について
筋弛緩の遅延と拮抗薬
鎮静の遅延と拮抗薬
鎮痛と覚醒遅延
覚醒遅延と脳外科疾患との鑑別
静かな覚醒 vs 興奮した覚醒

#07 麻酔覚醒直後の看護
覚醒直後の大切なポイントである呼吸の評価を中心に解説します。
気道からみる呼吸の評価
カプノグラムによる評価
換気の異常発生時の対応
肺からみる呼吸の評価
移送中の観察
おわりに