
――最初に自己紹介も兼ねて、現在はどのような活動をされているか教えてください。
私は看護師とケアマネージャーという2つの国家資格を持っています。その資格をもとに、介護保険制度が始まった翌年(2001年)に、「フリーステーション」という在宅介護事業を立ち上げました。介護保険を使ったサービスは7〜8年前から少しずつ縮小し、自費の看護サービスを中心に、訪問看護ステーションとケアプランセンターの2つを運営しています。
豊國剛大先生は、兵庫県尼崎市の三和クリニックで院長をされています。詳しい経歴については、先生ご本人からセミナーでお話があると思いますが、在宅医療の専門医としてご活躍されています。
私とのご縁は、日本尊厳死協会の関西支部で理事を務めていた際にご一緒したことがきっかけです。今回、セミナー開催にあたってご協力をお願いしたのも、豊國先生が在宅での療養や看取りに関して深い理解があり、特に看護師との多職種連携において柔軟かつ積極的な姿勢をお持ちの方だからです。若い世代の医師として、最初から「多職種と一緒にやっていく」というスタンスで取り組んでいらっしゃるところに共感し、ぜひご一緒したいとお願いしました。
鮫島さんとは、実はまだお付き合いは浅いのですが、緩和ケア認定看護師の資格をお持ちで、長く緩和ケアに携わってこられた方です。医療保険の枠組みではできないことにも取り組みたいという強い思いから、病院を退職され、半年ほど前に自費事業の会社を立ち上げられました。
彼女は、病院看護師としての豊富な経験がありながらも、在宅での「暮らしを見る看護」にとても関心があり、現在は、私たちのステーションでいくつかのケースに関わっていただいています。「暮らしの質を高める看護」に非常に熱心に取り組まれている方です。
お二人とも年齢的には私の娘・息子世代です。「若い人が良い」というわけではありませんが、時代は変わっていきます。私たちのような経験を積んできた世代にも果たすべき役割はありますが、今の時代に合った取り組みを若い方と一緒に行い、互いに学び合いながらブラッシュアップし、アップデートしていくことが、現場には欠かせないと常々感じています。
――訪問看護を始めたばかりの方にとっても、共感できるところが多い講義になりそうです。
はい、そうですね。豊國先生は、医師としての豊富なご経験を活かして、多職種と連携を取りながら取り組まれた事例についてお話しくださると思います。
鮫島さんは今まさに在宅の現場を経験されているところなので、リアルな感覚で病院との違いなどを語ってくれると思います。訪問看護を始めてみたい方、あるいは始めたばかりで迷いや不安を抱えている方にとっては、とても身近で参考になる内容になるのではないでしょうか。
私からは、ベテランならではの視点でいろいろお話をしたいと思っているので、幅広く学びの多い内容になると思います。
――今回のテーマは「看取り」ですが、訪問看護師として、どんなところに難しさを感じていらっしゃいますか?
そうですね。以前は、看護師やケアマネージャーとして現場に出ながら、会社の業務にも携わっていましたが、実は最近は現場には出ていないんです。離れた理由の一つが、この「看取り」の難しさでした。
訪問看護における看取りは、非常に心のエネルギーを使います。看護師として感情のコントロールが必要な場面も多くなります。しかし同時に事業として運営していく以上、コスト意識や制度上のルールを守る責任もついて回ります。
病院で看護師として働いていた頃には、あまり深く考えなかった部分かもしれません。けれど訪問の現場では、「こうしてあげたい」「ああしてあげたい」という自分の思いや、患者さんの命とどう向き合うかという感情と、実際の制度や経営の現実とのあいだで、常にバランスをとらなければなりません。そのバランスを取ることの難しさに何度も直面しました。
――たしかに、経営者の立場になってみると「気持ち」だけでは成り立たないところもありそうです。
そうですね。たとえば、「法律ではこう決まっているけれど、この人の最期なのだから、これぐらいのことはしてあげたい」と思うこともあります。しかし、やはりプロとして公平性やコンプライアンスを守ることも大切です。
もちろん、現場に立ちながら経営も両立されている方もいらっしゃいますし、必ずしも「役割を分けなければいけない」と考えているわけではありません。ただ、私にとっての難しさはそこにあったので……。
――なるほど……。バランスを取ることの難しさというお話にも少しつながるかと思いますが、今回のセミナーの聞きどころや、どのような学びが得られるかについても教えていただけますでしょうか。
今回のサブテーマを「なんとなくの看取りから、意図ある実践へ」としました。ここでいう「なんとなく」というのは、「いい加減にやっている」といった否定的な意味ではなく、業務に追われる中で、思いや意図があってもつい流されてしまう……そんな「業務としてやっている」部分を表現しています。
今回のセミナーでは、そうした状況のなかでも、「今の自分の行動にはどんな意味があるのか?」という視点をあらためて持ち直すきっかけになればと思っています。
看取りには正解がありません。だからこそ、答えのないものに向き合うために、自分なりの「意図ある実践」を見つけてほしいと願っています。
技術的なスキルを高めるためのセミナーではありませんが、自分の「意図」をはっきり持ち直すことで、結果的に自分自身の負担感や迷いが軽くなる――そんなヒントが得られるような時間にできればと思っています。
――まさに、先ほどのような悩みを軽減できるような内容ですね。
そうですね。やはり「犠牲をつくらないこと」が、今の医療従事者にとって大きなテーマだと思っています。
「私たちは人を助けるためにいるんだから、私たちが我慢すればいい」「つらくても頑張ろう」……そういった考えにどうしてもなってしまいがちですが、私はそうではないと思うんです。
医療者である私たちも、患者さんから人生の学びを得ながら、「この人のために何ができるだろう」と考え、向上心をもって、我慢や犠牲ではなく「真剣さ」をもって取り組んでいく――そんな看護を目指してもらいたいなと思っています。
――本当に「看取り」は一対一の答えがないテーマだと思います。
そうですね。
看取りというのは、ある意味「結果が出ない」ものだと思っています。ご本人が亡くなられた後に、「良かった」「悪かった」といった評価を得ることはできません。
もちろん、ご家族の声を伺うこともひとつの手段ではありますが、それでも100%の答えが出るわけではありません。
例えば、先日、石井富美先生が講義を担当された経営・マネジメントであれば、「利益率が上がった」「稼働率が改善された」といった結果を数字で見ることができますが、看取りにおいては、そうした明確な指標がない。その点もひとつの大きな難しさだと感じています。
――だからこそ、先ほどお話しされていた「意図ある実践」という部分が大事になってくるわけですね。訪問看護を立ち上げて、初めての看取りで印象に残っていることがあれば、ぜひ教えてください。
昔の話にはなりますが、私のステーションで初めて受け入れた「余命宣告を受けた方」のケースが印象に残っています。
その方は、ご自身の意思で「残された時間を自宅で過ごしたい」と希望され、数か月を自宅で過ごすために戻ってこられました。残された時間を本当に大切にされていて、「最後に話したい人」をリストアップし、毎日数人ずつ連絡を取っていましたご家族にも少しずつ手紙を書いて残しながら、日々の病状の波と向き合い、丁寧にやりたいことを積み重ねていかれて……本当に、まるで計算していたかのように、すべてを終えたあとで最期を迎えられたんです。
この経験を通して私が強く感じたのは、訪問看護師として関わる時間というのは、その方の人生の全体から見れば、ほんの一瞬に過ぎないということ。
80年以上生きてこられた方の、たった一か月や数週間という時間。そのわずかな時間だけ、そっと関わらせていただいている。「看取りをする」とか「見届ける」というよりも、むしろその人生の最後の時間に、ほんの少しだけ“お邪魔”させていただいているだけなんだなと感じました。
もちろん、すべての方がそのように最期を迎えられるわけではありません。
「人生の最後の一週間だから、これをしたい」とおっしゃっていたのに、それが叶わないまま……という方もいらっしゃいますし、そうした話をされた翌日に旅立たれる方もいます。
そんななかで、その方は「亡くなった後に何を着せてほしいか」まできちんとご家族に伝えておられて。そのご希望を受けて、私たちが最後にその衣装を着せさせていただいたんです。それもすごく印象に残っています。
――それでは、最後にメッセージをお願いします。
看取りは答えがあって、誰かに評価されるものではありません。人と人との関わりです。だからこそ、セミナーの内容を「どう活用するか」ということ以上に、いろいろな人の話を聞いたり、自分の思いを誰かと共有する機会を多く持つことが、大切だと感じています。
ぜひこのセミナーを、そのきっかけのひとつにしていただければ嬉しいです。
小宮悦子
株式会社フリーステーション 代表取締役
設立25年を迎える株式会社フリーステーション代表を務める。訪問介護事業、居宅介護支援事業、デイサービス、訪問看護ステーションの運営を行う。現在は、訪問看護とケアプランセンターを中心に、看護師同行の旅行サービス「たびさき看護」、企業向けの健康管理支援、両立支援事業など、幅広い分野で活動を展開している。また、公益財団法人日本尊厳死協会 関西支部 理事を務め、主に医療職向けのリビングウイル啓発を担当する。
訪問看護スタッフのための「看取りの実践力」を高める!
配信日:9月10日(水)19時30分~21時
▼<プログラム>
*講義内容は多少変更がある場合がございます
1.看取りの捉え方と“自分たちの看取りの方針”をもつ
・看取りとは? 医療的・倫理的な視点から整理
・自社の方針、どうつくる? 現場でのブレない判断軸をもつ
・かけあいトーク:看取りの最中に迷った経験はありますか?
2.意思決定支援の力
・ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の活かし方
・リビングウイルとは何か? 同意書だけじゃない“会話”の価値
・家族との共有と医師との連携
・かけあいトーク:ACPと現場のギャップ
3.体制の構築
・在宅医との連携、協力病院との役割分担
・地域包括支援センター、ケアマネジャーとの事前調整
・緊急時対応マニュアルの整備
4.一人暮らし・身寄りのない方の看取り支援
・判断をどう支える?
・法的な準備(意思確認・支援者の設定)について
・事例紹介
5.看取りのマネジメント
・訪問看護計画のポイント(ゴール設定について)
・ターミナル加算・看取り介護加算の理解
・記録、評価、フィードバックの工夫
・「看取りをみんなで振り返る」文化づくり
6.講義のまとめと質疑応答
皆さまの質問に回答いたします。
※ZoomのQ&Aボタンよりご質問いただけます。
