ハートナーシング2021年11月号特集「日本一簡単にわかる!心不全の緩和ケア」がWEB講義になって登場です! 緩和ケア全体の考え方から、わかりにくい心不全緩和ケアならではのこと――麻薬、呼吸困難感、ACP、コミュニケーションについて、症例をもとにわかりやすく解説します。
講師の大森崇史 先生(飯塚病院 連携医療・緩和ケア科)にセミナーへの熱い“思い”を語っていただきましたのでどうぞご覧ください。

――「緩和ケア」といえば、ひと昔前は「緩和ケア=がん」っていうイメージでした。それが、昨今「心不全の緩和ケア」はトピックスとしてとても注目されています。その背景をまず教えてください。

そうなんです! 緩和ケアというと「ホスピス」「がん末期」「人生の最期」というイメージがありますよね。それがここ10年、いや5年で急速に心不全の緩和ケアが注目されるようになったんです。

2002年に世界保健機関WHOは「緩和ケア」という言葉を定義しました。そこでは「がん」だけでなく「命を脅かす病」に対して緩和ケアを行おうと宣言されました。

ですが、すぐには心不全の緩和ケアは普及しませんでした。どうしても「緩和ケア=看取り、治療の中止、敗北」のようなイメージが払しょくできなかったのです。

心不全の治療はたしかに発達しました。それでも亡くなる人は亡くなります。 - 心不全の末期にはさまざまな症状があり、それになんとか対処できないだろうか。 - 最期の最期まで治療することは、患者の意思に反してないのだろうか。 - 残される家族とはどうコミュニケーションをとればいいんだろうか。 ……のように、世界中で医療者が「どげんかせんといかん」と、問題として認識していました。

そこで2015年頃から「心不全にも緩和ケアが必要だよねっ!」とアメリカやヨーロッパの心不全ガイドラインで推奨されるようになりました。日本では2018年に発表された心不全のガイドラインで「心不全にも緩和ケアを推奨しましょう」と記載されました。

2020年に循環器病対策推進基本計画が発表され、ここで明確に、国の政策として「循環器病の緩和ケアを推進する」ことが決定しています。

このように、20年の時を経て心不全の緩和ケアを取り組もうという動きが世界中に広がり始めています。

――現場の看護師さんは「心不全緩和ケア」のどんなところに困っていると大森先生は感じていますか?

私が実際に看護師さんから聞くのは以下のような点です。
- 看護師は治療を差し控えたり、緩和ケア中心にしたりするほうがよいと思っているが、医師が治療をし続けて緩和ケア介入を嫌がる
- 患者さんが苦しそうにしているが、自分にはどうしようもできず見ていてつらい
- ACPに取り組もうと思っているが何をすればよいかわからない
- 循環器病棟は忙しく、ゆっくり患者さんや家族の話を聞けない

いやーおっしゃるとおり。私はがんと心不全の両方の緩和ケアに関わっていますが、特に急性期病院における緩和ケア介入は難しいと感じますね。重症心不全の治療・看護をしている人もいれば、緩和ケアを必要としている人も一緒に看護するわけですから、頭の中がごちゃごちゃになってしまうだろうなあと思います。

これも、「心不全は治療が延命にも緩和ケアにもなる」という病気の特徴ゆえの難しさです。

――「緩和ケアはQOLの向上させるアプローチ」という話が講義の中ででてきました。「QOLの向上」は患者さんそれぞれで“ケアができた”という手ごたえを感じるのは難しいと思います。大森先生は患者さんに「緩和ケアが届いた」というところは普段どのように考えていますか?

ぐぬぬ。鋭い質問ですね(笑)。

そうなんです。循環器診療って、あんまり言うと誤解を招くかもしれませんが、爽快なんですよ。心筋梗塞で死ぬほど胸を痛がっていた人がカテーテル治療でスパッとよくなる。心不全で肺のレントゲンが真っ白だった人が、治療を行えば1週間で劇的に復活。そんなドラマチックでダイナミックな医療に慣れてしまってるんですね。ぶっちゃけそれが好きで循環器看護師をやっている方、いるでしょ??

その点、緩和ケアはそうはいかない。例えばモルヒネを使っても息苦しさが取れるのはよくても数割です。完全には取れない。いろいろケアを工夫するけど、患者さんの苦痛は残っている。実際にいろんな研究でも「専門的緩和ケアチームが入っても身体症状は改善しなかった」と報告されていますからね。

それでも、私が緩和ケアを提供してよかったなと感じる瞬間があって、それは「ACP」です。もっと具体的に言えば「患者さんが、自分自身が過ごしたい過ごし方を考えて、納得し受け入れること」です。

こういうこと言うと無責任かもしれませんが、死から逃げることはできませんから、いつかは受けいれないといけません。それは患者さんを説得させるのではなくて、症状緩和やコミュニケーション、医療者と患者の関係性など緩和ケアの要素がそろって初めて実現できるものだと考えています。

症状緩和に取り組んで、繰り返しの話し合いの中で、患者さんと昔話をしたり、自分が大切にしているものを聞いたり。その中でふと患者さんが「ああ、これまで生きてきてよかった」「自分は残った時間、こうやって生きたい」 とつぶやいて表情がゆるむ時、私は「緩和ケアが届いたな」と感じます。

――今回の講義で大森先生が伝えたいことを教えてください。

心不全の緩和ケアは、だれでも実践できます! その一点です!

――「心不全の~」と銘打っていますが、緩和ケアのベーシックにも触れておられます。「緩和ケア」に興味があるさまざまな方にも見ていただきたいと感じましたが…

鋭いご質問ありがとうございます!

おっしゃるとおり、専門や働く場所を問わず、すべての看護師さんに見てもらいたいですね。あ、これは言いすぎですかね。

緩和ケアには共通することがあって、これはCOPDや認知症など他の病気にも通じるところはあります。特に非がんの末期看護に関わる方には参考になる内容も多いのではないかと感じています!

――最後に受講者へメッセージをお願いします!

緩和ケア提供の中心は医師ではなく、看護師だと確信しています!
今回の特集や動画が、みなさまの看護の参考になれば幸いです!

大森崇史
飯塚病院 連携医療・緩和ケア科





『何をする? 何ができる? 心不全緩和ケア 最初の第一歩』
「緩和ケアのベーシック」と「心不全ならではのかかわり方」

▼プログラム
1)緩和ケアとは? ~トータルペインについて
2)緩和ケアニーズを評価する3つのタイミング
3)症状評価ツール IPOSを使用できる
4)呼吸困難感の緩和ケア
5)コミュニケーションスキル 3つの型
6)ACP(アドバンス・ケア・プランニング)


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