●執筆
北村暁子
あいち小児保健医療総合センター整形外科

病態

発育性股関節形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)は、歴史的に先天性股関節脱臼とよばれていました。現在は、真の股関節脱臼から亜脱臼、骨頭の求心性は良いが臼蓋による骨頭被覆が不十分な臼蓋形成不全までの一連の広い病態をDDHと総称するようになりました。

病因は、遺伝的要因と環境的要因があります。家族歴のある場合や女児は、遺伝的に骨盤形態が似るためDDHリスクが高いとされています1)

環境的要因としては、骨盤位などでの子宮内肢位や下肢伸展位での育児が挙げられます。開排位での自由な下肢運動が妨げられると股関節脱臼につながりやすいので、股関節や膝関節を伸ばした状態でのおくるみや、足を動かしにくい衣服は注意が必要です2)【図1】


【図1】下肢を伸ばした状態のおくるみは避けましょう

診断・検査方法

診断


日本小児整形外科学会では、乳児股関節健診推奨項目として、①股関節開排制限、②大腿/鼡径部皮膚溝の非対称、③家族歴、④女児、⑤骨盤位を挙げています。健診などで①がある場合や②~⑤のうち2つ以上当てはまる場合には、DDHを疑うため整形外科へ紹介となります。

DDH 診断にはX線撮影がもっとも一般的に用いられており、股関節全体の発育や治療効果を確認することができます。

近年は超音波診断法(Graf法)を行う施設が徐々に増えてきています。被曝がなく無侵襲のうえ、X線撮影で描出できない軟骨などを描出できるため、月齢が小さい児でとくに有用です。

治療

DDHの治療方針は各施設によっていくつかのバリエーションがあります2)。当施設では以下の方針で行っています3)

生後2カ月ごろまでは、治療を要する脱臼に移行しないよう予防することがもっとも重要です。向き癖がある場合は、対側の下肢運動が制限されやすいため、タオルなどで矯正することがあります【図2】 。股関節運動を制限しないようなオムツや衣服の使用、開排位でのコアラ抱っこなどの育児指導も行います。


【図2】向き癖改善の方法
児が向いている側の肩から骨盤にかけてタオルを入れて補正し、下肢の重みで自然と開排されるように体勢を整える。



リーメンビューゲル(Rb)


生後3カ月以降に治療を要するDDHと診断された場合は、リーメンビューゲル(Rb)を用います。Rbは、股関節開排位のまま下肢の自動運動が促進されることで整復位を得る装具です。開排し過ぎると大腿骨頭壊死を誘発するため、整復位が確認できたらタオルなどで過開排を防ぐようにします。この治療は原則として外来通院で行い、整復率は80~90%です。



オーバーヘッドトラクション(OHT)法


生後6カ月以降の診断例やRbでの整復困難例は、生後7カ月以降でオーバーヘッドトラクション(OHT)法による牽引整復を行います。

OHTでは、はじめに水平牽引を行います。数日の教育入院で看護師が家族に管理方法を指導し、家族が手技を獲得したら貸出用機材を用いて自宅での牽引治療を継続します【図3、4】


【図3】看護師による家族への指導



【図4】自宅での牽引治療


毎日1時間のフリータイムと入浴時には牽引を外して皮膚トラブルの有無をチェックします。4週間水平牽引を行ったのち再入院して垂直牽引を行い、そのまま徐々に外転を強めていきます【図5】。70°の外転ができたら、大腿部のみの牽引で膝屈曲位とします。垂直牽引以降は除去しての入浴はできません。


【図5】オーバーヘッドトラクション
垂直牽引から徐々に外転を強めている状態。

予後のポイント

治療後の留意点


乳幼児期のDDH治療に対して特別なリハビリは不要です。RbやOHT後の装具装着期間に下肢運動発達が停滞しても、除去後に改善します。しかし、治療後も運動発達が進まずDDH以外の要因が疑われる場合は、小児科診察を検討します。遺残性亜脱臼や臼蓋形成不全、骨頭変形による脚長差などが残存する場合は、補正手術を行うことがあります【図6】


【図6】Rb治療後の骨頭壊死による変形、脚長差
左大腿骨頭の変形(○)があり、左下肢が短いため骨盤が左へ傾く。



成人と比較して患児・家族に必要なケア


乳幼児期から小児期の治療は、変形性股関節症に至らないようにすることが目標です。発育性股関節形成不全の診断・治療を受けた児は、成長期が終了するまでは定期的に受診し、経過を診ることが必要です。患児は痛みなどの自覚症状がないことが多いので、患児・家族とも治療効果を実感しづらいですが、長期的な視点でケアにあたることが望ましいです。

<引用・参考文献>
1)Ortiz, N. et al. A meta‒analysis of common risk factors associated with the diagnosis of developmental dysplasia of the hip in newborns. Eur J Radiol. 81(3), 2012, 344‒51.
2)青木清ほか.DDH における最近の進歩.日本整形外科学会雑誌.95(11).2021,967‒75.
3)服部義.“overhead traction 法”.先天性股関節脱臼の診断と治療.東京,メジカルビュー社,2014,52‒62.



本記事は『整形外科看護』2022年8月号からの再掲載です。


整形外科看護2022年8月号

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■1 硬膜外血腫
■2 術後脱臼
■3 静脈血栓塞栓症(VTE)
■4 コンパートメント症候群
■5 四肢末梢神経障害
■6 手術部位感染
■7 全身合併症
■8 髄液漏
■9 術後せん妄

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子どもの治療とケア


■1 子どもの診察を行うポイント
■2 上腕骨顆上骨折
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