みなさん、こんにちは。
前回の記事では「傾聴と対話」について書きました。

精神科訪問看護の現場での流れを作るのは実感できましたでしょうか? 回数を重ねていくときっと体感できるはずです。さて今回は「自分の理解」について書いていきます。

自分ってなんだ?

看護をするうえで、患者さんのアセスメントって、すごく大事ですよね。精神科においても成育歴からはじまって、その人の考え方の癖、ストレングス、大事にしていること、またその人を取り巻く環境の問題など多く情報で「その人」をアセスメントし、理解しようとしていきますよね。そのあとに計画立案というふうになりますね。

では、あなた自分自身についてはどうでしょうか? 自分ってどんな人間だろうって考えたことありますか?

学生のときの精神科実習で、プロセスレコードを記載したことがあると思います。「なぜ患者さんはこんなふうに発言したのか?」や「なぜこんな行動をしたのか?」と患者さんについての記入する枠がありましたよね。そして、その横に「看護師の言動」を記載する場所があったはずです。実はそこがかなり大事な箇所なんです。「なぜ私はこんなふうに感じたのかな?」「なぜ陰性感情が出たのかな?」など、じっくり考えたことはありますか? ほかの看護師が「まあ、様子をみようか」と考える場面でも、自分だけはすぐに結果を出したい、すぐに患者さんに行動してほしいと思ったことなどありませんか?

患者さんと同じで、看護師である自分たちも「人」ですよね。だから成育歴や環境・考え方など、みんな、人それぞれです。自分自身を知ることがなぜ大切か、精神科訪問看護において、なぜ「自分ってなんだ?」が重要なのかを、今からお伝えしていきたいと思います。

自分の理解がなぜ精神科訪問看護に大事なのか?

前回の「傾聴と対話」では、「対話」は効果を意識して内容を進めていくとお伝えしました。その際に「自分の理解」があるのとないのではまったく効果が変わってきます

たとえば、患者さんが「人間関係で悩んでいて、仕事に行きたくない」とあなたに打ち明けたとします。一瞬、頭に「人間関係なんかむずかしくて当たり前。逃げたらだめでしょ」と浮かぶ看護師は、幼少期に逃げないで立ち向かうように教わったのかもしれません。また学生時代に部活で全国大会に向けてがんばった経験がある人かもしれません。看護師になってつらいことがあったけれど、がんばって今がある人かもしれません。

逆に、「わかるー! 嫌ならやめて、もっとよいこと探したほうがいいよね」と同意できる看護師もいると思います。その人は、もしかしたら過去に我慢をしすぎて、うつになったことがあるのかもしれません。また親から「無理をせずにあなたらしく生きるのがよい」と言われて育ったのかもしれません。またどちらであっても、もともとの素因からかもしれません。いずれにしても、対話をするときに患者さんからのひとこと目を聞いてあなたの頭に浮かんでくる「自動思考」は、自身の素因や経験からくる特徴といえます。

患者さんは、看護師との対話の際に、看護師という「フィルター」を通して自分の気持ちに気が付いたり、整理をしたりします。そしてそのフィルターは、看護師の自分の理解によって厚みや濃さを変えることができると、私は考えています。ネガテイブに考える癖のある看護師は、自分を理解していると「あ、この陰性感情は私の癖だから、患者さんが前向きにいけるように意識して返事をしよう」と考えることができます。

また成功体験が多かった看護師なら、「強引に挑戦したらいけるかもれない」と無理に職場に通い続けるよう、患者さんへ勧めてしまうこともあるかがしれません。そんなときは、「私はいつも強引に勧めてしまうから、患者さんの様子も見ながら判断したほうがいいな」と気がつきます。そんなときは「〇〇さんはどう思いますか? 私は大丈夫ではないかと思うのですが、それは私の考えが強引なところがあるからかもしれません。それは今までの経験で、強引すすめてなんとか乗り越えられたことがあったからなんですが……」と自己開示しながら、話を進めてもよいと思います。その内容を聞いて、患者さんがまた自分の思っていることを打ちあけてくれかもしれません。

自分を知ると最初衝撃だけど、きっと幸せを感じる

このように書いてきましたが、私は、自分を理解することは、精神科訪問看護の場面で役に立つ以上に、自分が幸せになるんじゃないかと感じています。なぜなら自分がそうだからです。

私は自分で自分をしっかりしていて強い人間だと、ずっと思ってきました。しかしこの自分の理解に焦点を当てる作業をしていくうちに、自分の問題に気が付きました。そしてそれをひも解いていくと、自分の幼少期の環境や体験が影響していることに気づきました。そのときの、自分がぐらぐらだと気付いたときの衝撃は、今も忘れません。しばらくの間、少し抑うつ傾向になり、カウンセリングをはしごしました。そして自分の考え方の癖などを、カウンセラーさんといっしょに確認しました。精神科訪問看護の場面での自分の自動思考の癖も、そのときにかなり意識して学びました。

そんな衝撃をほんの数年前に味わいましたが、でもわかってよかったと思います。それまでは自分がわからないので、対話の際になんとなくぼやっとしたまま進めていました。しかし自分の理解がしっかりとできた今、自分の見せ方や、俯瞰して冷静に見てみることもできるようになりました。なにより幸せを感じるようになったのですが、一皮むけてすがすがしいのかもしれません。自分の理解は、自分に戻ってきますね。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。